国王はパンダ

「おはよう。昨日は驚かされたけどよく眠れたよ。いい物だねあのシャワーというやつは」


「あ、カエラちゃんおはよう!ちゃんとトリートメントした?髪綺麗になってるね!」


昨日ある程度打ち解けたカエラはどこか開き直っているように見えた。最初に会った時の余裕のなさも疲労も今は感じられない。


「あ、マスターおはようございます!朝ごはん出来てますよ!」


「じゃあオムレツかなんか作ってくれ」


「はーい」


「ジンおはよう。昨日は醜態を晒してごめん」


「醜態?」


「その・・・ドラゴンのこととか」


「ああ、気にするな。うちで出るメシはあれが標準だ。うまかったろ?」


「そ、そか・・・美味しかった。ふぅ・・・何故か分からないけど朝ごはんも心做しか凄そうなんだけど」


「まぁ・・・普通の人からしたらそうかもな」


「ふ、普通か・・・そうだね。私なんか二人に比べたら一般人だよね」


「いやそこまでは思ってないけどさ」


「ちなみになんだけど昨日のドラゴンはどの程度の強さなの?」


「どの程度・・・んー・・・まぁレベルが900くらいあれば倒せるんじゃないか?その程度だ」


「・・・私はレベルが82なんだけどさ・・・これでも国内ではそこそこ強い方なんだけど・・・そか・・・900かぁ」


朝から遠い目をするレイラであった。


「ちなみにカエラの国で1番強い人でどれくらいのレベルなんだ?」


「何人かいるけどレベルだけで言えば間違いなく王国お抱えのSランク冒険者のヤックかな。レベルが132もある化け物ね。次が私の兄で将軍のアル。兄も100超えでレベルが120もある」


「なるほどな」


「ちなみにジンとリアちゃんはいくつだ?その様子だと200とかいってそうなんだけど」


「んー・・・」


「あ、いや言いたくなければいいんだ!鑑定もする気はない」


「いや別に構わんさ。そうだな試しにリアちゃんを鑑定してみるといい。驚きすぎて死ぬなよ?」


ちらっとオムレツを作っているリアを見つめるカエラ。意を決したように鑑定。と呟く声が聞こえた。何やら指を動かして数えていると思ったらその指が震えていた。


「レベルが4桁ってありえるの?3000を超えている?夢?私はまだお布団の中なの?」


カエラが頭を抱えて震えている。寒いのかな。まぁその反応が普通なのだろう。


「大丈夫か?」


「はっ・・・ジン・・・おはよう。私は白昼夢を見ていたよ」


「しっかり起きてたから大丈夫だ」


「な、な、ならあのレベルは本物なの?リアちゃんって何者なの・・・そりゃあんな桁違いの化け物みたいな子が一緒なら心強いよね・・・」


「ん?リアはおれより弱いぞ?ちなみにおれのレベルは5000弱だ」


「あ、はは、はは」


カエラの反応がおかしい。壊れたのかな?


「ほらほら朝ごはんが出来ましたよー!今日は特別にフェニックスの卵じゃなくてスーちゃんの卵を使いましたよー!」


「あ、はは、はは」


どうやらまだ戻ってこないようだ。


「ほら食べますよ」


「と言うかスーちゃんってなんだ?」


「スーちゃんは朱雀のスーちゃんです!倒したらお友達になってくれたんですよー!」


「朱雀ってあの四神のか?卵なんて取れたんだな」


「あーそれなんですけどあのクラスになると言葉話せるじゃないですか?ずっと通ってたらなんか毎日卵あげるから勘弁してくださいって言われて」


多分それ友達だと思ってるのお前だけだから。とは言わないジンだった。


「ほぅ・・・さすがシナリオが崩壊しているだけあるな。確か朱雀はレベルが1200程。試練を与えるだけで実際は倒すのが無理な設定だったはずなんだけどな」


「そうなんです!実際最初は私もHPが4割も削られて焦りました」


この際だ。顔面ケーキで9割削れたことは黙っておこう。


「ふーん。まぁ話せるなら1度会話をしてみたいもんだな」


「今度行きます?スーちゃんいい子ですよ?とりあえずごはんにしましょう。カエラちゃんもアホな顔してないで食べますよ」


「はっ。うんごはんたべる」


大丈夫かなこの子。


「じゃあいただきます」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝のバタバタを終え、この件が終わったら朱雀や他の四神なんかにも会ってみたいと思ったジンであった。


