第4章 星を探して
「おら、立てって!」
響は憂鬱だった。憂鬱すぎて、頭が漬物石のように重たい。自分で立ち上がることができない。
「響!」
野太い声が飛んでくる。響は今日も投げられている。
「おー、少年、昨日ぶり」
百貨店に併設されているバスターミナルで、響はカチコチに固まっていた。
「乗ってもいいが、十一時までに降りられるか?」
無駄金を使う前に、響は降参する。
「このかばちが!」
「今回も何もなくてよかったよ、響君」
響は畳に背中を預け、道場の天井を見た。左頬がヒリヒリと痛む。失敗するのはこれで――
「十九回目だな」
兄に言われなくとも、わかっていた。
チチチ、と鳥が鳴いている。どんな鳥なのか、今日も見ることはできない。鬱蒼と生い茂るジャングルの中で目覚めたみたいだ。少女はそう思った。生き物の気配が、その密度が濃すぎて、息苦しいのだ。
顔を洗って、アイロンがしっかりとかけられた制服に着替えた。髪をとかし、二つのおさげを手早く結った。鏡の前でパチパチと瞬きして、今日も自分に元気がないことを確認した。
「おはようございます」
「お嬢、おはようございます」
「お嬢」
座敷の間へ行く途中にも、たくさんのスーツ男がいる。少女はその全てを無視して歩く。朝の七時だというのに、この家にはいったい何人の男がいるのだろう。
「おはようございます、お嬢」
座敷の間の入り口で待っていたのはミロクだった。ひょろ長い声で挨拶したかと思うと、さっと襖を引いてくれた。
「ありがと、ミロク」
お決まりの言葉を口にして、少女は部屋の中に入る。十二畳の大きな和室に、二十人ほどが席を囲める黒い机と、黒い椅子がある。襖をそっとしめたミロクが、そっと後をついて来る。そして、少女が席につくのにあわせ、音を立てずに椅子をひく。
「おぉ、おはよう」
大きな机の一番端、上座に座っていた父親が、新聞の影から日の出のように顔を見せた。脂っこい声で、少女は朝から胸やけを覚えた。
「おはよう」
小さな声でミロクにありがと、と言いながら椅子に腰掛ける。座ったのは一番下座だ。父親との距離が遠すぎて、顔がやっと見えるくらいだ。だが、それでいい。それがいい。
背後でミロクが音もなく動いているのを感じる。その、何らかの合図を受け取って、別のスーツ男が朝食を運んでくる。黒いお盆に、炊き立ての白飯、湯気の立ち上るしじみ汁、ふわふわの卵焼き、香ばしい匂いの鮭の塩焼き、小鉢に入ったナスのおひたしが乗っている。
「お嬢、朝ご飯です」
朝食を置いてくれたのは、ゴリラのような顔をした男だった。お盆から手を離すと、今度は湯呑ときゅうすを持ってきて、熱々のお茶を注いでくれる。
「いただきます」
ゴリラが下がっていったので、少女は白百合のような手を合わせ、独り言のように呟いた。上品な動作で箸と茶碗を持ち、ゆらゆらと白い線が立ち上る白米をつまんだ。小さな口に米を含むと、左手の茶碗をおろし、しじみ汁に持ち替えた。
何の味もしなくて、少女は顔をしかめた。
ふっくらと炊き上げられた米も、貝の出汁がしみこんだ味噌汁も、何の味もしない。味のないガムをひたすら噛み続け、泥水で喉を潤している気分だ。
「おいしいか」
自分の中では眉間にシワを寄せているつもりなのだが、父親はちっとも気付かないようだ。新聞をたたみ、こちらをニコニコ顔で眺めている。だるんだるんにゆるんだ浴衣から、大きすぎる腹が見え隠れしている。
「……はい」
少女は痺れる舌でなんとか答えた。
父親はそれだけで満足そうに笑った。しかし、
「でも、食欲がないの。残していい?」
少女がそう付け加えたとたん、その顔がさっと曇った。そして、火にかけたヤカンのようにみるみる真っ赤になっていく。
「ワシが出したもんを食べんというのか!お前は!」
新聞紙をビリビリに引き裂いて、父親は怒鳴った。
後ろで待機しているゴリラがゴクリと唾を飲んだ。少女のところまで聞こえてくるくらい、大きな音だった。
「お前が健康に育つように、ワシが産地から調味料まで厳選して選んだ飯だぞ!あ?どれだけの時間をかけて、これを選んだと思っとるんだ!え!」
少女は目をつむって耐える。何メートルも離れているのに、耳元で怒鳴られている錯覚に陥る。一度怒り出した父親は、警察でも自衛隊でも止められない。
「それを食べ終えるまで、部屋からは出さんぞ!絶対に出さん!ミロク!」
父親は少女の後方を指さすと、ものすごい剣幕で立ち上がった。怒りのままに椅子を蹴り倒し、部屋を後にした。
「はい、心得ております」
