第12話
私は求人誌に載っていた店に即連絡し、面接を受けて入店を決めた。
店は地元にある寂れた歓楽街にある小さなクラブだった。面接は簡単なもので、ママが容姿を見て、今までの職歴や接客業の経験の有無、アルコールの強さなどを聞かれた程度で終わった。入店することを前提に面接していた感じだったので、そんなに緊張はしなかった。
店は想像していたよりもこざっぱりとしていて、ギラギラした感じはなかった。席の数も多くはない。お高く留まった感じがしない親しみやすい様子のママの人柄が店にも表れているように思えた。
面接が終わった後、出してもらったコーヒを飲みながらママと世間話をした。
ママが言うには、昔に比べて歓楽街に勢いがなくなってきてからは、この店もその影響を受けて売り上げが前に比べると大幅に減ってきているそうだ。それからはなるべく無駄を省いて、ホステスも少数精鋭を旨として営業をしているらしい。不況で人件費を削減したいだけなのだろうが、そこは長くこの商売をやってきているベテランだ。マイナスな言葉を使うことはプライドが許さないのだろう。
バブルの頃から今まで、夜の世界を生き抜いてきた逞しさは伊達じゃない。
こんなに強いママに付いていけるのだろうかと不安になった。素人だからと許される時期はそんなに長くはないだろう。見習い期間が過ぎた後、私はどうなっているのかはまだ想像できなかった。
開店前なのに濃い色の口紅を塗っているママを見ながら飲むコーヒーに香りはない。苦いだけの黒い液体は、私の忍耐力を試しているかのようにいつまでもカップに残り続けていた。
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