第3話 道場の始まり

近江の国、霊山山麓霊山寺に晴明を連れて帰った霊仙三蔵。

3匹の神獣を呼んだ。

『晴明よ・・・

 斉天大聖と天篷元帥と惓濂

 大将じゃ・・・

 今日から、そなたといっし

 ょに修行する仲間じゃ。』

3匹の神獣を見て、晴明。

さすがに首をかしげた。

『お師匠様・・・

 いくらなんでも・・・

 彼らは、獣では。』

誰がどう見ても、猿と豚と河童である。

ただし、2本足で歩き。服を着て、人の言葉を話しているところは謎であるが。

『晴明よ・・・

 ただの獣ではないぞ・・・

 孫悟空と猪八戒と沙悟浄

 じゃ。』

晴明、またまた飛び上がるほど驚いた。

霊仙の先代三蔵である。玄奘三蔵が、天竺まで供をさせた神獣である。

『晴明よ・・・

 そなたは、こやつらと同

 等か、もしくはそれ以上に

 なれると見込んだ。

 やってみよ。』

霊仙の言葉は、温かく自信に充ちていた。

霊仙は、そのまま本堂を出て、空に向かって声明を唱えた。

すると境内の本堂横に、みるみる建物が建設された。

その建物は、回廊で本堂とつながった。

その建物に入ってみると、いくつかの部屋に分かれいて、各々の個室になっていた。

『晴明・悟空・八戒・悟浄。

 良いか、これからは四人で

 ここで暮らすのじゃ。

 炊事場と風呂・御不浄等は

 共同で、きれいに使え。

 玉龍・・・

 四人の家畜になるか、それ

 とも人形にて、共に修行す

 るか・・・。』

玉龍にしてみれば、馬に戻るより人間になる方が安全なんだそうだが。

馬小屋で寝起きすると、藁に着く虫に身体を喰われて、痒くなる。

人間ならば、毎日風呂に入っても、不思議がられない。

何より、人間の言葉で話せるため、誰とでも話せるので寂しくない。

『お師匠様・・・

 私も、人形にて修行がした

 く思います。』

玉龍の答えは、ある意味でわかりきった答えだった。

そんなこんなで、10年ほどの月日が流れ。

晴明と3匹の神獣と1匹の天馬、修行がかなり進んではいた。

晴明・・・霊仙に願い出て、武空術の修行を行っている。

霊仙三蔵のそれは、1094メートルの霊仙山と1377メートルの伊吹山を飛び回るほどの高さと距離と速さを誇っいた。

晴明は、まだまだ見える高さと歩ける距離、走って追い付ける速さでしかない。

ところが、時代の流れは、悠長なことを言ってはいられなくなってきていた。

時は、平安末期、都の深夜は崇徳上皇・平将門・菅原道真の、日本三大怨霊と呼ばれる怨霊が魑魅魍魎を引き連れて暴れ回っていた。

後白河天皇の命により。比叡山延暦寺の傳教大師と東寺の弘法大師が呼び寄せられて怨霊・魑魅魍魎と闘っていた。

闘いあぐねていた時、最澄と空海が後白河天皇の前に進み出た。

天皇側近の者達も、後白河共々凍り付いた。

法力日本随一と言われる2人の大師様を持ってして、退治できないほどの怨霊と魑魅魍魎。

それについての相談があると言う。

『お大師殿が、お2人揃って

 のお話しとは、ただ事では

 ございませんね。』

後白河と側近は、震え上がっていた。

『陛下・・・

 実は、我々より強い法力を

 持つ三蔵法師様が、唐より

 帰国しておられることをお

 忘れではないのかと思いま

 して。』

三蔵法師と聞いて、御所は騒然となった。

案の定、後白河天皇は、霊仙の帰国を忘れていた。

『そうじゃ、霊仙様じゃ。

 霊仙を、都へお招きしては

 もらえぬものかの。』

後白河天皇の顔に、明らかな安堵の色が浮かんだ。

後白河天皇の懇願に、最澄と空海からの連絡を受けて、霊仙が弟子を率いて、都に入った。