ミロクだけは冷静だった。いつものひょろ長い声で、座敷から出て行く父親に応えた。
「お嬢――」
「わかってる」
少女は震えながら答えた。努めて平気なふりをしながら、続きを食べ始めた。座敷にはしばらく、箸と茶碗がカチャカチャ鳴る音が響いていた。
「おぉ、ちゃんと食べたのか」
食事を終え、玄関に向かおうとした時、背中から脂っこい声をかけられた。見えない糸に背を引かれ、少女は魂の無い操り人形のように振り返った。
「はい」
「そうかそうか、さっきはすまなかった。お前のことが心配で、つい大きな声になってしまって……」
「ううん、パパ、私がいけなかったの。ごめんなさい」
自分を殺すのはこれで何度目だろうか、少女は謝った。
「お前はやはりいい子だ。とびきりいい子だ……」
父親は両手を揉みしだきながら笑っていた。うすら寒いものを感じながら、少女は感謝の念があふれ出しますように、と自分の体におまじないをかけた。
「そんなお前に、いい話を持ってきた」
予期せぬ朗報の予報だった。少女は反射的に通学カバンを握りしめた。
「東京の方で仕事をしておられる、ヤマダさんという方がいらっしゃるんだがな。その方の息子さんが、もうすぐ十八になるらしい」
「え……?」
少女はカバンを取り落とした。
「それがな、ヤマダさんの息子さんにはまだ彼女がおらんらしい。そこで――」
父親が何を言っているのか、全然頭に入ってこなかった。一キロ以上離れたところから拡声器で語り掛けられたように、わんわんと頭の中で反響していた。
「――いや、なに、悪い話じゃない。東京に行けるんだぞ、東京に」
「昨日は何時までいけたの?」
「十一時」
「残念、記録更新ならず!」
「うっせ!」
学校までの登り坂を、響はとぼとぼと歩いている。隣にいるクス子にからかわれ、腹が立つやら恥ずかしいやら、考えがまとまらない。
「まーまー、扇いだげよっか?」
「いーよ、おかまいなく……あっ?」
上品な重低音に押され、右腕が浮いた。これだけの風圧を生み出すものといえば、この学校には一つしかない。
「んー、今日もすごいねぇ」
扇子をパタパタさせながら、クス子が感嘆の声を漏らした。
黒のセダンによる登校は、もはや彼らにとって日常の一部になりつつある。それでも、その豪華さに目を奪われ、妬みや畏怖の対象にする生徒は後を絶たない。
「あぁ……そうだな……」
一方の響は、うわの空で答えていた。別に、日差しが一段と暑いとか、いいかげんセミの鳴き声に飽きてきたとか、そんなありきたりなことを考えていたのではない。
黒いセダンに追い抜かれる瞬間、見えたのだ。
少女の、美しく、儚く、今にも壊れてしまいそうな横顔が。まるで、この世界そのものに押しつぶされてしまいそうな、そんな危うさを感じていた。
昼休み、響は珍しく体育館の方に来ていた。木曜日だけは、柔道部の昼練が休みなのだ。ここぞとばかりに体育館周りのスペースでくつろげる。
最終的に選んだのは、体育館の裏にある外階段だ。普通の生徒は道場の前にある階段を利用するため、こちらは半ば忘れ去られたようになっている。下から覗き込んでみると、やはり誰もいない。響はウキウキしながら階段を駆け上った。
しかし、踊り場まで行ってみると、そこには先客がいた。昨日も会った女子生徒だ。踊り場から一段上のところに腰掛けていた。昨日と同じようにぴっちりとした格好で、ハートのアクセントの入った靴下で、黒髪のおさげで。唯一違うのは、透き通るような声で歌っていないことだ。メンテナンスを忘れられた鳩時計のように、小さな口が固く閉ざされていた。
「なんだ、今日は歌ってねえんだ」
響は階段を上りながら言った。少女がビクッと飛び跳ねるのを尻目に、隣に腰掛けた。
「また君ぃ……?な、なんか増えてる!?」
当初、少女の表情は腐ったカレーを見た時のそれだった。人を見る時の目ではなかった。だが、幸いなことに少女はすぐにすっとんきょうな声を上げた。それもそのはず、響は昨日右頬にしか貼っていなかった絆創膏を、反対側の頬にも追加していたのだ。
「ん、あぁ。昨日は右だけだったからな。はがすよ……イテテ」
響はごつごつした手で右頬の絆創膏をはがしにかかった。最初はピリピリと音を立て、最後は気持ちいいくらいの思い切りの良さで、ベッと地面に投げ捨てた。
「もー、なんなの。来ないでって言ってるのに」
ガムのように丸められた絆創膏を見つめながら、少女は唇を尖らせた。腹を立てたフグのようだと、響は思った。
「だから来るつもりねえんだって。たまたまサボった先に……あっ、あいつがオレの前に出てくんのはそういうことか!」
