第16話
秋穂が私を指名して半年ほど過ぎたあたりから、私の中で秋穂の存在が大きいものになっていることに気付いた。
店に秋穂が来ないとさみしいと感じることが多くなったのだ。私を指名する客の話しはだいたい愚痴か、嘘か誠かわからない自慢話が多かった。興味のない話でも笑顔でうんうん、と頷いて相手を否定することなく会話をすることには慣れてきたが、話に共感できることはなかった。
仲の良い友達が学校を休んで、淋しい思いをするあの感覚に似ていた。愛や恋などという甘い感情とは違う相手を求めるこの感覚を何と表現すればいいのか私自身も分からなかった。
秋穂が客でもなく恋人でもない存在となりつつあった冬のある夜、秋穂が私の仕事が終わった後に飲みに行こうと誘ってくれた。家のこともあるので、普段は店のスタッフでも客からでも仕事終わりの誘いはすべて断っていた。だが秋穂からの誘いは受けた。
クリスマス前の、いつもより街の中がキラキラして浮足立った感じのする深夜のことだった。繁華街から少し離れた居酒屋で店の中では話しにくかったことや源氏名ではない本名の私のことを語った。
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