スーちゃん

見果てぬダンジョン900階層


「マスター!見てください!」


リアがぶんぶんと指さす方向には今日のノルマと書かれた紙と籠が置いてあった。


「これは?」


「スーちゃんの卵ですよ!」


今日のノルマって・・・。白い目でリアを見るが本人は何故かドヤ顔だ。


「んでスーちゃんの姿がみえないんだけど。ここってこの部屋だけだよな?」


200m四方の広い部屋が1つしかないような感じだ。ん?何かいる?違和感を感じた先を見つめると木の影に隠れきれていないアホほどでかい鳥がちらっとこちらを見ている。


「なぁスーちゃんって体赤くてでかい?」


「お!さすが私のマスター!そうですよ!」


「たてがみは青くて長いのが三本ある?」


「あります!あれ毟っても毟っても生えてくるんですよ!」


鳥が何かを呟いているので耳に魔力を集めて聞いてみる。破壊神コワイ破壊神コワイと鳥が連呼している。あれが鳴き声って訳じゃないんだよな?


「なぁ破壊神」


「なんですか急に!?乙女に向かって破壊神ってとんでもないセクハラですよ!」


どの辺がセクハラなのか小一時間ほど問い詰めたい所だったがあの鳥が気になったのでスルーする。


「ほらあれ。あの鳥が破壊神コワイって連呼してるからてっきり」


「あ!スーーーちゃーーーーん!」


ぶんぶんと手を振るリアに見つけられたショックなのか口がパクパクと動くだけでどうやら声を発することを忘れたようだ。マッハで駆け寄るリアに過呼吸になりだす鳥。動物愛護団体から抗議を受ける前におれがなんとかしないと。


「そこまでだ」


口から魂が出かかっていた鳥を抱きしめているリアの肩を掴んで引き離す。


「大丈夫か?鳥」


「助けてください!」


リアをおれの影に隠すと涙目で助けを求めるので1度リアには離れてもらった。


「あ、危ないところを助けていただき感謝します。私は四神の朱雀と言う者です」


「おれはジンだ。何があったんだ?」


ちらっと遠く離れているリアを見る朱雀。


「破壊神が・・・来る日も来る日も来る日も来る日も私から素材や肉を奪っていって・・・いくら復活すると言っても私・・・もう耐えられなくて」


「そんなに?」


「私の肉を食べたり討伐するとレベルがめちゃくちゃ上がると目の色を変えて・・・」


なるほど・・・どうやらこの異常なレベルは朱雀を狩りまくったことに起因するのか・・・。原作では四神は試練を出すだけで討伐不可能だったはずなのだ。恐らくシナリオの変化により討伐不可能も変化した可能性がある。矛盾するが倒すことが可能になった代わりに何度でも復活・・・事実上討伐不可能と言えばいいのか・・・。


「そこで卵をノルマにしたんだな?」


「はい。私・・・あの人にもう耐えられなくて・・・」


「大丈夫。もう安心しろ。卵はもう置かなくていいから。おれから言っておくよ」


「ほ、本当ですか!?それってここにはもう来ないって事ですか!?」


「ここに来ても何もさせないから安心しろ。ただ卵や素材が必要な時はお願いするからその時だけ・・・できる範囲で構わないから協力してくれるとありがたい」


ぱあっと朱雀の顔が明るくなる。


「そ、それなら私なんでも差し出します!だからあの人をどこか遠くこの世の果てに連れて行ってください!」


「まあ・・・今日から安心していいから」


「ありがとうございます。ありがとう・・・これで数十年来の不眠症から解放されます・・・」


なんかDV被害者のケアをしてる気分になりそうだ。朱雀に話をつけ、リアにもそれとなく釘を刺しておく。


「そっか・・・スーちゃんも1人の時間が欲しかったんですね・・・私気づいてあげられなかった・・・」


何をどうしたらそう解釈できるのかおれにはホワイジャパニーズピーポーだったがひとまず納得したんだ。よしとしよう。


「ちなみに他の四神は?」


「他の子達も近い階層にいますよ!でも隠れんぼばっかで飽きちゃったんで最近は行ってないですねー」


それ他の四神にとっては命かかったデスゲームだから。朱雀の反応見て確信したわ。となるとわざわざコイツを連れて探しに行くのは酷ってもんだよな・・・。


「今日はスーちゃんに会えたし帰るか」


「いいんですか?」


「ああ。今のところここで取れる素材とかは間に合ってるんだろ?」


「そうですね・・・四神の素材も全てカンストしてます!」


カンスト・・・それだけ散っていった命に今は感謝を捧げよう。


「じゃあどうします?」


「そうだな・・・ひとまず地上に出て飯にでもするか?」


「いいですねー!スーちゃん見てたら焼き鳥食べたくなりました・・・焼き鳥にしましょう!」


ビクビクっと怯える気配がするのでさっさと転移する。地上に戻り、焼き鳥焼き鳥と小躍りしているリアを見つめながら焼き鳥の準備をしていく。


当分は見果てぬダンジョンにも用事は無いし次は魔族領でも見に行ってみようかな?リアに話すと高速串うちをしながらいいですねぇ!と喜んでいた。


次はシナリオが変わって一番勢力を伸ばしたという魔人族。シナリオ通りならばある程度数を減らさなければ人種のバランスが崩れてしまうはずだ。


さてどうなることやら。いつの間にかハチマキを頭に巻いたリアがもこみちばりの高度から塩を振っていた。

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