響は勝手に納得して、右手の拳で左手を叩いた。タケダの謎の追跡術は、ここに通ずるものがあったのか。
「よくわかんないけど、君、もう来ないほうがいいよ」
「なんで」
「なんでって……君、まさか知らないの?」
「お前が白崎組の一人娘だって?」
ズバリ言ってのけると、少女はハッと息を飲んだ。あまり面と向かって言われた経験がないのだろうか、いや、たしかに学校で彼女に話しかけている人物を響は見たことがない。
「高校生にもなって街唯一のヤクザを知らねえ奴なんていねえって」
「だったらなおさら、関わらないようにするんじゃない?」
少女は眉間にシワを寄せ、痛烈に睨みつけてきた。怒っているというよりは、響のことを大変な変人だと疑っているようだった。
「普通はそうなんだろうな。親にも言われてるし。でもしかたねえだろ、ここ使えんのは今日だけだし」
「はぁ〜?」
今度は呆れた表情で、小さな口をあんぐりと開けている。澄んだ声で空気が震え、おさげをゆらしている。
「柔道部休みなんだよ!今日!」
「何よもう……心配して言ってるのに」
最後は顔を赤くしながら、小さな声で何かをつぶやいていた。
少女の言葉を聞き取れなかった響は、胡乱そうに振り向いた。
「はい?」
「もう、知らない!」
はちきれんばかりの大声で怒鳴られ、響は両耳をぱっと塞いだ。
「なんだよ……」
女の子ってコロコロと表情が変わる。怒ってんのか、疑ってんのか、呆れてんのか、それともやっぱり怒ってんのか……いや、もしかしたら全部本心なのでは?だとしたら早すぎる。感情の切り替えスイッチがぶっ壊れてしまいそうだ。少なくとも、自分のはそんなに素早く押し切りできない――響の頭の中は、万華鏡のように変わる少女の表情で大忙しだ。
「ねえ」
頭を抱えていると、上の方から声が聞こえた。雲の上から話しかけてきたような、遠いとおい声だった。
「あん?」
顔を上げた響の視界に、少女の横顔が飛び込んでくる。その表情がやけに切羽詰まっていて、響はつい、見入ってしまう。
「君、家出の達人なんだよね」
少女は苦しそうに言った。チューブに残った最後の感情を、一生懸命に絞り出すかのようだった。
「は?……何を――」
「家出の達人だって、隣の女の子が言ってたじゃない!」
響は若干顔を引いた。声が小さいな、と思って聞き返しただけなのに、今度はなりふり構わず叫び出したのだ。おまけに、少女はおさげを置き去りにする速度で飛び出し、鼻と鼻がくっつくくらいまで距離を詰めてきた。
「……やっぱ聞いてたんだな、昨日の話」
「……聞こえたのよ、たまたま」
プイ、と顔を背けて少女は謳う。
絶対たまたまじゃねえだろ、という言葉をグッとこらえた響だった。
「だったら知ってるだろ、金がなくて、遠くまで行けてねえって――」
「じゃあ、あと必要なのはお金だけってことね」
わかったような口ぶりをされるのが癪だった。響は口をへの字に曲げた。こちとら、かれこれ十九回に及ぶ脱走を試みて、十九回とも失敗という屈辱を味わってきたのだ。ヤクザの家系とはいえ、運転手にお付き付きで登校してくるボンボンに、わかったような口をきかれたくなかった。
「……まぁ、計画はちゃんとたててるし、金以外に準備できるものはちょっとずつかき集めてるし……ていうかなんだよ急に、家出家出って、まさかお前もしたいって言いだすんじゃないだろうな。ハハッ……そんなまさかな、白崎組の一人娘が――」
「お願い、私も連れてって!」
「なんて言うはずが――え……?」
絶対に、確実に、間違いなく、自分以外の何者かの声が聞こえた。あんなに高い声は三年前の声変わりで捨ててきたし、幻聴が聞こえるほど年を重ねてもいない。
響はぱちくりと瞬きし、声の出所をさぐった。残念ながら、隣に座る、瞳を潤ませたおさげの少女以外、体育館裏の階段には誰一人いなかった。
ぴ~ひょろろ、とトンビが鳴き、響に続きを促した。
「今、なんて?」
半分あきらめながら響は聞いた。さっき聞いたばかりだ。答えは分かっていた。
「私も連れてって!君の家出計画!」
それでも、顎が外れるまで叫ばなくてはならなかった。
「はあぁあぁ!?」
その日の夜、ここはJRの駅前にある噴水だ。銀色の、大きな丸い傘のような噴水。水を噴き上げるというより、傘の縁からじょぼじょぼと垂れ流すタイプだ。響はその前で立っていた。太陽はさっきようやく沈んだ。ライトアップされた水しぶきが眩しい。
