バルドー大陸で
バルドー大陸。人口およそ830万。その内獣人が8割を占めている。一般的に獣王国と言われるが、大小含め七つの王国と亜人族による連邦共和国一つが主な主要国家。神獣信仰が盛ん。獣人の特徴として一部を除き獣人の身体能力は非常に高い。代わりに魔力が乏しい特徴を持つ。
「見てくださいマスター!見渡す限り草原ですよ!これほどの広さの草原はハバレアにはないですね」
「ここは・・・恐らくレオ王国のカンナ草原か。ここからだと歩いて5日かそこらで着くだろう。本当に・・・ありがとう」
「まだ礼は早いぞ?それよりどっちだ?」
「あっちだな。遠くだががうっすら山が見えるか?あれは神の山と呼ばれる我らが王国の領土だ」
確かに非常に遠くだが薄らと山が見える。そこだけ雲が多いようにも見えた。恐らく非常に高い山なのだろう。
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「ジン殿、リア殿今日のうちに草原を抜けるのは諦めるか」
ふと辺りを見渡すと夕日が沈みかけていた。草原に沈みゆく夕日は綺麗で、吹き抜ける風は心地よかった。
「マスターここら辺で出しますか?」
「ああ」
「そう言えば貴殿ら持ち物という持ち物は持ってないようだが・・・」
「それなら収納魔法が使える」
実は収納魔法ではなくただのストレージなのだが。
「やはり貴殿らは凄いな。私もキャンプの準備をしなければ」
「いや、その必要はないぞ?カエラも泊まっていくといい」
「泊まっていくと言っても・・・リア殿?これは・・・家か?まさか家を収納するとは・・・」
それはマイルームだった。外から見るとシェルターのように丸い造りになっていて、実際シェルターとして機能するように結界魔法がかけられている。室内は空間魔法により拡張可能で、現在の間取りは3LDKだ。
「準備できましたよー!カエラさんもどうぞどうぞ!」
「これは・・・また凄いな・・・明らかに外から見るより広くないか?」
「実際空間魔法を使っているからな。まぁ座れ。リア晩メシを頼む」
「じゃあお肉でいいですか?レイラさん食べられないものとかありますか?」
「いや基本人族と変わらない。ありがとう」
キッチンに立つリアはノリノリである。カエラは椅子に座りながら首から下げたロケットを触っていた。
「そのロケット」
「ん?ああこれか。これは・・・その、お守りみたいなものだ」
「ふーん・・・ところで恋人は?」
「な、な、な、なにを」
突然の質問にカエラの顔は真っ赤に染まった。さっき見た夕日より紅いが大丈夫か?
「いや、そのロケットの中は恋人かなとふと思っただけだ」
「そ、そうならそうと言ってくれれば・・・これは・・・そそその」
「恋愛はからきしか?すまなかったな。変な質問をして」
「いや・・・これは私の憧れの人だ。団長就任の時無理を言ってもらったのだ」
カエラは首からロケットを外し、蓋を開いた。そこには二人の男女が写っている。一人はカエラ。もう1人は・・・
「もしかして王子か?」
「・・・そうだ。カルリアーノ・レジ・レオ。レオ王国の第一王子で今回エリクサーが必要なのはこの方の為だ」
「なるほど。それでその王子は具体的にどうしたんだ?どうせここまで来たんだ。話してみろよ」
「そうだな。王子の体は今・・・瘴気に蝕まれている」
「瘴気?つまり・・・最悪はアンデッド化か」
「そうだ。しかもただの瘴気ではない。魔王の瘴気だ」
「魔王の瘴気?」
「今から30年程前か、バルドー大陸の西にアルフレイトと言う人族の国があった。そこに突如として現れたのが魔王ハルト」
「魔王ハルト・・・」
ハルト・・・異世界人か?それに魔王ハルトなんて聞いた事がないな。
