リノス帝国帝都にて

「で、どっちの大陸に行きます?」


「なら最初はピークス大陸行ってみるか?ディラン大陸は元々魔人の大陸って設定だったけど・・・ピークス大陸がどんな感じで魔族領になってるのか見てみるか」


ピークス大陸

人口約550万

かつては人族と獣人族が大陸の7割を占めていたが、現在では人口の凡そ6割を魔族が占めている。魔人族の特徴として魔力、肉体強度の平均は龍族に次いで高い。


「ピークス大陸の最初の街ってガリアンだったよな?」


「そうですね。港町ガリアン。ここはピークス大陸でも一番の港町で他の大陸との交易が盛んです」


「それが今ではリノス帝国の帝都マースになっていると・・・なんというかほとんど魔人族だな」


リノス帝国帝都マース

人口約120万人。現在ではピークス大陸最大の街。貿易業が盛ん。


「そうですね・・・額に角があったり翼が生えていたり目が赤かったり」


現在ジンとリアは帝都内の喫茶店でケーキを食べながら街ゆく人々を観察していた。街中は魔人族でも鬼族や悪魔族など様々な魔人達が闊歩している。


「それに奴隷が多くないか?」


「ですね・・・この街で見る魔族以外の半分近くは奴隷のようです」


「まぁ奴隷制度を悪く言うつもりはないんだけど・・・元々そんな設定もあったからさ。ただこうしてリアルで見ると考えさせられるよなー・・・」


「マスターの世界には奴隷制度ないんですよね?」


「昔はあったみたいだけどな。さてどこから調べるか」


「その前にケーキ追加していいですか?」


すでに店員を呼んでメニューのケーキを指さし3つと手の形を作っているリア。糖分摂りすぎじゃないかなこの子。いやいいんだけどさ。


「見てるだけで胸焼けしてきたわ。あと思ったんだがあのミノタウロスとかオルトロスって魔物だよな?多くない?」


「隷属させて馬車の代わりに引かせてるっぽいですね・・・このケーキうまっ」


「パッと見た限り魔物を使役している魔族が多いか・・・よし。とりあえず奴隷商でも視察してみるか?」


「あ、買うんですか?」


「買わねーよ」


ケーキを食べ終え目についた中でも一番大きな奴隷商に入ってみる。


「いらっしゃいませ」


「随分と大きい店みたいだけど帝都は奴隷商が盛んなのか?」


屋敷程の広さがあるその建物は檻に入れられた奴隷達で埋め尽くされている。ペットショップを思い起こさせるそれは見ていてもあまり気分のいいものではなかった。


「左様でございます。失礼ですがお客様。都民証やギルド証などはお持ちでしょうか?」


「これでいいか?」


「これは黒!いや失礼を致しました。まさか世界でも稀に見る最高ランク冒険者様とは知らず」


そう言って頭から羊角の生えた魔族がペコペコする。


「いいさ。ここって元々こんなに奴隷っていたのか?」


「その後様子だとピークス大陸は初めてでしょうか?よろしければ立ち話もなんですし客室に案内致しますが」


ちらっとリアを見る。リアはどこか悲しげな顔で奴隷達を見ていた。


「頼もうかな。ついでに金は払うからこの大陸の事とか奴隷のカタログなんかあったら見せてくれ」


そう言ってジンは金貨を数枚男に手渡す。破顔し、どうぞこちらにと高級そうな客間に通される。


「自己紹介がまだでした。私は当商館の支配人リンフと申します」


「ジンだ。ここは長いのか?」


席に座っていると首に隷属の腕輪を嵌めたエルフがお茶を運んできた。


「お茶をどうぞ。そうですねぇ。当館はこの大陸でも1番と言っていいほどの歴史を持ちます。450年ほどでしょうか。これもひとえにリノス帝に感謝せねばならないでしょう」


「リノス帝ね・・・ディラン大陸から?」


「左様でございます。ディラン大陸大帝国リノス。その大帝の弟君であらせられるリノス帝がここピークスを支配したのがきっかけですので」


「なるほど・・・それを機に奴隷が盛んになったのか」


「ええ。他にもダンジョン産の魔物の隷属・・・ミノタウロス等街中で見掛けたと思いますがあれら魔物の奴隷化と敗戦民の奴隷支配。この2本立てで我ら魔人族は勢力を伸ばしたのです」


「ふーん・・・ならやっぱりこの大陸ってほとんど魔族が国を治めてるんだよな?」


「ええ。人族の王国やエルフの王国もありますがこの大陸の8割程がリノス帝国の属国となっております。それとこちらがカタログになります。カタログもC~Sまでランク毎にわかれておりますが・・・」


