この世界の自分以外の人間はみんなNPCなんだろ?

滝コウイチ

夢オチ

「オマエがNPCでない証拠を出せるか?」

「……は?」


 知念ちねん佑太ゆうたの申し出に、友人の中村なかむら真二しんじは呆気にとられた。

 大学の講義が終わり、2人で最寄り駅に向かって歩いている時に、突然佑太が疑問を呈し始めたのだ。


「オレはこうして生きている。だけど、オマエは本当に生きているのか?」

「何を急に言い出すんだ、お前は?」


 中村は佑太が話している真意を尋ねた。


「オレにはこの世界が誰かに創られたんじゃないかって思うんだ。誰かが創ったゲーム世界のような場所に、オレがいるんじゃないかって」


 佑太は疑い深い男だった。


「俺がNPC……? つまり俺は、RPGロールプレイングゲームの村人ってことか?」


 中村は佑太にとって大学に入って初めてできた友人だった。

 講義中に、彼から話しかけてくれたのがキッカケだった。


 中村は身長が高くてメガネを掛けている。

 講義にはキチンと出席するから、A判定が並んでいるような真面目な男だ。


「オマエだけじゃないよ。世界中……オレ以外の全ての人間はNPCじゃないかって思ってる」

「RPGの村人なら『ここはナントカの村です』しか喋らないだろ? だけど俺達はこうして会話しているじゃないか?」


 中村は佑太ほどゲームをやらないが、国民的RPGくらいはプレイした経験があった。

 その経験から佑太に反論した。


「優秀なAIを積んでいるんだろ? だからこうして会話が成立するんだ。姿形すがたかたちまでオレと同じように創られている。でもオレにはオレ自身しか意識があるってことを自覚できない。だからオレと同じように意識というものがあるって証拠を見せてくれと言ってるんだ」


 滅茶苦茶なことを言い出す佑太に、中村はため息をつきながら答えた。


「……それは、難しいな。だって、本当はお前がNPCだからな」

「え……? ど、どういうことだよ!?」


 動揺する佑太に向かって、中村が続けた。


「お前は今、俺が見ている夢の住人に過ぎないんだ。俺は明晰夢を見ることができる、つまり思い通りに夢を見ることができるんだよ。だからお前の思考も全て俺が創ったんだよ」

「で、でたらめ言うなよ!!」

「でたらめじゃない。お前の記憶に残っている思い出……小学生の時に右肘を骨折したのも、中二の体育祭のリレーで転んだのも、高校時代に髪の長い女の子と付き合っていたのも、みんな俺が創ったものだからな」


 佑太が中村と出会ったのは大学生になったからだ。

 それなのに、佑太の思い出を中村はピタリと言い当ててみせた。


「そ、そんな、バカな……」

「もう、この夢もつまらなくなってきたな。だからそろそろ目を覚ますよ。お別れだ、佑太……」


 その中村の一言を最後に、佑太は目の前が暗くなっていくような感じがした。

 まるでこの世から自分の存在が消えていくように……


  ◇


 知念佑太は目を覚ました。


「……なんだ、オレの夢だったのか。やっぱりオレ以外はNPCだったんじゃないか!」


 佑太はそう呟いた。

 この現実世界に中村という知り合いなどいなかった。

 所詮、夢の中の登場人物に過ぎなかったと佑太は思った。


  ◇


 しかし、目が覚めて3時間後。

 大学の講義中に佑太は見知らぬ男子学生から話しかけられた。

 彼は中村真二と名乗った。


 佑太はどちらがNPCなのか、再び悩むことになった。

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