海の中

 ねこはいなくなった。次は私の番だろう。まっしろい人は、じっと私を見ている。

「んー、結構同化してるね、きみ」

「……」

 人間じゃなくなっているからだろうか。言葉の感じから詳細はわからないが、いいことは言われていないような気がする。値踏みするように、詳細を知るように、私を見た。逃げたって無駄なのだと、言われているような気分だ。ねこももういない。

 空っぽの庭で、まっしろい人と私だけ。この空間は異様だった。初めて、この屋敷に来たときのようだと思った。どこにも居場所がないような感じ。ここにいるのがおかしいような気さえしてくる。

「どうしようかな。 いや、どうしようもないのかな」

 いやな言葉が聞こえてくる。まっしろい人は悩んでいて、困ったような、うれしそうな、微妙な顔をして私を見た。きっと、判決を下すのは簡単だ。それなのに、悩んでいるのはそういうことなのだろう。

「はやくしてください」

 私はまっしろい人に、言った。一瞬だけ目をまるくして、感情をなくしたかのような顔をした。そうしてその人は、すっと私に手を伸ばして、「こういうのはほんとにいやなんだけどなあ」とつぶやいた。

 目がくらむような光が降り注がれる。まるで天国にいるような明るさだ。目を開けられない。目を閉じると、隅に赤い二つの目が見える。ねこがいる? そう思って、目をなんとか開ける。口も同時に開いた。ごぼ、という音が聞こえる。私がいた、いつかの海だ。流されている、砂の城のように。最後には見向きもされないし、どこに行こうと流されようと関係ないのが、すごくそっくりで。

 上を見上げると、あの明るさがそこにはあった。きっと行き先は天国じゃないだろうけど、そんな感じの光が私をわずかばかりに照らしている。透き通るような青が印象的だ。

 まっしろい人は、困ったように笑った。

「さよなら」

 ねこみたいに食べてもらいたかったのに。ねこと一緒にしてほしかった。でもまっしろい人は同じようにはしてくれないまま。私をそのままにして、消えた。

 ちかちかと、赤い光が目の奥できらめいている。まだねこはいる。いる。

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砂の城 武田修一 @syu00123

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