第2話 二人のお大師様

霊仙は、日本へ帰国したものの、霊山寺はいかんせんドがいくつも付き添うな田舎である。

思うような活動ができないでいた。

そんなある日、霊仙は奈良へ向かって旅立った。

渡唐する前に、修行させてもらっていた法相宗の大本山興福寺に帰国の挨拶をするためだ。

804年遣唐使で渡唐したのだから、すでに30年ほど経っている。

さすがに、面識のある人はいなかった。

少し寂しく思いながら、帰路についた。

帰路、京都に入って東寺に弘法大師様を訪ねてみた。

空海和尚、霊仙の顔を見るなり。抱きついて喜んだ。

『霊仙さん、生きて帰れたか。

 良かった良かった。』

本当に嬉しそうな笑顔に、霊仙の心も和んだ。

霊仙から、空海には大乗密教の法相界曼陀羅が土産にもたらされた。

日本では、手に入れることができない大元帥明王法にかかわる曼陀羅である。

とんでもないお宝の土産物に、驚いた空海は、弟子を比叡山に走らせた。

数時間後、御輿に乗り最澄がやってきた。

最澄もまた。

『霊仙さん、元気に帰らせて

 もらえたか。

 あんたは、大元帥明王法と

 法相界曼陀羅を極めてしも

 たからなぁ。

 三蔵法師にまでされて、帰

 られへんようにされてしも

 たと思っていた。』

と友の無事を喜んだ。

この3人、遣唐使船で日本海の荒波に晒されて揉まれた仲間だけに、強い絆で結ばれている。

霊仙は、最澄に対して、真言の教典をもたらした。

これにより、比叡山密教という特別な宗派が生まれた。

しばらく顔を見合わせていた空海と最澄が、1人の弟子を呼んだ。

先程、東寺から比叡山まで使いに出た修行僧だ。

『晴明よ・・・

 このお方は、霊仙様とおっ

 しゃってな。

 我らより高位の三蔵法師様

 じゃ。

 そなたを、霊仙様にお願い

 しようと考えておる。』

それを聞いて、晴明驚いた。

だいたい、日本で三蔵法師に会えるとは思っていなかった。

しかも、その三蔵法師様の弟子になれるかもしれない。

『霊仙さん・・・

 この子は、藤原の血筋では

 あるのだが、安倍に里子に

 出された、かわいそうな子

 でな。

 霊仙さんの元で、育てても

 らえんかね。』

安倍晴明が、平安京随一の陰陽師となる第一歩が、こうして踏み出された。

『なるほど、良い面構えをし

 ておりますなぁ・・・

 陰陽道を極められそうで、

 楽しみになります。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る