マイルームを出立したジン達一行は草原をひたすら歩く。同中魔物と遭遇した際には私がやるから二人は手を出さないでとカエラに念を押された。どうやらこの辺り一帯が更地になることを恐れているらしい。


そして見えた。


「あれがレオ王国か」


レオ王国。獣王国が一つ。人口は約100万。主な産業は鉱物等の素材の輸出と鍛治。この国には多くのドワーフが働いており経済を支えている。


「はい。帰ってきた・・・このまま王宮へ向かうから着いてきて。そう言えば二人はなにか身分を証明するようなものある?ギルド章とか」


「あるぞ。これでいいか?」


「私もあります」


「黒・・・本当に存在したんだ。うん。これがあれば二人の身分は保証されるから安心して」


「わかった」


「しかし綺麗な町ですねー!あ、ほら色んなところで武器が売ってますよマスター」


「なかなか質はいいみたいだな」


商店街は軒並み武器屋というあたり獣人が戦いに重きを置いている証拠だろうか。品質もそれなりにいい。ショーケースに飾られた武器や町ゆく人達の持っている武器をそれとなく鑑定してみたがBランクやAランクが多く見受けられた。


「ここはドワーフが多いですから」


言われてみれば確かにひげもじゃの腰くらいのおっさんをよく見かけた。なるほど。実物を見るのは初めてだが・・・あれがドワーフか。


「そろそろ王宮です。私の後に続いてください」


大広場を抜けていくと巨大な門が見えてきた。王宮だ。どことなくタージマハルな雰囲気漂う建物は美しい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「王国騎士団長カエラ・リード・シンクレアただいま帰還しました」


そこは王の鎮座するなんとも立派な謁見の間だった。扉の前には虎人族と見られる門番。中には重兵装に身を固めた兵士らしき者らが20人。王の横には宰相らしき狐の獣人。王はパンダの獣人だった。


