Dragon Gate(ドラゴンゲート・龍門館)
近衛源二郎
第1話 三蔵法師帰国
時は天平、9世紀初頭、804年の遣唐使入唐から30年あまり。
越前の国(現在の福井県)と近江の国(現在の滋賀県)の国境にある街道の深坂峠。
804年遣唐使は、傳教大師こと最澄や弘法大師こと空海等、高僧が入唐した、日本の仏教界を代表する遣唐使であった。
当時、世界の文化の中心は大唐帝国。
いわゆる中国である。
唐朝13代順宗皇帝の御世。
西遊記で有名な玄奘三蔵が天竺国から教典を持ち帰ってしばらく。
三蔵法師とは、唐の皇帝が僧に与える位階の最高位の名称である。
三蔵法師の下が大師である。
三蔵法師に任官した僧は、インド人4名・中国人2名・西域人2名・日本人1名と世界に9人のみという希少な高位である。
日本仏教では、傳教大師こと最澄と弘法大師こと空海ばかりが重用されるが、三蔵法師まで登り詰めた霊仙が知られていないのはなぜでしょう。
霊仙三蔵の唐帝国に於ける功績は、玄奘三蔵が天竺より持ち帰ったが、サンスクリット語で書かれていたため読めなかった大盤若経(現在の盤若心経)を中国語に翻訳して、簡潔な教典にまとめたことによる。
それにより、大元帥明王法を身に付けてしまった。
大元帥明王法は、密教による国家防衛にかかわる国家極秘の呪法であるため、これを極めてしまった霊仙を日本に帰らせるわけにはいかなかった。
ということで、霊仙三蔵法師は、日本に帰国していないので、知る人が少ないのだが、この物語はフィクションであるので、気にせずに帰国した体で物語を進めることにする。
さて、深坂峠から近江の国側へ数里、地蔵堂の前に休憩する僧侶と数匹の獣。
僧侶は、日本人最高位の僧侶。
唯一の日本人三蔵法師、霊仙。
獣は、猿形の神獣、斉天大聖こと孫悟空・豚形の神獣、天篷元帥こと猪八戒・河童形の神獣、惓濂大将こと沙悟浄の3匹の神獣と馬形の天獣、西海竜王こと玉龍だが、玉龍は、三蔵法師のみ乗ることが許される天馬である。
この時。すでに玄奘はこの世になく、三蔵の位にある者は、世界で唯一人、霊仙三蔵のみとなっていた。
というわけで、孫悟空と猪八戒と沙悟浄の3匹の神獣と玉龍は霊仙に懇願して日本について来た。
3匹の神獣は、天帝より、仏道の修行を続けるように命じられたのだが、三蔵法師が1人いるのだからという安易な考えで日本に渡ってしまった。
この時、霊仙は故郷金勝寺別院霊山寺に帰る帰路をたどっていた。
金勝寺別院霊山寺は、鈴鹿山脈の北端に聳える標高1009メートルの霊山の山麓に建立された法相宗の寺院である。
現在の滋賀県米原市醒ヶ井に当たる。
休憩中の地蔵堂からは、それほど遠くない。
霊仙ほどの高僧になると、その法力も凄まじく、呪術・幻術等は、あらかた全部使える。
陰陽術まで使いこなせるようになっている。
正直、ひとっ飛びなのだが、到着地の人々が、空を飛ぶ僧侶に慣れてない。
見たこともないであろう。
霊仙は、ゆっくり歩いて帰ることを選んだ。
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