魂の廻廊

「ここの夕日はいつ見ても綺麗ですね・・・そうそう、報告を忘れてました」


黒いローブを身にまとった男が夕日を見つめながら屈託のない笑顔で墓標に語りかける。


「実はハルトさんが討伐されたんですよ。アルフレイトの王城には姿がありませんでしたし間違いないでしょう。いやー部下から報告を受けるまですっかり忘れてた私も私ですけどね。彼には残酷なことをしました・・・でも彼を救えて良かった。どの道あのままならもっと悲惨で無惨な未来が待っていたのですから」


メガネをくいっと上げて夕日を見つめるその目はどこか遥か過去を見ているようだった。


「・・・もしかしたらもうここにはこれないかもしれませんねぇ・・・」


墓標に刻まれた名前をそっと指でなぞる。


「また・・・会いましょう。シーラ」


男が立ち去った丘。紅く染まった美しい夕日が優しく墓標を包み込んでいた。



ーーーーーーーーーー



黒い霧が集まり次第に形をなしていく。


「ダダルアか?」


「はい。ダダルア帝にございます」


そこは暗い一室だった。大柄で顔面蒼白な顔に伸びた犬歯。見る者の心を奪うかのような容姿。ヴァンパイアの中でも日光を物ともしない始祖であり、本来ならばダンジョンにしか居ないはずの魔物がそこにいた。リノス帝国が帝王ダダルアは1人、少年とでも言うべき幼子に跪いている。


「珍しいな。何か掴めたのか?」


「いえ、その件は未だ不明ですが、迷い人が来ている可能性があります」


「忌々しい・・・これで8人目か?で、慶一君は?」


「先日部下からの報告で恐らく魔王ハルトが討伐されたと。それを告げるとケイ様は丘に行くと仰られました」


「そうか・・・その様子だとハルト君から奪った忌まわしい力でもダメだったか。・・・ハルト君も天国で幸せに暮らしていると願おう」


「はい」


「そうなると・・・長年かけた訳だが、ここら辺で計画を変更する必要があるか?はぁ・・・」


少年は椅子に座ったまま足を組んでいる。


「模倣者でも届かない。支配者でも夢想者でも求道者でも探求者でもいずれも届かなかった」


「シド様。私は諦めません。邪神を滅ぼすまでは」


「そうだね。僕も諦めない。魂の廻廊を繋ぐまでは・・・。それはそうとせっかく来たんだ。みんなにも声をかけて行くといい」


「はい。私はこれで失礼します」


一礼し黒い霧に変わっていくダダルア。


「想いは力になる。か」


首から提げたチェーンにはリングが2つ光っていた。




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元AIと行く異世界 ようすけ @Joy-of-love

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