響はヤンキースのキャップ帽をかぶり、黒いTシャツ、七分丈のジーパン、いつでも走り出せるようにスニーカー、といういで立ちだ。今日は荷物が多い。アディダスの大きなリュックサックを背負っている。中身は三日分の着替えと折り畳み傘、歯磨きセットにタオル、使いかけのボディーシート、モバイルバッテリー機能付きスマホの充電器、残金の計算をするためのA6サイズのノートとペンだ。
「本当に来るんだろうな……」
かれこれ三十分もの間、響は途切れることのないゾンビの群れを見ていた。スマホを見ながら歩くゾンビ、くたびれたネクタイを風に持って行かれるゾンビ、時たま、逆方向に歩いて行く胸の大きな金髪の女性、またスマホを見ながら歩くゾンビ……。
響はキャップ帽のツバから右目を覗かせ、噴水の脇に建てられた時計を見上げた。時刻は七時三十分――
七時間前。ここはまだ階段の踊り場だ。
『今日の夜、七時に駅で集合ね』
少女は立ち上がってそう言った。響の目の前で、ほっそりとした両手がパッパッとお尻を叩いている。
『なっ、勝手に決めんなよ……』
ムキになって立ち上がると、少女はお尻の砂をはたくのをやめ、怪訝そうに眉をひそめた。
『私が抜け出せるのはそこしかないの。あとは君の言う通りに動くから』
少女の口ぶりは、まるで駄々をこねる子供に言い聞かせる母親のようだった。
響は納得がいかない。子ども扱いされるのもそうだし、そもそも元は自分の家出計画だ。誰かと一緒に行くことを想定していない。
『いや、ていうか!そもそもついて来る前提で話を進めんなって』
『逃走資金』
『……は?』
ぶっきらぼうな言い方と裏腹に、その言葉は甘い誘惑を放っていた。蜜入りのリンゴを目の前に置かれたカブトムシの気分が、響は十六歳にしてわかってしまった。
『私が誰の娘か知ってるんでしょ?逃走資金、私が準備してあげる。それでどう?』
戻ってくる噴水の音。繰り返しになるが、現在時刻は七時三十分。はっきり言って遅刻だ。
あんな口車に乗ってしまった自分が恨めしい。というか恥ずかしい。しかし、そうは言っても響の軍資金が少ないのも事実だ。
響はジーンズの尻ポケットから二つ折り財布を取り出し、中身を確認する。入っているのは響の全財産、三万六千二百十四円。普段から無駄遣いをせず、コツコツためてきた成果だ。補足として、ICOCAにも残高が少し残っている。
早くしてくれよ、そうじゃないと、またタケダが来る。
響は財布のカード入れに差し込んでいる、二枚の切符を見つめていた。
優雅なBGMが流れている。ショパンのノクターン2番だ。ピアノの音に包まれて、少女はようやく少しの落ち着きを取り戻していた。
窓の外をチラリと見る。暗闇に映る、着飾った自分の姿。その向こうに見える背の低いビルの谷間。現れては消える、車のヘッドライト。約束の時間がとうに過ぎてしまったことは、十分以上前に思い知っている。
高いたかい天井の、広いひろい大広間。豪華なシャンデリアと、染み一つない荘厳な絨毯。贅の限りを尽くしたこの場所で、少女は待っているのだ。
「どうだ、緊張するか」
左隣りから脂っこい声が聞こえてくる。そこには、縦じまのスーツを着た父親がいる。少女は窓の外に興味をひかれたふりをして、できる限り左を見ないようにする。
「うん、すこしだけ」
「そうかそうか、心配しなくてもいい。ヤマダさんはとてもいい人だからな」
窓越しに見える父親の顔は、満面の笑みになっていた。サンタクロースみたいな口髭をぶるぶると震わせ、笑っていた。
首が痛くなって、少女が目線を元に戻した時、無音の足音を響かせ、ミロクがやってきた。テーブルの脇でピタリと止まると、大きすぎる身長を目いっぱい屈め、少女の父親に報告した。
「来られました」
それを聞いた途端、父親は飛び跳ねるように立ち上がった。ミロクが目配せしてきたので、少女も仕方なくそれに従った。
「ヤマダ様、どうぞこちらへ」
そう言うが速いか、ミロクはすっと身を引き、忍者のように姿を消した。どこに行ってしまったのか、少女の目では追いきれなかった。
代わりに視界に入ってきたのは、紫のスーツの男だった。父親とは違い、腹は出ておらず、がっちりとした筋肉質な男だった。手首に宝石のブレスレットをつけており、その下に入れ墨がチラチラ見える。色黒な顔はオイルでも塗ったかのようにてかてかで、白髪交じりのツーブロックはカチコチに固められている。
「これはこれは、ヤマダさん。ようこそいらっしゃいました」
「いやこちらこそ、お呼びにあずかって光栄ですよ、白崎さん」
手招きして笑う父親と、片手を上げて笑うヤマダ。汚い大人たちの、汚い交友関係が見え隠れする。少女は苦い味を感じながら頭を下げる。
