第18話
秋穂は自分のことよりも私の話を聞きたがった。今までの生い立ち、結婚生活のこと、桃香のこと。私は堰を切ったように話し始めた。秋穂は情けない私の身の上話をハイボールのジョッキをたまに傾けながら相槌を打って聞いてくれていた。そして優しく慰めてくれた。
全てを打ち明けた後に秋穂を見ると、話す前と後とでは彼の存在感の大きさが見るからに変わっていた。私は彼を客としてではなく、共に苦しい人生を生きて行くパートナーとして手放したくないと思った。それは秋穂も同じだったらしく、もっと近い距離感で一緒にいたいと言ってくれた。
離婚する前からクリスマスのイルミネーションや音楽を聴いて心が躍ることなどなくなっていた。だがその年のクリスマスは違った。イルミネーションの明かりはちゃんとキラキラして見えたし、買い物をしている最中にクリスマスソングを口ずさむことさえできるようになった。私の機嫌がいいと桃香も嬉しそうだった。いつも調子の悪そうな顔でだるそうにしている姿ばかり見せていたから尚更だったのかもしれない。
私にもクリスマスが来るのだ。人並みの喜びを感じられる日がやっと来たのかと思うと足の力が抜けそうになる程ほっとした。
秋穂とどういう関係性になっていこうと、自分が仕事を辞めることはできないだろうが、精神面では安定した日々が送れるかもしれないと思うと温かい涙が頬を伝って零れ落ちた。
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