「全て見せてくれ」


そう言ってSと大きく書かれたカタログを広げる。Sランクは容姿端麗だったりレベルが70以上だったり魔法使いだったりとそりゃそうだよなと思える中身だった。金貨は最低でも500枚かららしい。次にAランク。こちらは一段下がるものの僅かに年齢が高いとか処女じゃないとかそんな違いしか無かった。


Bランクは一般の・・・と言った感じか。健康である。ただそれだけというか。Cランクは身体欠損等があり、通常の奴隷としてはあまり価値がないが、専門的な知識を持っていたり何かしら使い道があると。となるとこれ以下は奴隷では無く物として売られる・・・もしくは処分されているってところか。


「しかしSランクってかなり数がいるんだな」


「ええ。当館では品質を最も大切にしております。貴族出や中には王族出といった奴隷もおります」


確かにSランクでも前半のページ。その中には第2王女とかいるなこれ。イーリア王国ねぇ・・・。


「何か気になる奴隷はございますか?」


「ああ。イーリア王国第2王女のユーシェ」


「さすがお目が高い!その奴隷は当館でも・・・いえ当グループでも最も高価な奴隷となっております」


「それとこのセバスチャンかな?このユーシェ付きの執事とあるんだが」


「はい。主従そろっております」


「ならこの2人かな?いくらになる?」


「金貨12万枚・・・と言いたいところですがセットで購入との事なので金貨10万枚でいかがでしょう」


「構わない。じゃあ・・・金貨10万枚はここに」


ストレージから大量の金貨を部屋の角に出していく。


「おお!さすが最高ランク冒険者様!では少々お待ちを。金貨の確認と奴隷の準備をさせてまいります」


リンフは奴隷を5人呼んで手分けして金貨を運ばせ部屋を出ていく。


「マスターどういうつもりですか!?私と言うものがありながら・・・確かにめっちゃ美人のエルフですけど・・・」


リアが涙目で肩をポカポカ叩いている。ついでに肩揉みも頼もうかな。


「アホか。イーリア王国と言えばピークスでも有数の王国だったはずだ。その第2王女だろ?何か聞けるかと思ってな」


「さっすがマスターですね!いやーマスターさすがです!」


語彙力ないのかな?同じこと2回言ってるだけだからそれ。リアが笑顔で紅茶に手を伸ばす。


「しかし・・・奴隷の数が多すぎるな・・・さっきのカタログSランクだけで200人だぞ?王族や皇族は確かに片手で数えるくらいだけど・・・これは多すぎる」


「ですね。AランクもBランクもそれぞれ1000人くらいいますし」


「ここだけでも2000人以上の優秀な人間・・・恐らくそれぞれの国から人身御供みたいな感じで出してるんだろ。忠誠を誓う為かなんかってことで」


「明らかに騎士や兵士でも上の人間いましたしね」


「お待たせを致しました。ご用意が出来ました。さ、挨拶を」


「イーリア王国元第2王女ユーシェ・ル・イーリアです」


貫頭衣に身を包んだ銀髪ロングの見目麗しいまさにお姫様がそこにいた。


「同じくユーシェ様に仕えておりました。名をセバスチャン・オウルードと申します。セバスとお呼びください」


40代前半で貫頭衣に身を包んでいるが執事だなと理解出来る振る舞いのセバス。


「ではこちらの2人が商品になります。首輪の魔法陣に血を一滴。それと魔力を流して頂けますか?」


そう言ってリンフはナイフを手渡す。ジンは指先をナイフで切り、2人の首輪に魔力を流した。


「これで奴隷契約は完了です。お買い上げ誠にありがとうございます」


ペコりと一礼するリンフ。


「じゃあ行くか」


ユーシェとセバスに目配せして商館を出ていく。


「さて・・・一度帝都の外に出るか?」


「そうですね。ホームでゆっくりしますか?」


「そうするか」


「2人もとりあえず着いてきてくれ」


振り返りユーシェとセバスに言うと、2人は表情を固くしたまま返事をする。


「はい」


「かしこまりました」


帝都を出て雑談しながら森の中へ入っていく4人。ユーシェとセバスはどこに連れていかれるのかと不安げだ。


「この辺でいいかな?リア。一応出したら隠蔽かけとこうか」


「はーい!」


「あの・・・何を?」


思わず尋ねるユーシェ。次の瞬間ホームが現れる。驚く2人を中に招き入れて椅子に座らせた。


「ジン様と・・・リア様でしたね?ここは?」


「セバスだったか?ここは見ての通り家だよ。それと楽にしていいから。あ、リアお茶」


「じゃあみんなでケーキも食べましょうよ!」


「お前・・・あれだけ食ってまだ食うのか・・・」


