第1話 墓の魔女③

「こちらにどうぞ。」

 朝食後、案内された墓地の中は惨憺さんたんたるものだった。広い敷地のあちこちに、投げ出された新旧の墓石がごろごろと転がっていた。花壇は踏み荒らされ、装飾用の石柱や彫像も打ち倒されている。おそらく、昨日の乱痴気騒ぎのせいだ。


「ご覧の有り様です。前任者が辞めてから、夜の見回りがないものですから、連中、好き放題に暴れまして。」

 中継ぎ管理官はため息をついた。

「夜の見回りって?」

 セルマの頬が引きつった。

「指示書の五ページ目に載っています。詳しくは着いてから、お話ししましょう。」


 二人は墓地の中央に立つ小さな家に向かった。そこは管理人の住まいで、周囲より小高い所に立ててあり、墓地が見渡せるようになっていた。家の側にはもう一つ、小さな納屋があった。


「良かった。ここは荒らされなかったみたいです。まあ、鍵をかけておいたので大丈夫だろうとは思ったのですが、万一ということもありますからね。」

 家の中を見て、管理官は安堵した口調で話した。

「ここに住むんですか?」

「はい。」

「そ、外の詰め所じゃ駄目なんですか?」

「あそこは私が王都へ帰る時に閉鎖することになっています。それに、見回りもありますし。」

「見回りって……さっきもおっしゃってましたよね?」

「まあ、立ち話も何ですから、どうぞこちらへ。」

 管理官はセルマを居間へと案内した。

「もう、おわかりでしょうが」

 彼はセルマが座るのを見計らって話し出した。

「ここは、普通の墓地じゃないんです。動き回る死体を集めた墓地なんです。」

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