商談と相談

「元クバール帝国第3王子シュラン・ド・クバールと申します。歳は25歳レベルが66で主に魔法を得意としております」


「おれは元クバール帝国第4王子ガラル・ド・クバールです。24歳レベル42で魔道具類製作に力を入れていました。ジン様よろしくお願いします」


イケメンのシュランとガラルは胸に手を当て片膝を着く。


「私は元セイラン王国第7王女ティナ・マド・セイラン。先月末で14歳になりました。レベルは30。薬学を嗜んでおります。主様、どうぞよしなに」


貫頭衣の裾を摘み優雅に一礼するティナ。こちらも王女らしく美少女だ。新しく買った奴隷の中でも王族はこの3人。この3人に仕えていた騎士等が150人、他にも錬金術の博士号を持つ元錬金術学校先生のレン。大商人だったが商隊を連続で魔物に襲われ倒産したクルト。考古学を専門とする学者のルル。大手レストランで料理長を務めていたナーシャ。この辺りがSランクの奴隷達だ。皆20代で才能がある。詳しく聞くと奴隷落ちするのは優秀な人間が多いらしい。いつ反旗を翻されるかわからないからその時には凡庸な人間の方が与しやすいからだろう。王族の身分でも奴隷落ちしてこうやって従ってるのは400年以上の歴史からすると受け入れ難いと言うほどでもないらしいし。複雑だ。


「ジンとリアだ。お前たちには教育係としてユーシェとセバスを付けようと思う」


新たに増えた総勢183人にジンは告げた。


「ユーシェとセバスは大変かもしれないが部隊に再編してレベルアップを図って欲しい」


「任せていいわよ?シュランもガラルもセイランも顔見知りだしね」


「腕がなりますな。このセバスにお任せ下さい」


「一応今回は人数が人数だからひと月ほど経過を見てから首輪を外す事にするからそのつもりで頼む」


「リアちゃんも頑張りますよー!」


「そうだお前もいたんだな」


「なんで急に私の事忘れるんですか!?1番忘れちゃダメな人ですよ!?」


膨れるリアにユーシェとセバスも笑う。その後クバールの第3王子シュランとその騎士達は魔法部隊へ。クバールの第4王子ガランとその騎士達は魔道具部隊へ。第7王女ティナと、元錬金術学校の先生だったレンは新しく薬と錬金術の専門部隊のリーダーとした。学者のルルにはダンジョンや過去の遺跡で異世界に関することを調べてもらう。料理人のナーシャも料理班のリーダーとして頑張ってもらうつもりだ。元大商人だったクルトにもそのツテを活かしてもらって商売の顔役とする方向で話を進めた。


「あとは屋敷どーするかな・・・契約したものの多すぎるんだよなー・・・」


「あーあの屋敷ですか?いっそ屋敷の中拡げます?マイルームほど使い勝手がいい訳じゃないですけど拡張魔法でそれなりにいけるんじゃないですか?」


「そうだな・・・さすがにこんな森の中にずっといる訳にも行かないし・・・何よりみんなが居るとマイルームしまえないしな。ちゃんとしたナンバーズのホームは欲しい」


「いっそ500人くらい住めそうな感じにしちゃいます?上だけ屋敷で下に巨大な居住空間みたいな」


「そうするか?ついでに地下に訓練場作って・・・薬とか錬金術の工房とか・・・酒場も作ってやれ」


「いいですねー!どんなお化け屋敷だろうと私の溢れ出るセンスでデザイナーズで匠な空間を演出してみせますよ!」


「アフターしかねぇから。その理論だとビフォーは土だから」


最近真面目だと思ってたのに調子に乗るとこれだからな・・・。


こうしてさらに3週間経つ頃には部隊編成やナンバーズのホームがどんどん形になっていった。基本方針はまずレベル上げ、次にメインである部隊の訓練、その後色んなパターンで混成部隊の編成を組みダンジョンでの訓練を指示した。リンフに頼んで町外れの大きな屋敷を買って、セバスに元メイドや元執事の奴隷を見極めてもらいつつ新たに30人買った。メイドや執事と言ってもナンバーズのホームの手入れや洗濯や雑務等が殆どなのだが。