やれやれと台所に向かうリアにため息をつく。


「失礼ですが・・・楽にしてくれと言われましても・・・ただでさえ私とユーシェ様は奴隷です。椅子にこのまま座る訳には」


「ああ・・・ちょっと待ってろ」


そう言ってジンは2人の首輪を解除して外す。突然のことに首を触る2人だったが首輪が無いことに驚きと喜びが見て取れる。


「あの・・・いいのかしら?首輪を外してしまって」


「構わんよ。別に奴隷が欲しくて金を払ったわけじゃないからな」


そう言ってリアがいれたお茶を飲むジン。2人にもお茶とケーキを勧める、


「あ、ちゃんと自己紹介したっけ?まぁいい。おれはジン」


「私はリアだよ!ユーシェちゃんとセバスね?よろしく!」


笑顔でぶんぶんと握手をするリア。


「それとケーキとお茶やっつけてくれ」


「あ、はい・・・いただくわ」


セバスが先にケーキに手をつけて頷く。毒味か?


「それで・・・ピークスには来たばかりなんだが色々聞きたくてな」


「分かることであればなんでもお答えいたしましょう」


「何故奴隷に?」


「それは・・・このリノス帝国の支配が及んでいる国々は数年に一度100人単位で王族や国に仕える者からランダムで奴隷落ちさせられるのです」


「・・・それはリノス帝国に忠誠を?」


「はい。半年ほど前に選ばれて奴隷落ちを・・・」


「なるほどね・・・今は自由になった訳だが国には帰れるのか?」


「いえ・・・一度奴隷落ちをすると国には帰れますが家に帰ることはできません。それがこの大陸のルールですわ」


「マスター」


「ふむ・・・」


「恐れながら。あなたがたお二人は普通ではありませんね?できればユーシェ様共々あなた方のお傍に置いていただけませんか?雑務は私が執り行います」


ペコりと頭を下げるセバス。それを見てユーシェも頭を下げる。


「それは・・・んー・・・」


「いいんじゃないですか?なんだったらどこかに屋敷かなんか買っても」


ケーキをもぐもぐしながらリアが2人を見つめる。


「そうだな・・・2人は今の帝国について思うところはあるか?」


「正直他の国を食い物にするやり方には納得できませんわ。そのうち魔人以外の種族は皆奴隷として扱われてもおかしくないのですから」


「私もユーシェ様と同意見です。恐らく王族や皇族はいずれ駆逐されて魔族がその席を埋めることになると思います」


「許せませんね・・・」


ケーキを食べ終わりお茶を飲みきるとリアが珍しく真面目な顔をして怒っている。


「リア落ち着け」


「はい・・・」


「ジン様はこれからどうするのですか?」


「さて・・・それが問題なんだよな・・・ちなみにユーシェやセバスの顔見知りも当然あの奴隷達の中にいるんだよな?」


「はい。ユーシェ様に仕える第1騎士団20名、それに軍の兵士も60名ほど」


「親しいのか?」


「騎士団はユーシェ様に忠誠を誓っております。兵士60名はかつて私が教官を務めておりました」


「ふむ・・・名前を紙に書いてくれるか?」


紙とペンを2人に渡す。


「どうせそいつらも行く宛て無いんだろうし」


「組織でも作りますかマスター!」


「いやなんだよ組織って・・・」


「え?騎士とか兵士とか部隊みたいだなって」


「部隊ねぇ・・・まぁ手足はあるに越したことはないけど足でまといはいらないんだよなぁ・・・」


「・・・失礼ですがジン様。騎士団は平均70レベル。兵士たちも65以上と精鋭達と自負をしております。もしも・・・もしも彼らも買い上げてくださると言うのならばこのセバス。身命を賭す所存です」


「全員レベル100」


「は?」


「全員レベル100だな。力はおれも貸そう。そこまで全員面倒見るか?」


「・・・100・・・はい。それが出来なければ私の首をお切りください」


じっとセバスを見つめるジン。自分より遥か年下から放たれる無言の圧力はセバスにとっても経験のないものだった。つーっと汗が垂れる。


「いいだろう。どうせアイテムなんかも余ってるしな」


「やりますよー!私!隊長やってみたいです!」


バンバンとテーブルを叩いて興奮するリア。それもまた面白いかとお茶を飲む。2人がリストを書き終えたようなので目を通す。


「じゃあちょっと行ってくるかな。リアとここで待っててくれ」


手を振るリアと頭を下げて見送るユーシェとセバス。さてと、リスト通り全員いるといいけどなと思いつつ商館に向かうジンであった。



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