「ほら、こちらがヤマダさんだ。東京の方で仕事をしておられる」
「どうも、初めまして」
ヤマダは貫禄のある渋い声で言った。佇まいといい、喋り方といい、どこかカリスマ性を感じてしまう。まるでライオンのような男だと、少女は思った。
「……初めまして」
呟くような挨拶だったが、ヤマダは目を細めて聞き入っていた。少女の声も、見た目も、稀代の美しさを有しているからだ。
「あんたが白崎のオヤジの娘さんか、おい、ホントにお前の娘か、べっぴんすぎんか」
「カナデの血ですよ、このところ、ますます似てきまして」
何が面白いのか少女にはさっぱりわからなかったが、父親はアッハッハッと声を上げて笑った。
「すまんが、せがれはトイレに行っとる。少し待ってやってくれんか」
ひとしきり社交辞令が済んだ後、席についたヤマダが言った。
一ミリも申し訳なさそうな顔をしていなかったが、少女はそんなことはどうでもよかった。これはチャンスだと、直感で悟った。
「ねえ、パパ」
喉が重たい。鉛玉でも詰め込まれたみたいに、舌が動かない。それでも、勇気を振り絞って言った。この機は逃せない。
「私もお手洗い、行ってきていい?」
「んー?いいとも、行ってきなさい」
父親は何の疑問も持たずにサラリと言った。
少女は動悸が速くなるのを感じ、そっと右手を胸元に当てた。震える左手で椅子を押し、荒い呼吸をしながら立ち上がった。ヤマダの方から探るような視線を感じ、足早にテーブルから離れた。
コツ、コツ、と床が鳴る。自分が履いている厚底サンダルのせいだ。早く歩けば歩くほど、音の間隔も狭まっていく。それがまた、少女の気持ちを追い立てる。
この店を使うのは初めてではない。だから、トイレに小窓がついていることを、少女は知っている。店の出入り口をチラリと見る。ガラス戸の向こうに、スキンヘッドのスーツ姿が見える。きっと、裏口にだっている。やはり、逃げるならトイレしかない。
キィ、と音を鳴らし、女性用トイレの戸をくぐる。中はオレンジの間接光で満たされ、巨大な鏡がトイレ全体を映している。そこには死人のように真っ青な顔をした自分がいて、ひと時の間、少女は不安に駆られてしまう。
それでも――
『うん!私、ピアノ大好き!お歌さんも、大好き!』
――柔らかい温度と、暖かい匂い。目をつむると、あの時の情景が浮かぶ。
少女はゆっくりと目を開く。右手に四つの個室が並んでおり、左手には大理石調の壁がある。唯一ある突破口は、真正面の五十センチ四方の小窓だ。すりガラスの向こうには、これからの行く末を暗示するかのような、暗いくらい闇が見える。
小さな口をきゅっと結び、少女は小窓に手をかけた。
「んー……!ん!ん!……んんんん……きゃっ!」
どうしても言うことを聞いてくれなかったお尻が、ついに折れてくれた。少女はクジラにはきだされたピノキオのようにトイレから飛び出した。
一階とは言え、まあまあの高さから落ちた。響と違い、少女は受け身の練習などしたことがない。肩から地面に激突してしまう。
「あっ!ぅっ……!」
右肩と右ひざに、強烈な痛みを感じた。焼きごてを押し付けられたように熱くなった。少女はぎゅーっと体を縮こませ、悲鳴が出てしまわないよう、必死に自分を押さえつけた。
「はあ……はあ……はあ……」
じわじわと痛みが引いて行く。ようやく息をつけるようになり、上半身を起こす。周りが少しずつ見えてくる。きらびやかだった店内から一転、ここは薄暗くて汚い裏路地だ。エアコンの室外機が所狭しと並べられ、その全てから高温の排気熱が吹き出している。隣の建物との距離が数十センチしかないせいで、熱気が行き場をなくしている。サウナの中に放り込まれたみたいだ。
それに――なんと、すぐ隣に人がいた。
「おいおい、大丈夫か?」
「きっ――!」
心臓が飛び出るかと思った。口元を押さえることには成功したが、代わりに腰が抜けた。少女は壁にへばりつくことで倒れずにすんだ。
「ハッハッハッ!ビックリしたか?ビックリするよなあ、俺もしたわ!」
カラカラと笑っているのは、色黒の男だった。裏路地の暗闇に紛れていたのだ。その顔に言いようのない既視感を感じ、少女は目を細めた。
「いやー、まさか、同じ日に同じ店のトイレから抜け出す人を見られるとは……ハッハッハッ!あー、ウケる」
男はどうやら、少女と同年代、あるいは一つ二つ年上のようだ。服装は――暗いのでよくわからないが――スーツのようなものを着ている、ように見えた。
「こんなところで会ったのも何かの縁だなぁ、トイレ仲間ってとこか、よろしく」