「元々は英雄と呼ばれていたらしいのだがな。その魔王ハルトが突然アルフレイトの王城を襲ったのだ。生き残った者の手記によるとまさに地獄絵図だったらしい。魔王から溢れる邪悪な瘴気は、それに触れるだけで皆アンデッドに変えられたと記されてあった」
「そしてその城下町も含め支配されたと」
「その通りだ。そして今回王位を得るためその魔王を討伐しようとしたのがカルリアーノ様だったのだ」
「なるほど」
「カルリアーノ様の直属である第一師団精鋭500人で王都攻めを敢行した。浄化の魔法をかけつつなんとか町中のアンデッドは100人ほどの犠牲を払ったが殲滅できたらしい。だが・・・王城の中は瘴気が濃すぎたのだ。それでも王家に伝わる退魔のアーティファクトを所持している王子だけは皆の制止を振り切って突入した。兵の話では入ってすぐ窓から外に吹き飛ばされた王子の姿が確認されたそうだ」
「その相手が魔王だったと」
「そうだ。実際町中の瘴気は退魔のアーティファクトでなんとかなったらしいからな。残りの兵達も100人を王子の護衛として付けて残りは突撃したそうだ・・・王子と護衛100人以外誰も帰ってきてはいないがな」
「そういうことか・・・しかし・・・その魔王の目的はなんだったんだ?王都の占拠?」
「わからない。手記では何か叫んでいたらしいが要領を得なかったようだしな」
パタパタとスリッパの小気味いい音が響く。
「なーに暗い話してるんですか?ご飯出来ましたよ!」
「ありがとう。ん?リア殿この肉は?」
「へへー食べてからのお楽しみですよ!」
「じゃあマスターもレイラさんも!はーいいただきます」
「うん。相変わらず美味いなこれ」
「ですよね。焼き方が抜群なのかなー!照れるなー!」
悔しいが確かに料理スキルがカンストしてるだけある。こいつの存在を認めたくないが味は認めざるを得ない。
「これは美味しいですね!私も公爵家として色んな物を食べてきましたがこれ程美味な肉は初めてです。これは何でしょうか?クマや牛とは違うようですが」
「あれ?カエラさんはドラゴンのお肉食べるの初めてですか?」
「どらごん?」
瞬間、破顔していたカエラの目が点になり、アホな顔でフリーズした。
「ドラゴンってあのドラゴンですか?この世界で最強の魔物の」
「んー・・・最強かどうかはわからないですけどそのドラゴンで合ってますよ?」
「ドラゴン・・・これがドラゴン・・・やはりお二人くらいになると桁が違うのですね・・・ちなみになんのドラゴンですか?地龍とかワイバーンとか?」
この世界ではワイバーンもドラゴンに分類されるらしい。てか地龍は確かに見た目ドラゴンぽいけどあれはただのトカゲだぞ。
「カイザードラゴンです。エンシェントの」
「は、はは・・・嘘だよね?そんな可愛い顔してそんな冗談言うんだね・・・はは・・・ごめんねお姉さんビックリし過ぎてうまく笑えないや・・・リア殿は面白いですねジン殿」
「いや合ってる。と言うかそっちが素か?素で話してた方がいいんじゃないか?」
「へ?」
「いやだからカイザードラゴンで合ってるよって。エンシェントかどうかは食っただけじゃわからんけどさ。それにこの際だから殿とか要らないぞ?素で話せ素で」
「そうですよー堅苦しいですよ!あ、じゃあ私もカエラちゃんって呼ぶんでリアちゃんって呼んでください」
「・・・リアちゃん・・・ジン」
「そうそう。それでいい」
「ねぇ・・・これほんとにカイザードラゴンのお肉なの?」
「そうですよ!魔法でどーんでお肉ですよ!まだまだ沢山あるんでいっぱい食べてくださいね!」
「そ、そうか・・・ドラゴンって初めて食べたよ・・・」
何だかんだ衝撃が大き過ぎたのか、ドラゴンが美味だったのか不明だが少し打ち解けたカエラちゃんであった。
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