後白河天皇と側近のみならず、京の街の人々も沸き上がった。

伝説でしかない三蔵法師と斉天大聖と天篷元帥と惓濂大将が目の前を通っている。

見た目にも、屈強そうで美しく白い駿馬に僧侶が乗っている。

錫杖と呼ばれる杖は、出してもいないにもかかわらず、シャン・シャンと音が鳴っている。

御所の門前では、最澄と空海がウズウズして待っていた。

先触れとして、晴明が2人の前に現れた。

『お師匠様・・・

 お大師様・・・

 お久し振りでございます。

 晴明でございます。』

最澄と空海は、仰天した。

とてつもなく強い陰陽の法力を纏っている。

『そなた。本当に晴明か。

 よほど修行したのか。

 なんとも見事な・・・。』

最澄と空海が晴明に見とれていると、シャン・シャン・シャンと出してもいないはずの錫杖の音が大きくなって、玉龍の逞しく美しく白い身体が見えてきた。

猿と豚と河童が周りを守っていた。

『あれは、どういうおまじな

 いじゃ。』

いぶかる、後白河と側近、そして最澄と空海。』

晴明は、ニッコリ笑って。

『お師匠様・・・

 あれは、我が学友でござい

 ます。

 あれなる猿が、斉天大聖孫

 悟空殿。

 あれなる豚は、天篷元帥猪

 八戒殿。

 そして惓濂大将沙悟浄殿。

 それに、あれなる白馬は、

 天馬玉龍号でございます。』

後白河と側近、それに京の民衆は、飛び上がって喜んだ。

三蔵法師が、伝説の神獣を引き連れて怨霊退治にきてくれたのである。

ところが、なぜか御所に入らず辺りをうろちょろする霊仙。

辻々で立ち止まっては、何やら手刀を斬り。真言を唱えているが。

何も変わってはいない。

ただ、霊仙の動きに呼応して晴明が空に浮かんでいった。

それを見ている後白河と側近。それに最澄と空海。

京の民衆は、震えながら拝んでいる、

霊仙が、最澄と空海の前に戻った。

『最澄殿・空海殿、久しい

 のぅ。

 また、今回はよう呼んで下

 さった。』

『霊仙さん・・・

 お懐かしい。』

と空海と最澄は、顔をくしゃくしゃにして喜んでいる。

いかにも呑気な光景だが。

『晴明よ・・・

 どうじゃ、 集まった

 かの・・。』

『ハイ・・・

 お師匠様・・・

 すべて、猿ガ辻の上におり

 ます。

 あの程度なら、私達でも大丈

 夫かと思いますが。』

『そうか・・・

 ならば、悟空・八戒・悟

 浄よ、晴明を助てやれ。

 晴明・・・

 3匹の怨霊の後ろの奴には

 気を付けろ。

 そやつは、キツネの化け物

 じゃからのぅ・・・。

 まぁ、そなたら4人で服滅

 できるじゃろう。』

孫悟空・猪八戒・沙悟浄の3匹の神獣が、魑魅魍魎を固唾毛ている間に、晴明は将門と道真を倒し、勢いに乗って崇徳上皇まで倒してしまった。

さすがに、崇徳上皇には手こずりはしたものの。

4人は、見事な連携で闘っている。

三大怨霊を退治すると、後ろから雲が沸き上がるように玉藻が現れた。

『なるほど、貴様がお師匠様

 がおっしゃっていたキツネ

 か・・・。

 たしかに、手強そうな。

 悟空殿・八戒殿・悟浄殿、

 ご助成お願い致します。』

晴明は、よほど3匹を信頼しているのであろう。

また、3匹も晴明に全幅の信頼を置いていることが、見て取れる。

玉藻までを、圧倒的な力で伏滅して、4人が霊仙の前に戻ってきた時には、すでに都の空は、晴れ渡っていた。

見ていた最澄と空海は、驚愕の色を隠せない。

最澄と空海でさえ驚いたのだ。後白河天皇や側近はもとより、京の民衆は、震え上がった。

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