それにしても、やたらと快活な男だ。ずっと笑い続けている。こんなところに人がいるだけでも十分驚きなのに、旧知の親友のようなフランクさで話しかけてくるなんて。父親の支配下から抜け出せたと思った瞬間にこれだ。世界は不思議に満ちている。
「俺はな……東京からオヤジに連れてこられてな。許嫁を紹介するって言われて」
その言葉で、少女は男の正体に気が付いた。さっきから感じている既視感の正体がわかった。
「まー、誰がどう見ても政略結婚なのよ、ちょっと嫌になってさ。自分の人生は自分で決めたいじゃん。なあ?」
「え、えぇ」
間違いない、この男はヤマダの息子だ。顔つきといい、雰囲気といい、瓜二つだ。
こちらの正体に気付かれないうちに、ここから逃げ出さなくては。そう思って、顔を背ける少女だったが、ヤマダの息子がじーっと覗き込んでくる。
「あ、あの……」
「あんた……」
ヤマダの息子の顔の輪郭が、手に取るようにハッキリとわかる。ということはつまり、相手からも同じように見えているはずだ。少女はぎゅっと目を閉じた。もうお終いだ。白崎の娘だとバレてしまう。
「よく見たら、もっのすごい可愛いな!」
「えっ――?」
ズッコケたい気分とビックリした気持ちが半々だ。少女は若干の混乱をきたした。
「いやー、あんたみたいな美人が相手だったら、結婚してもいいんだけどな!なんて!」
「あ、あはは……」
笑えない冗談はよして欲しい。少女は愛想笑いをしながら立ち上がる。右ひざにピリリとした違和感がある。暗闇で見えないが、擦りむいたのだと思う。ヒリヒリとした痛みが、じわじわと伝わってくる。
「まー冗談はさておき、あんたは?どうしてここに?」
こちらを見上げながらヤマダの息子は聞いてくる。せっかくバレていないのだ。なんとか誤魔化さなくては――少女は頭をフル回転させる。結婚の話をせず、かつ、嘘っぽくない話を考える。
「私は……えっと……歌がうたいたくて――」
「……歌?」
思いついたのは、言い訳にしてはなんとも頼りないものだった。ヤマダの息子も、しばらく言葉の意味を考えているようだった。だが、最後は――たぶん――笑顔で送り出してくれた。
「ふーん、それでトイレから……ってのはよくわからんけど。ま、やりたいことがあるってのはいいことじゃないか?」
「え、ええ……」
「気をつけてな」
少女は手を振ってくるヤマダの息子に会釈し、裏路地に差し込んでいる街の光を目指した。
膝は痛いが、走れないほどではない。体を左右に捻り、エアコンの室外機を避けつつ進む。光はどんどん大きくなってくる。光度も上がる。もうすぐで、あの中に出られる。そうしたら、後は響のところまで行くだけだ。本当の意味で、父親から解放される。
最後の一歩を、弾む気持ちそのままに踏み込んだ。大きな通りに躍り出た。開けた視界がとても気持ちよくて、少女は思わず笑顔になった。
「あっ!」
今度こそ叫んでしまった。
そこにいたのはミロクだった。小さなソフトクリームのようにまとめた黒髪を光らせ、小さな丸眼鏡を光らせ、極めつけは、眼鏡の奥に見える小豆のような瞳まで光らせ、一寸の隙も見せずに立っていた。
少女はどうしようもなく立ち止まった。優秀すぎるお付きが、大きな壁となって立ちはだかっていた。
響はいい加減疲れ果てていた。立って待つ必要が無いことにも気付き、噴水の縁に座り込んでいた。
「隣、いい?」
「あ、はい……」
なんとなく返事をしてしまったが、三秒経ってからそれが世捨て人のような声だったことに気が付いた。
「え!うわ!」
響の大声で、噴水の周りに集まっていた鳩が一斉に飛び立った。
同じくその大声に顔をしかめているのは、コンビニのホットスナックをかじるタケダだ。
「よっ、少年」
ななチキだかファミチキだか知らないが、食欲をそそるスパイシーな香りがする。くっちゃくっちゃと咀嚼するタケダの口からは、鳥の油が垂れている。
「今日は随分と重装備なんだなぁ」
他人事のように言っているが、その目が鋭くリュックサックに向けられるのを、響は見逃さなかった。
「関係ねえだろ、別に」
「関係ないよ、今はね」
腹の立つ言い方だ。いつもそうだ。
「暇なのかよ、いっつもいっつも」
「暇じゃないですよぉ、いつも」
「あーそうか、生活安全課?だもんな。刑事みたいに、悪い奴捕まえる仕事させてもらないのか」
「いやあ?俺は生活安全課の刑事だけど?」
嫌味の一つでも言ってやったつもりだったが、タケダはひょうひょうと返してきた。警察の仕組みをよく知らない響は、口を半開きにして固まった。