レイラに倣い中央まで歩いて跪き、王の言葉を待つ。


「よく帰ってきた。して、どうだった?」


「はっ。副団長及び団員は全滅。ですがエリクサーはここに。私の力が及ばず団員達を死なせてしまいました。申し訳ございません」


「よい。痛ましいことだが命を懸けて旅立った以上責めはすまい。遺族らへの補償もしよう。その者らは?」


「この者らによりそのエリクサーを分けてもらいました」


「そうか。ではその二人も連れて後で客間にこい」


「はっ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「二人ともありがとう」


「ああ」


「どういたしましてですよ!ふふ」


「客間はあちらにあるから・・・少し休もう」


さすが王宮と言うべきか、宮廷内の装飾は細かく、調度品一つとってもそれなりに価値のある物ばかりだ。


客間に通されたジンとリアはソファでくつろいでいた。お茶請けとして何かリクエストと言われたのでリアがケーキ!と即答していた。


リアがケーキを5回おかわりする頃王が客間にやってきた。


「久しいなカエラ」


「はい。久しぶりです」


「それでこの者らが?」


「ジンとリアです」


頭を下げるジンとリア。


「ふむ。私はレオ王国国王のパンだ。今回は本当に苦労をかけた。それで報酬なんだが何がいい?」


「それなのですが、ナルディと山沢慶一の情報の開示をこの者らにお願いしたく」


「何?何故それを?確かにあれは私の権限で開示することはできる。しかしな・・・」


「この通りです陛下。ジンとリアが居なければカルは・・・カルリアーノ様は」


「わかった。なら着いてくるがいい。まずはエリクサーが本当に効果があるかを確かめねばならん」


「はい」


王に着いていく中、不安そうなカエラの表情が印象的だった。もしもエリクサーがダメなら神聖浄化魔法を使うか。さすがにあまり目立ちたくないがしょうがないだろう。


「私だ。入るぞ」


王子の部屋へと入ると魔法使いだろうか、4人係でベッドを挟み、浄化魔法をかけている。あれが・・・王子か。何故パンダの親から狼の子供が産まれて来たのか謎ではあるが、確かに鑑定の結果は狼であった。レベル103か。なるほど・・・これなら討伐にと声を上げてもおかしくないか。


改めて王子の体に目を移すと所々黒く変色し、変色したところからは僅かに瘴気が漏れている。


「父・・・上」


「喋らんでもいい。エリクサーを」


「はい。カル・・・これを飲んで」


「はぁ・・・はぁ・・・その声は・・・カエラ・・・?すまない。最近では目があまり見えないんだ」


「カル・・・飲んで」


「ああ・・・」


カエラはエリクサーの入った小瓶をカルの口に付け、ゆっくりと口に注いだ。飲み切るとカルの体が青い光に包まれていく。光が収まるとそこには生気を取り戻したカルの顔があった。


「おお・・・カルどうだ?」


「はい・・・物凄く楽です・・・父上」


「そうか!・・・そうか・・・カエラ、ジン、リアありがとう」


「よかった」


ロケットを握りしめ涙を浮かべるカエラ。リアがそっと肩を抱いている。


「じゃあおれ達は客間に戻っています。行くぞリア」


「はい。マスター」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いやーやっぱエリクサー凄いですね!見ました?青い光がしゅわしゅわーって」


「しゅわしゅわしてたらサイダーだろうが」


「えへへ。でもよかったですねー!これで報酬確認したらスーちゃんに会いに行きます?」


「そうだな。いや・・・アルフレイトに行ってみる」


「アルフレイトですか?魔王でも倒しに行きます?」


しゅっしゅっとシャドーボクシングを始めたリアだが恐らくその拳は常人には見えないんだろうな。


「倒しに行くというかちょっと気になってな」


「マスターと同じ世界の人だからですか?」


「ああ」


「私はどこでもついて行きますマスター」


ニコニコと微笑むリア。本当にどこまでも着いてきそうだな。ただ気になるのは本当だ。山沢慶一といいハルトと言う人物といい何があった?


