第2話 棺の少年①

 真夜中、静まり返った墓地に、鐘の音が響く。その数十二回。鐘は十二時と三時の二回鳴らされる。く者を誰も見たことがない。そのため"幽霊の鐘"と呼ばれている。王立墓地七不思議その一。

 と、昼間斜め読みした指示書の豆知識に書かれてあった。まったく、屍がうろつく墓場に、七不思議もへったくれもないじゃないの。

 その時、カランカランと鐘が十二回鳴った。セルマは、鬱々とした気分で椅子から立ち上がった。見回りの時間だった。


 外に出ると、ジェイさんとフレッドがすでに納屋の前で待っていた。

「ジェイさん、フレッド出かけるよ。」

「ウウウ」

「ヒヒヒ」

 セルマは左手にランプを携え、右手に杖……やはり、どう見てもスコップを握りしめて、墓地の道を歩き始めた。


 むくむくと盛り上がった土の山が、そこかしこに出来ていた。モグラの穴にしては大きすぎる。やがて、あちこちから、くぐもったうなり声が聞こえ出した。

「ひぃっ」

 すぐ脇の土の山から一本の干からびた腕が突き出して、セルマは思わず声を上げた。続いてぼさぼさ頭のしかばねがパラパラと土を落としながら、這い出そうとしてきた。

 セルマは我に返り、びくびくしながら近づいて、おっかなびっくりスコップの先で突っついた。屍はびくりと体を震わすと、あわてて穴の中に引っ込んだ。


「ケケケケケ」

 こんどは斜め右前の方から笑い声が聞こえた。顔を向けると、別の屍が髪を振り乱してこちらに小走りでやって来るところだった。


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