第4話 近江の国の山中
さて、圧倒的な力で怨霊と魑魅魍魎、それにキツネの化け物まで退治してしまった4人は、京の都で神として崇められはじめた。
安倍晴明の名は、京の都随一の陰陽師と言われるようになった。
堀川丸太町を少し上がったところには、晴明に居宅まで用意されるしまつとなった。
晴明は、しばらくの間、京の都に留まり、世の安泰に寄与するように、霊仙から命じられ、渋々それに従った。
もちろん、最澄と空海の下で、修行を続けることは、許されたが。
『あれほどになった晴明の師
匠になるなど、儂には無理
じゃろう。』
と、空海はそそくさと逃げてしまった。
もちろん、最澄にしても逃げてしまいたいのは山々ではあったが、お大師様が2人共逃げてしまっては先々不味いことになると考えて。
『晴明よ・・・
比叡山には、数々の霊場が
できておる・・・
それらを回って研鑽を積み
重ねてはどうかのぅ。』
晴明、異存はなかったが、存外これがキツかった。
現在でも、少し手抜きはしてあるものの、僧侶の最高の荒行として知られる、千日回峰行の原型となった。
晴明が比叡山回峰行に夢中になっている間に、空海は高野山の奥、大峰山に霊場を拓いていた。
役行者を開祖とする修験道の道場にしていた。
比叡山回峰行を一通りこなせるようになった晴明は、当然のように、大峰山に入った。
『傳教大師様・・・
弘法大師様・・・
霊仙三蔵法師様・・・
俺は、なんと凄いお師匠様
に恵まれたんだろう。』
独り言をつぶやきながら。修行を重ねていく。
大峰山は、高さでは比叡山の倍ほどもある高山たけに、その分だけ困難な修行になっていた。
修験道の行者ですら、躊躇するほどの山である。
とはいえ晴明、目的のためには避けて通るわけにはいかなかった。
晴明が、大峰山に入る前年、近江の国で大変なことになっていた。
霊仙が霊山寺を出てしまった。
霊仙道場が、機能しなくなってしまっていた。
霊仙三蔵、近江の国南部の国主、佐々木氏の力を借りていた。
時代は、鎌倉幕府初期も初期。
近江の国南部の国主は、源氏の祖の家系である。
霊仙、極力、山の奥深い土地でひっそり暮らして、子供や若者に修行をさせたいと願い出た。
甲賀望月氏と三雲氏にその処遇を任せたことから霊仙は、鈴鹿の山中に入って、土地を探した結果、紫香楽宮跡から阿山方面に分け入った国境の辺りに霊仙寺の建立を許された。
望月と三雲のみならず、甲賀・伊賀の子供や若者の修行道場とした。
山中ではあるものの、巨大な伽藍を持つ寺なのか城なのか見間違うような伽藍が出来上がった。
この噂を聞いた晴明、自身、大峰の山中にありながら。その新しい霊仙寺を見たくて仕方ない。
しかし、近江にまで行くためには、大峰山の修行を完遂しなければ、願い出ることすら出来ない。
京の都には、怨霊が攻め込んで来る度ごと、晴明が打ち払い、平和を守っている。
が、この忙しさの中、晴明の修行は、遅れに遅れている。
晴明が、大峰山の修行を完遂するのに3年を擁してしまった。
大峰山から、京の都に戻った晴明、その足で最澄と空海の前に進み出た。
もちろん。新しい霊仙寺へ詣でることの許しをこうためだった。
山伏の姿で現れた晴明に、笑いそうになりながら、最澄と空海は、近江行きの許可をしてくれた。
『晴明よ・・・
その姿で、霊仙殿の前にも
出るつもりか・・・。』
空海が、からかうように訊いたところ、意外にも、明るく。
『ハイ・・・
そのつもりです。
私の修行の成果ですから。』
晴明の成長が、何より嬉しい最澄と空海であった。
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