「待たせてごめんね」


「いや大して待ってもない。それよりいいのか?もう」


「ええ。カルの元気になった姿を見れただけで私は十分よ」


そう微笑むカエラの表情は安堵に満ち溢れていた。


「すまんな。待たせたか?」


「あ、いえ。大丈夫です」


「では先程の報酬なんだが・・・いくつか聞きたい」


「はい。なんでも聞いてください」


「お主らは何者だ?」


パンダの目がキラッと光る。


「何者と言うと?」


「誤魔化さなくていい。城の者は鑑定でお主たちを見たようだがそれは恐らく隠蔽したものであろう?」


驚いた。確かに入門の際に鑑定を受けるかもしれないと思って自分にもリアにも隠蔽魔法をかけていたのだが。


「わしの目は誤魔化せんよ。それで・・・答える気になったか?」


「マスター」


リアがマスターの目を見つめる。


「ああ。おれは異世界人だ」


「なんと!」


「それは本当か?ジン!ならリアちゃんも?」


驚く国王とレイラ。当然の反応だな。


「いや・・・リアは・・・説明が難しいな」


「私は元々はマスターの・・・道具のような物です」


「いや違うだろ?お前はおれのパートナーだ」


リア・・・何その驚愕の表情。


「マスター・・・こんなところでプロポーズなんてダメですよ!きゃー!」


「してないから黙れ。そうだな・・・こちらの世界風に言えば知性のある魔道具のような物だった。だがおれがこちらに来る際に人になった・・・と言えばいいのか」


「それは誠か?」


「はい!マスターの言う通りです!」


「何か証明するようなものはあるのか?」


「証明か・・・」


証明しろと言われたらこれは中々に難しい。何を以て証明になるかわからないのだ。


「ならば聞き方を変えよう。山沢慶一の事を知りたがっていたな?そこの者は日本と言う国の首都から来たそうだ。そこの首都の名前はわかるか?」


「東京」


「そこには600mを超える建物があったという。それの名称はわかるか?」


「600m?ああ・・・スカイツリーのことか?」


やばい敬語を忘れている。まぁいいか。


「ふむ・・・わかった。お主を異世界人だと認めよう」


「いいのか?」


「ちょっとジン口のきき方が」


カエラが慌てて止めに入る。


「よい。異世界人とわかった以上この世界の王族なぞなんの権威があろうか。それに山沢慶一には獣王国全体が助けられている。ありのまま接してくれてよい。それにこちらも呼び捨てですまなんだ。ジン殿。レイラ殿」


「殿なんかつけてくれなくていい。それに敬語は中々慣れなくてな。それで・・・ナルディと山沢慶一の件についてなんだが」


「開示しよう。今夜皆で会食と行こうか。その時に知っている全てを話そう」


「わかった」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして会食会。


「カエラから聞いたがなんでもドラゴンを食したそうだが本当か?」


席に着いたと思ったら開口1番それかよ国王。まぁ・・・今日の会食で出るんじゃないか?レイラが食べたいとか言ってたし。


「陛下。リアちゃんにエンシェントカイザードラゴンの肉を分けていただいたのでこれからメインディッシュで出てくるかと」


「それは楽しみだ」


「それだけじゃないよー!今日はフルコースだから!」


「フルコースとな?それは他にも食材を提供してくれたと言うことか?」


「そうだよー!」


何を提供してきたんだコイツは。えへへーお楽しみ!と笑っているが少し不安だ。変なものが出てこないことを祈ろう。


「まずはこれ!」


「これは?」


不思議そうに国王が呟く。見た感じただのサラダだ。


「世界樹のサラダ天元樹の実を添えて」


リアが得意げに説明しだしたぞ。


「世界樹に天元樹だと!?しかしあれはエルフの秘境にしか・・・」


レイラも国王も驚いている。確かに世界樹はエルフの秘境にしかない。だが葉や枝、実なんかはダンジョンでドロップする。


「天元樹の実なんてよく手に入ったな?これ一つでいくらかわかってるのか?」


「いっぱいあるからいいんですよマスター!あと値段は多分付けられないんじゃないですか?」


「確かに・・・とりあえず食べようか。国王」


「あ、ああ・・・だがいいのか?この一皿で城が建つぞ」


「構わん」


ふむ。美味い。瑞々しくシャキシャキしてどこまでも爽やかなのに深いコクの世界樹の葉。これ1枚でエリクサーとまではいかないが四肢欠損くらいなら復元してしまうからな。そして天元樹の実。星のような小さな実だが驚くほどの甘さと重厚感がある。こちらはこれ1粒で1歳歳が若返る効力を持つ。まぁおれらには関係ないのだろうがカエラは自分の肌を確認している。国王の皿にはいくつか多めに乗っていたから10歳くらい若返ったな。


「これは・・・若返ったのか」


国王も自分の手を見て感動している。


「食べ過ぎは注意だがな。一度に食べられるのは10粒。それ以上を口にしたら中毒になって今度は食べる度に10歳ずつ歳をとってしまう。次食べたいなら1年後まで待て」


「む?むぅ・・・そうか」


「次はスープです!」


こうして会食は進んだ。報酬の話などどこへやら。ちなみにドラゴンの肉は国王のお気に入りになったようだ。

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