第1話 墓の魔女④

 管理官の話によると、ここには眠っている遺体は、この世に何らかの未練を持っている者たちとのことだった。墓から起き上がって畑を荒らしたり、他の死体を起こして、一緒に村の中を歩き回って騒いだり、他人の家の晩御飯にお邪魔したり、と国内で苦情が出ている者たちを集めているのだ。


「まあ、筋金入りの怨霊って訳ではなく、しばらくすると静かになってしまうんですけどね。ただ、中途半端に暴れるものだから、却って扱いが面倒で、ここにまとめて埋めているという訳なんですよ。」


 管理官は立ち上がると、暖炉の上のケースから中身を取り出し、セルマに渡した。

「杖です。これで死体の体に触れると墓に戻ります。一度で戻らない場合は何回か叩いてみてください。見回りの時に使ってください。」

 渡されたものは、やや小ぶりの銀のスコップだった。どうみても杖には見えない。


「あの、さっきから"見回り"っておっしゃってますけど、一体どういうことですか?」

 セルマが訊いた。管理官はさらりと答えた。

「夜の見回りのことです。時間は12時と3時に一回ずつ。放っておくと、墓地の中を荒らすので、起き上がっている者を見かけたら、それを使って、墓に追い戻してください。」

 

 この墓穴も掘れないようなスコップを持って、夜中に墓場を回れと言うの?セルマは大いに不安を覚えた。管理官は、そんな彼女の様子を察したようだった。


「もちろん、お一人でとは申しません。手伝いの者が二人おります。慣れた者達ですので、何なりとお申し付け下さい。頼りになる者たちです。」

 そう言うと、セルマを納屋へと案内した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る