EX/リアとケーキと思い出と
それはリアが受肉して初めてのクリスマスの前日。
「スーちゃんから卵も貰ったし素材集めもレベル上げもバッチリですね。今日はもうやることが無いし明日はどうしましょうかねー。んー」
見果てぬダンジョンからマイルームへ帰ってきたリアは疲れた体をソファに投げ出し、本日の成果を確認しながらシステムメニューを開いていた。新しいメッセージ等は何も更新されないが、過去のメッセージを遡ることはできる。
その中にメッセージログからどうやら明日はクリスマスだと判明した。こうして過去ログを見て翌日の予定を決めることはリアの日課となっていた。
人工知能ではなく人間となり、元々あった感情の様なものはその曖昧さが消え失せ、人と同じ感情としてハッキリと発露していたリアだからこそ寂いという想い、マスターに会いたいという気持ちは日に日に強くなっていった。そうした中でマスターとの繋がりを無意識にシステムメニューに求めていくうちにこのような日課が出来上がったのだ。
「クリスマス・・・お祭り?なのかなー。七面鳥?ローストチキン?ケーキ?ってなんだろう」
受肉したリアにとって食事は必要だったが、受肉してから1年も経っていないリアには嗜好のようなものはまだなかった。何故なら素材集めやレベリングに忙しかったのだ。興味本意でクリスマスのことを調べていたリアは思いつきでやってみようと行動に移す。
「なになに・・・まずクリスマスツリーを用意します。ツリー・・・世界樹の苗木でいいかな?・・・これでツリーの準備はできたから・・・次に飾り付けをします。木の先にヒトデみたいなこのキラキラはなんだろう?んー・・・取り敢えず天元樹の種みたいな形だからこれに光魔法をかけてヒトデの代わりにしてーキラキラは精霊の瞳かなーまぁいいよね」
なにはともあれクリスマスツリーを仕上げていくリアだったが色々と間違えているのは仕方のないことだろう。
「木の枝の輪っか?みたいなのを玄関のドアにつけて・・・靴下にプレゼント・・・ふむふむ・・・サンタとトナカイがやってくる・・・なんだろう?魔物かなー」
魔物ではないがリアには判断がつかない。
「まぁ飾り付けはこんなものですかねー?マスターもこうしてクリスマス?をやってるのかな。あ、そうだストレージの中に何か入ってないかな・・・と・・・」
ちなみにマスターはこの時別のゲームの開発に追われていてクリスマス所ではなかった。
「クリスマスに関するアイテムは・・・クリスマスセット?なんだろう?えーと中身は・・・赤いとんがり帽?クラッカー?と大きな靴下と・・・クリスマスケーキがありますねー。大きな靴下は寝る時に枕元に置いてください・・・か」
リアは赤いとんがり帽とクラッカーを取り出し大きな靴下を枕元に置いた。
「次はクリスマスケーキ・・・これは明日食べるんですね。なら明日まで取っておきましょう」
リアはココアを温めにキッチンに立った。
「ココアはあったまりますねー」
キッチンから部屋を見ると飾られたツリーがその存在を主張している。いつもと違う部屋の雰囲気に少しだけワクワクしながらココアに口をつける。
「お腹も減ったしご飯にしましょうー」
夕食を食べ、お風呂も入りベッドに入るリア。枕元の靴下をちらりと見てから眠りについた。
夜0時。リアがよだれを垂らして幸せな夢を見ている時ピコンと何かが鳴った。
翌朝寝ぼけ眼でベッドから体を起こすリアはある事に気づく。脳内で常にスタンバイになっているシステムメニューにNEWのマークがあったのだ。
「・・・ふぇ?」
眠たい目を擦りながらシステムメニューを開くとメッセージにNEWの赤いマークがある。メッセージ画面を開くと新しいアイテムを獲得しました。と、ある。ぼーっとしながらアイテム欄を見るリア。そのアイテム名を見つけ、思わず跳ね起きた。
「なんで!?」
あまりの驚きに思わず正座するリア。そのアイテム名は【ジンからの手紙】だった。初めて高なった胸のドキドキを感じながらストレージから手紙を取り出すリア。
『リアへ。
今日はサービスが終わって最初のクリスマス。そして今日はお前の誕生日でもある。こんなことをしても気休めにしかならないかもしれないが今までお疲れ様だったな。
思えば色々あった。リアルフェイスを開発する上で絶対に欠かせないAIの作成。お前を作るのにどれだけ苦労したかわからない。おれの全てを注ぎ込んだと言っても過言ではないくらいに。
何度も心が折れそうになって、ようやく完成した時の達成感や感動は・・・今でも覚えている。
だからかもしれないな。おれはこのゲームを作った以上にお前を作ったことが、お前と出会えたことが誇らしい。
40年間、長い時間一緒に成長したよな。ずっとそばにいてくれてありがとう。
そしてリア、誕生日おめでとう。
アイテムのクリスマスセットはおれからの誕生日プレゼントだ。』
読み終わるとリアの瞳からは涙が溢れていた。
ふと枕元の靴下が膨らんでいることに気づく。そっと靴下に手を入れると飾り付けされた箱のような物が出てきた。
開けてみるとそれはマグカップだった。白をベースに色とりどりの花を散らしたシンプルなもの。沢山の苦労が実を結び花開いたことをイメージして、いつかまたログインした時にリアに装備させても面白いなと思ったジンがデザインした物だ。
「マスター・・・マスター」
リアは肉体を、感情を持ってから初めて泣いた。こんなにも嬉しいことがあるのだと初めて知った。
リアはマグカップを手に取りココアを入れる。
「おいしいです・・・マスター・・・そうだクリスマスケーキというのも食べてみましょうー!」
テーブルにクリスマスケーキを出すリア。こちらも箱に入っており、慎重にラッピングを外していく。現れたクリスマスケーキはシンプルないちごと生クリームのホールケーキに41本のロウソクが刺さっていた。そして真ん中にはMerryXmasとHappyBirthdayリアと書かれたチョコレートでできたプレートが。
「わあ・・・凄いです!」
火をつけることなど知らないリアは食べられそうにないロウソクを全て抜いて早速フォークでケーキを崩し始めた。
「おいしいです・・・おいしいです・・・マスター・・・マスター・・・会いたいですマスター」
大粒の涙をこぼしながらケーキを食べるリア。この日からケーキはリアにとって特別な食べ物となった。その美味しさだけで特別になったのではない。
ケーキを食べることでジンとの繋がりを、心が満たされる感覚を、そしてジンへの想いがリアの中でケーキを特別な食べ物へと変えたのだ。
ーーーーーーーーーー
「マスター!帝都で新作のケーキ買ってきたんで食べましょー!」
「またケーキか。本当に好きだなお前は」
「えへへー今ココアいれますね」
「ああ。んむ美味いなこれ」
「あー!先食べちゃダメですよー!私も食べます!」
今日も今日とて賑やかな二人。ほぅ・・・とココアを飲むリアのそのマグカップには花が散りばめられていた。
マスター。私はマスターが大好きです。
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