「……は?生活安全課だろ?」
「だからー、生活安全課の刑事だって、言ってるでしょうが。一般人はよく勘違いするけど、刑事課だけが刑事じゃないからね」
そういうものなのか、高二の夏になって初めて知った。響は一人納得して頷いた。
と、隣のタケダがホットスナックを食べ終え、油まみれの包装紙をくしゃくしゃに丸め始めた。そのまま見ていると、すっと立ち上がり、コンビニの前に置かれているゴミ箱へ歩いて行く。響の監視が目的のはずなのに、余裕そうな態度が気に入らない。
「く……ナメやがって……」
客も店員も、何事かと目を見張った。
「オヤジ!」
ショパンの余韻を台無しにしながら、ミロクが店内に駆けこんできたのだ。手袋が片方だけになり、スーツは乱れ、ソフトクリームのような頭は崩壊しかけている。いつもの冷静さは失われ、ゼエゼエと激しく息をついている。
「ばっ……!馬鹿たれが!人目のある所で言うなと言っとるじゃろうが!」
白崎のオヤジは机を叩いて立ち上がった。食器が甲高く鳴り、店内の視線を余計に集めてしまった。
怒鳴られた上に、衆目の目にさらされた。しかしミロクは、そんなことは一つも気にならないようだった。自分の見た目や立場を全て後回しにして、一気にはきだした。
「申し訳ありませんオヤジ……しかし、お嬢が……お嬢が店から抜け出しました!」
白崎のオヤジも、ヤマダも、鉛玉を食らったように青ざめた。再び机が叩かれ、あまりの衝撃に皿が一枚落ちてしまった。
「なんじゃとぉ!」
足元で皿が砕けたのも、「お客様――」と店員が呼びかけて来たのも、白崎のオヤジの目には映っていなかった。怒りと驚き、悲しみと衝撃、オヤジは一瞬で全ての負の感情に支配された。
「ミロク、お前がおって、止められんかった言うんか!」
人目をはばからずに大声を上げ、オヤジのサンタクロースのような髭は、汗と唾でぐっしょりと濡れた。
「一瞬の隙をつかれて……申し訳ありません!今、一人追わせています――」
「当り前じゃ馬鹿もん!絶対に!絶対に連れ戻せぇ!」
時計の長針が八を指した。時刻は七時四十分、響は噴水の縁に座ったまま、カタカタと貧乏ゆすりをしていた。
「はあぁあ」
少女は来ない、タケダは来る。最悪の中の、最も最悪な状況だ。意味のわからないことが響の頭の中をぐるぐると回る。
タケダはコンビニのビニール袋をゴミ箱に押し込んでいる。逃げるなら今しかない。いや、しかし、どこへ行ったものか……。
あーでもない、こーでもないと考える響の耳に、遠くからの人のざわめきが入って来る。駅の西側から、それはやってくる。
「おい、なんだ!」
「いてっ!」
噴水の位置からはよく見えないが、人と人がぶつかる音、そしてぶつかられた人の嫌がる声が聞こえる。駅に入っているパン屋の方だ。
「すみません!」
来た!
響ははじかれたように立ち上がった。あの声を聞き間違うはずがない。空気の濁った駅前で、これだけ距離が離れていても、まっすぐに自分のところまで届いてきたのだ。そんな声の持ち主は、彼女しかいない。
「危ないだろ!」
「気をつけろ!」
「きゃあ!」
人々の悲鳴がこちらに近づいてくる。声のする方を、タケダが怪訝そうに見る。
「ごめんなさい!すみません!」
おざなりな謝罪の言葉と共に、人ごみの中から一人の女の子が飛び出してきた。
響は胸が高鳴るのを感じた。
「あっ!いた!」
顎の先から汗の粒を落としながら、少女はこちらに振り向いた。おさげをポンポンはずませながら、駆け寄ってきた。
「おいお前、
響は鼻息荒く言った。約束の時間からすでに四十分が経過、加えてすぐ近くにタケダの接近を許している。計画がおじゃんになる可能性すらある。というか――
「なんだその恰好!」
膝に手を突き、肩で息をする少女。露出した腕で汗を拭うその姿は、神秘的なまでに美しかった。淡いピンク色の、ノースリーブのワンピース、その上に薄いカーディガンを羽織り、首元には銀色のネックレス……視線を下に移すと――右ひざを少々すりむいている――白い厚底サンダルの隙間から、しっかりとマニキュアが塗られた丸い爪が見える。
これが想い人であれば、響も数秒の間心奪われ、見とれたことだろう。実際問題、帰宅中のゾンビたちは少女の方をチラチラと見ている。しかし、今日は二人で起こす革命の日。こんなことに気を使っている場合ではない。
「ゴメン!でも、これには訳があって――」
相変わらず肩で息をしながら、少女は懸命に弁明しようとしている。
