第2話 棺の少年②

「ヒヒヒヒ」

 フレッドが、さり気なく足払いをかけ、屍はセルマの前に倒れ込んだ。


「えいっ!」

 セルマは目をつぶってスコップを打ち下ろした。鈍い手応えがあり、何かがずるずると這いながら去っていく音がした。

「ウウウゥ」

 ジェイさんは倒れた墓石をよいしょと起こしては直して回っていた。


 ほっとする間もなく、ワイワイガヤガヤと声が聞こえて来た。次の屍達が起きてきたのだ。

「やだ、この仕事。」

 セルマは暗い夜空をあおいで嘆いた。

 

……と、思っていたのは半年前のこと。今では首無し男の背中を平気で蹴り飛ばして墓に押し戻すようになっていた。何事も慣れというものは恐ろしい。


※※※※※※※※※※


 目が覚めると、日はすでに高かった。セルマは大きく伸びをして起き上がった。寝るのが遅いから、起きるのは昼近くになる。いつもこんな具合だ。


 台所に行って、戸棚からパンを取り出して、ハチミツを塗って頬張った。お茶は自分で入れる。鍋にスープが用意されており、温めれば食べられるようになっていた。フレッドが作ったものだ。

 彼は手先が器用で、料理洗濯裁縫もこなす優れものだった。

 欠点は、いつの間にか背後にいて、ヒヒヒヒヒと、ちょっと不気味な笑い声を立てることだ。ただ、悪気がないということは理解している。


 食べ終わると、セルマは外に出て二人の様子を見に行った。ジェイさんは墓石や石柱の整頓をしていた。彼は片手で馬車を持ち上げる程の力持ちで、その才能は重たい石を何個もまとめて運ぶのに、役立った。

 フレッドはその傍らで柵や生け垣の修復をしていた。彼の器用さはここでも遺憾いかんなく発揮はっきされていた。

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