「で、みんなは今のところ順調?不満の声とか上がってない?」


「大丈夫どころかかなり好感触よ?酒場も大好評だしね。私もセバスもようやく一段落着いたって所かしら」


ふぅと一息つくユーシェ。マイルームから屋敷に引っ越して慌ただしさも消えていた。


「ええ。軒並みレベルも100を超えましたしな。今後の予定はどうするんでしょう?」


セバスが紅茶をテーブルに並べていく。


「僕も聞きたいところだな。ジンさんはこれからどうするんだい?ガランもその辺気になるだろ?」


「おれは兄貴と違ってその辺は興味ないかなー・・・なぁジンさんそれより新しい魔道具のことなんだけどさ」


クバール王子兄弟はすっかり打ち解けて今では魔法部隊長と魔道具部隊長に就任している。


「それなら私も薬の事でジン兄に聞きたいことがあるの!」


ティナは薬の工房の責任者となっている。リアやジンに教えを乞い、いずれは製薬会社を立ち上げたいらしい。


「まぁまぁ・・・その辺の話は後でちゃんとするからガランもティナも今度な?じゃあナンバーズの方は順調なんだな」


「ええ。それと新たに情報部隊から精鋭を10人集めて暗殺諜報部隊として作ったんですが、その訓練で面白い情報を手に入れたんですよ」


「セバス・・・いつの間にそんなん作ったんだ?まぁ任せるけどさ。面白い情報ってのは?」


これを。と言ってセバスは数枚の紙をジンに手渡す。


「奴隷落ちに関する情報ですな。そこに書いている通り、リノス帝国ダダルア帝から各国の優秀な人間を奴隷落ちさせろと。そして捏造はいくらしても構わないと」


「セバスさん・・・それ僕らが聞くと笑えないんだけど・・・」


そう言ってセバスをジト目で見るシュラン。


「おやシュラン。いいですかな?こうして捏造の証拠があると言うことは不服ながら奴隷落ちした私たちにどうぞ復讐してくださいと言ってるようなもの」


「それはそうだね・・・」


「ふむ・・・これを見る限り宰相とその側近が査問会や裁判官・・・各種弱小ギルドを買収している形・・・さすがに冒険者ギルドと商業ギルドは無理なようだな」


「ちなみに査問会や裁判官は各国からの選定によって選ばれています」


「表面上は取り繕ってあるわけな。となると表立って目立つ行動をしてれば捕まえられて裁判を経て奴隷落ちが一般的なところか」


「僕達王族はまたちょっと事情が違うけど概ねその通りだよ」


ガランとティナはこう言った話には興味が無いようで魔道具をいじったり薬学の本を読んでいる。


「なんか聞いてるとやっぱり許せませんね・・・ちょっと1発魔法でもぶちかましてきますよ私!」


「待て。お座りだリア」


「噛みつきますよ!」


「とりあえずこの手の証拠になるようなものをもう少し集めといてくれ。それとユーシェ、シュラン、ガラン、ティナは本国の信用出来る人間に・・・そうだな・・・近く反乱の動きがあると手紙を出しといてくれるか?その時は足並みを揃えて協力してくれるようにと」


「おやすい御用だよ」


「おれもやるから魔道具教えてくれ」


「私も薬の事教えてくれたら何枚でも書くわ」


「あんたたちね・・・ちょっとはシュランを見習いなさい。私も貴族や信頼してる家臣に手紙を送っておくわ」


「頼んだ。そうだな・・・手紙のやりとりもあるだろうし3ヶ月後に帝都崩しを始めるって事で。なるべくなら穏便に帝国には帰ってもらう。無理なら武力行使で城の中の魔族達を強制的に帰す形になるだろうな」


後はその後の街をどうするかか・・・。


「リア。クルトを呼んでくれ。リンフにちょっと話をする」


「はーい!」


そしてジンはクルトとリアを連れて商館へと赴くのであった。


「これはジン様にリア様!それにクルト様もようこそおいで下さいました」


「久しぶりだな。ちょっと客間までいいか?」


「ええどうぞどうぞ」


客間に通されお茶を1口啜る。


「今日はちょっと大きい話があるんだけど、大きい船とか取り扱ってるか?」


「大きい船・・・商船や旅客船等運行も製造販売もしております」


「ちなみに旅客船でディラン大陸まで一度に何人運べる?」


「そうですね・・・ディラン大陸だと旅客船50~200人・・・50人乗りが2隻100人乗りが2隻200人乗りが1隻で一度に400人でしょうか」


「ディラン大陸までは何日かかる?」


「天候次第ですが1番近い港町まで3日にございます」


「3ヶ月で船の作成を依頼した場合作れるか?」


「3ヶ月・・・大型の旅客船は無理でしょう。過去の納期からするとと50人乗りを6隻に100人乗りを3隻で手一杯かと・・・あとは各国の旅客船を買う手段もありますが」


「合わせて一度に1000人か・・・船の相場は?」


「50人乗りが金貨1万枚、100人乗りが金額2万5000枚、それ以上だと5万枚からにございます」


うーん・・・最悪ゲートで送ることも視野に入れるか?