「お前な、今日何するかわかってんのか!オシャレなんかしてるヒマねえんだぞ!」
「わかってるわよ、だから――」
「お前が七時集合って言ったから来たんだ!なのに、言いだしっぺのお前が遅れてどうすんだよ!」
響は自分の言い分に間違いはないと思っていた。だから、少女がムスッと言い返して来た時、余計に腹が立った。
「お前お前言わないでよ!私にはね、白崎
「知るか!自分で素敵とか言うな!お前はお前だ!お前のせいで遅れた!お前のせいで警察に!この――」
「白崎?」
心音に対する怒りで、ぎゃあぎゃあと言い合っている暇がなかったということを、響は忘れていた。
ゴミ捨てを終えたタケダが、すぐ近くまで帰って来ていた。
「まさか君ぃ……白崎んとこの娘……じゃ、ないよね」
響は油の切れたブリキの兵隊のように、ギギギ、と首を左に回した。反対側では、心音も同じようにぎこちない動きで、首を右に回していた。
今さらながらに響は思う。しまった、心音は極道の娘で、タケダは警察官だった。知らないはず、ないよな。
「逃げるぞぉ!」
「えぇ!?ちょっと、君ぃ!」
響は心音の手首を掴んで走り出した。心音が足をもつれさせても、かまわず引っ張った。
「おい、こら!待て!」
後ろからタケダの声が追ってくる。響は加速する。右に直角に折れ、もう一度折れ、駅地下に繋がるエスカレーターへ飛び込む。お決まりのように一列に並んでいるゾンビの、右側を走って降りる。心音の足はかなり遅い。カラコロカラコロ鳴るサンダルの音で、その原因が男女の体力差だけでないことがわかる。
「ちょ、ちょっと待って、君!」
「あいつはいっつも追ってくるんだ!振り切らねえと、家出なんてできねえ!」
「そうじゃなくて!」
エスカレーターは歩かないでください。と書かれた紙の前を猛スピードで駆け下り、響は回れ右した。わわわ、と衛星軌道を回る心音を引っ張り、地下にある改札口を目指した。エスカレーターの脇を走れば、ものの数分で着くのだ。
「おじょーっ!」
前方からドスのきいた声が聞こえてきた。戦闘開始のほら貝のようだった。響ははっと顔を上げ、その声の持ち主を凝視した。
スーツ姿の、ゴリラのような男だった。
「あぁっ!」
後頭部から悲鳴に近い声があがり、響はぐん、と腕を引っ張られた。さっきまでの口だけの〝待って〟とは違う、全力の拒絶だった。
「なんだよ、どうし――」
「お嬢!」
ゴリラが笑う所なんて、動物園でだって見たことが無い。世にも奇妙な物語の世界でしか見られない光景だ。
「あぁ?」
近付いてくる男を睨みつける響だったが、突然心音に肩を掴まれ、動揺してしまう。
「おい、なんなんだよ、お前――」
それ以上聞かなくても、なんとなくわかってしまった。心音が震えていた。響の背中で、必死に身を隠すように震えていた。
「私が、遅れたのは――」
「追われてんのか」
響は直感をそのまま口にした。
「追われてんのか、こいつに……!」
背中で、小さな頭が上下に動くのを感じた。
「おい小僧、そこをどけ!お嬢、戻りましょう、オヤジが待ってます!」
「嫌よ!私、ぜったいに戻らないんだから!」
駅地下の天井に反響する、心音の訴え。その声に突き動かされるように、響は後ろを振り返った。
「おい!少年!待て!」
左腕の高級時計を光らせながら、タケダが迫ってくる。
「くそっ」
前門のゴリラ、後門のタケダ、どちらかを突破しなければ、響と心音に明日はない。乗り掛かった舟だ。やってやる!
「どけ!小僧!」
ゴリラが突っ込んでくる。響は心音を突き飛ばし、脇の方へ追いやる。男の手を、足を、息遣いを、長年の練習で培った観察眼で見る。見極める。その重心を――
「えっ――うわ……!」
「おっ、どりゃああぁぁぁぁ!」
響はゴリラの懐に素早く潜りこみ、スーツの襟をつかんだ。突進の勢いをそのまま利用し、すくうようにして投げた。ゴリラの巨体は宙を舞い、こちらに迫ってくるタケダに向かって飛んでいった。
「は?うわっ!ちょい!」
タケダが急ブレーキをかけるのが見える。その足元に、ローリングゴリラがお届けされる。
「はあ……はあ……」
いや、うっは、すげえ!オレ!……数秒の間、響は自分の成し遂げた結果に酔いしれていた。しかし、驚愕の表情でこちらを見る、心音の視線に気が付いた。
「はっ!行くぞ!」
あっけにとられたままの心音の腕を、もう一度引っ張った。今度は心音もしっかりした足取りでついて来た。
響は、一度も振り返らず走った。
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