第101話
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――いざという時に動けないぞ
美しい若者の声が響いた時、背後で動く巨大な影が見えた。岩壁に蹲る巨竜が首を擡げて空へと咆哮したのだ。
その咆哮はルーン渓谷中に反響し、まるで外の世界とここを遮断する結界を破壊する強さがあった。
だがそれは瞬時にベルドルだけでなく、彼を囲む様にしていた王国の騎士達に次の判断を迫り、それに応じる様に動く。
騎士達は皆判断を鈍らせることなく、隊列を組みなおし、瞬時に縦に二列整列して壁を組んだ。
見事な早業と言っていい。
前列の騎士は全員地面に片膝を突いて剣を収め、槍を突き出す。後列はその騎士の肩に槍を置く。
つまり小さな槍の壁が瞬時現れた。それはつまり巨大な獣の突進に備え、後方の者達を護る為の動きと言えた。
ベルドルは感心するしか無かった。
そう、自らが招いた災厄に対して彼は何事も言わず、唯鉄の意思で何かを護ろうとしている。
災いは自ら招いた。
若者は奥歯を噛んだ。
――翼竜(ワイバーン)
歯噛みする思いに心が僅かに濡れた。
(死んでくれていたら、まだ良かったのだが…)
誰かが聞けば長年愛した騎竜に対する冷徹な言葉と思うかもしれないが、これから起きることを考えると非情の思いが立った。
翼竜笛(バーンリュート)で制御できない翼竜(ワイバーン)がどれほど恐ろしい竜であるのかという事を。翼竜(ワイバーン)もまた『竜』の蛮族であるのだ。
ベルドルは長剣の切っ先を下げて、振り返った。そして眼前に見た。それは首折れてもその生命力が尽きようとするまでその力を使い切ろうとする巨大な暴れ竜の姿だった。
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