「なるほどな・・・リンフ。お前を魔族関係なしに商売人として見込んで言うんだが・・・もしもゲートの魔道具を貸し出すと言ったらリノス大帝国、リノス帝国、それらから切り離して商売できるか?」


「ゲートの魔道具ですか・・・もしもそれが本当ならば・・・そうですね可能です。なんなら他大陸に本店や拠点を移すことすら考えます」


やはりか。ステータスで確認したが称号に商売道と商売人の鑑と商業ギルドマスターがあったからな。恐らくこの男なら権力に左右されずに商売できるだろう。


「転移場所をそちらでいくつか決めてくれ。おれはそこにゲートの魔道具を貸し出す。もちろん他の大陸を含めてだ。ここで相談なんだが・・・近いうちに奴隷制度はなくなる。リンフも奴隷商から手を引かざるをえなくなるだろう。その時は奴隷解放の為に協力してもらえないか?もちろん金は払う」


「それは・・・にわかには信じられませんが・・・」


驚きながらもどこか冷静にこの話を品定めするリンフ。


「もしも。そうですね、もしも奴隷制度が撤廃されれば当商会のダメージは計り知れません。ですが開放された奴隷達の首輪解放やディラン大陸に買い付けられた奴隷達を輸送するだけでかなり相殺される・・・幸いにも各国の重鎮や王族が奴隷なのです。顔も恩も売り放題でしょう。それにゲートの魔道具を借りて全世界との貿易が可能となると・・・奴隷商人を廃業しても・・・と言うよりこちらから奴隷商人を辞めさせてくれと言わせるほどの利益を見込めるでしょう」


「ちなみにこの帝都の顔役や他の組合なんかにも顔は利くのか?」


「ええ。何しろ私はこの国の商業ギルドのギルドマスターも兼ねておりますので」


そう言ってリンフはニコッと笑う。分かってたけどな。


「もしや奴隷制度が無くなると言うのは・・・反乱か何かが起きるのでしょうか?」


「おれが起こす」


「なるほど・・・失礼ながらジン様とリア様については素性を調べさせていただきました。冒険者ギルドの中でも最高峰の黒ランク。しかもパン国王に伝説のエリクサーを献上して王子を救ったとか・・・。クルト様に関してもその若さであそこまでの商人になった経緯は同じ商売人としても驚きました。それと奴隷落ちさせる為に魔物に襲わされた事実も知っております」


話を区切り紅茶を一口含む。


「私は魔族ですが、その前に商人であり商業ギルドのギルドマスターでもあります。その土地にあった商売としてここでは奴隷も扱っております。しかしながら私が描く健全な商売とは程遠い。不正が横行しているこの帝都や本国の大帝国にしても限界は来るでしょう」


「やはりそんな風に考えていたか」


「お見通しですか。いや、だからこそこのような話を持ってきたと判断するべきでしょうか・・・わかりました。事が起きるまで表立って動くことは出来ませんが下準備くらいしておきましょう」


「ならこれを渡しておく。ゲートの魔道具だ。ゲートの魔道具にはいくつか種類があるんだが・・・このタイプを渡しておく。これには親機と子機があって基本的には子機を増やせば親機の所へ双方向でゲートが開くようになっている。瞬間的な転移って訳じゃなく文字通り常時門を開いておける。魔道具には結界の機能も付いてるから親機を設置して起動させれば盗まれる心配もまぁないだろ。魔石は魔力を充電してもいいし魔石を交換しても使える」


そう言ってジンは門を象った1m程の金属の板をストレージから取り出した。門の両扉にはそれぞれ魔石が嵌っている。それよりも一回り小さい金属の板を子機だと告げて3つ渡す。


「使って検証してみてくれ」


「いいのですか?」


「ああ。ただその時が来たら頼むぞ?それまではタダで使ってくれて構わない。悪用だけはすんなよ?」


「悪用等以ての外です。タダでと言うのは怖いので・・・そうですね、では既に売られた奴隷達を本国の方でリストアップして・・・何か理由を付けて暫くは奴隷を回収しやすいように色々と手を回しておきましょうか」


「その方向で頼む。それとその時が来たらなんだが、このを取り仕切る人間が必要になってくる」


「そちらの方も心当たりはあります」


「クルト。お前はこれま通り商人としてリンフと協力してくれ。なんだったら商会を立ち上げてもいい」


「ジン様が後ろ盾となるなら商業ギルドとしても後押し致しましょう」


その言葉にクルトは大きく頷く。


「ならその辺を含めて商会を立ち上げます。取り扱う商品や商会の方向性はジンさんに相談させてください」


「ああ。後で話を詰めよう」


話は色々と膨らんだ。エリクサーやアムリタなどの超高額商品を売って欲しいとか今はギルドマスターをしていて離れられないが本店の方にも遊びに来て欲しいとかリアがケーキ専門店を作って欲しいと要望したりだとか。


思わずゲンコツして話だけじゃなくリアの頭のタンコブも膨らんだわけだが。


これからの商売も恐らく忙しくなるだろう。利益が目的ではないが・・・。なぜならジンとリアの所持金の合計は金貨1兆7000億ほどあるのだ。リアは金貨換算にして9999億9999万9999枚に対し、ジンが約7000億枚。


ある意味現存する金の採掘量と埋没量を足したものを遥かに超える質量をストレージにしまっているその矛盾は元ゲームのおかげで成り立ってしまっているのである。


「よし帰るか」


一行はホームに帰るのであった。

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