第112話
(112)
――来るな!!
ミライ!!
ロビーは気持ちを込めて矢を放つ。
その矢は真っ直ぐに暴れ竜の眉間を貫いた。
その音はベルドルの鼓膜奥に残響音として残った。
(見事!!)
片手を着いて着地したベルドル。だがそこに激しい一撃が飛ぶ。竜の尾が襲って来たのだ。ベルドルが着地した瞬間、それを感じ取った竜の気迫の一撃。
ベルドルはそれを避ける間もなく身体に受け、吹き飛ばされた。全てが完全に予測できるというのは甘えである。戦場では何ごとが起きるか分からない。
だが吹き飛ばされたベルドルはまるで身体の発条を発現させるように固く、しなやかになって騎士の背にぶつかる。せめてぶつかるならば騎士の肉体への衝撃と負担を減らそうとそうと瞬時に考えた。それだけではない。今度は弾け飛ばされた力を自分の推進力に変えようと目論んだ。
交差する戦いの心理的優先権(イニシアティブ)。思わずベルドルは口端に浮かぶ微笑を感じた。
――戦いの最中に微笑する何ぞ、
ベルドルは思う。
――私も生まれながらの戦士なのかもしれない。
今度は長剣の切っ先を立てて、騎士達の様に真っ直ぐに立てた自分という槍が今度は暴れ竜の肉体深くに突き刺さる。腹よりもより心臓近くに。
(決めたか!!)
剣から伝わる鼓動が聞こえる。それは確実に心臓の鼓動とも言えた。
だが暴れ竜は突如翼をはためかせ空へと昇り始めた。
「暴れ竜(あれ)が空へ行くぞ!!」
騎士の叫ぶ声がロビーに聞こえた。その時ロビーは再び矢を番えた。それも二つ。そう、それは竜を駆ったベルドルンを撃ち落とした仕掛け。つまり一つは騙し矢、ふたつ矢こそ、獲物を射抜く殺人の矢。
それを意に決めて空へと舞い上がろうとする暴れ竜を見た時、ロビーは思いがけない存在を見た。
暴れ竜の向こうで翼をはためかせて鷲の嘴を跳ぶもう一つの巨竜の姿だった。
その瞬間、意識が吹っ飛んだと言っていいロビーの感情は放たれた矢と共に叫び声になった。
「ミライ!!済まねぇ!!」
矢は再び放たれる。
「こん畜生!!俺は此処を離れられねぇんだ」
何故か鼻の奥をチンと摘まむ咽ぶような叫びをしながらロビーは矢を放つ。
放った矢は先程放った矢の軌道と寸分変わらない軌道で飛んでゆく。
それが狙う先は。
「見えなくなっちまえ!!厄病神めぇ!!」
ロビーの強烈な感情を乗せた矢はまず分厚い瞼で小さく弾き飛ばしたが、しかしながら同じ軌道で放たれた力で暴れ竜の目を見事に射抜いた。
だがそれは遂に暴れ竜の最後の力を出させる何かを生むほどの矢だった。
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