バルドー大陸へ
「ちょっといいか?」
「貴殿は?」
ひとまず事情だけでも聞いてみるかとジンとリアは宿を訪れた。
「ジンだ。こっちはリア。さっきの一悶着を見ててな、事情次第だが力になれなくもないと思ってな」
「なに!!だが・・・見たところ船乗りには見えん。力になってくれると言うのであれば有難いが正直強そうにも見えんしな・・・」
「マスターはこう見えてもめっちゃ強いんです!あなたなんて指1本触れられませんよーだ!」
短気なリアであった。
「・・・それは聞き捨てならんな」
「おいやめろ。争う気はない。それで・・・事情は話すのか?話さないのか」
「このままただ待っていても仕方ないか。いいだろう。まず最初に全ては話せない。これは申し訳ないが断っておく」
「ああ」
「私がここに来た理由は万象の入江というダンジョンにあるとされるSSSランクアイテムの海神の雫が目的だ。だがそもそもダンジョンの在り処が分からなくてな。なんでも証と言うものを手に入れればダンジョンには入れないらしい。そんな中副団長が痺れを切らしてな、私の静止を振り切って騎士団員総出で入江という入江を捜索すると言って出ていってしまった。結果・・・誰一人帰ってはこなかった」
ちらっとリアを見る。その得意そうな顔からして・・・海神の雫はやはりあるか。それにしても入江を片っ端から捜索・・・か。それこそ自殺行為だ。いくら見えないとは言えそこに入口はあるのだ。証の無いものが入江の穴に落ちたら高レベル帯モンスターのひしめく遠洋か無人島にワープさせられて・・・恐らく全滅だろう。
「なるほど・・・で、今はあんた1人か?」
「ああ。・・・いかんな・・・私としたことが礼を失したな。レオ王国が騎士団長カエラ・リード・シンクレアだ。カエラと呼べ」
「わかったそれでカエラ。海神の雫は手に入らなかったんだろ?すぐ本国に戻る必要はあるのか?」
「詳しくは言えないが・・・海神の雫が手に入らず団員達も失ったとなれば次の手を探さねばならん。一刻も早く」
ギリッと唇を噛む騎士団長の顔に余裕は感じられなかった。何かある、か。
「海神の雫と言えば・・・最上級回復系アイテムのエリクサーの素材だったな。他にも使い道はあるが・・・目的はエリクサーか?」
「・・・!?」
「やはりそうか。なら海神の雫が手に入らなかった今、それに代わる素材・・・そうだな。神龍の泪辺りを今度は取りに行かないといけない。だがそれこそ無謀と言うものだ」
リアの神龍の泪も持ってますよアピールがウザイのでフルシカトする。
「なぜ・・・」
「それ以外考えられないからな。と、言うことはだ、騎士団長直々に出向く要件となるとエリクサーが必要なのは王族か?」
エリクサーもあるんだろ?わかったわかったお前は優秀だから大人しくしていなさい。とリアを目で制する。
「そこまで・・・何者だ?」
「別に何者でも構わないだろ?で、どうなんだ?」
「・・・ああ。我が国の第一王子を治療する為だ」
「やっぱそんな話か。で・・・どうする?」
「どうする・・・とは?」
「実際に会ってみてだが・・・治してやらんこともない」
「なんだと?いや、不可能だ。エリクサーでなければ絶対に」
「エリクサーを持ってると言っても?」
「それこそ持っているはずがないだろう!」
「リア」
「はいどうぞ」
「これは・・・?本当にエリクサーなのか?鑑定。・・・これは・・・本当に・・・貴殿ら・・・・・・・・・・・・先程までの非礼を詫びる!本国に戻れば望む報酬も渡すことができるだろう!だからどうか!どうか・・・これを私に譲ってはくれないだろうか」
「ふむ・・・一つ聞いていいか?」
「なんでも・・・答えよう」
「ナルディ。それと山沢慶一。これに聞き覚えは?」
「それを・・・どこで?知って何になる?いや・・・確かに知っているが」
「そちらでは有名なのか?」
「いや・・・どちらも恐らく国家機密になるだろう」
「・・・国家機密をなぜいち団長が知っている?」
「これでも私は公爵家に出自を持つ。それらの情報は秘匿されているが、公爵家以上の権威を持つものと一部の貴族ならばその話は知っている。だがどこでナルディを?あれはもう数百年も昔の話だろう」
「ちょっとな。山沢慶一の方は?」
「そちらは異世界人として我らが祖先が・・・保護した。もたらされた技術の高さからこちらも秘匿されているが・・・まさか知っているものがこちらの大陸にもいようとはな」
「では交渉だ。ナルディと山沢慶一に関する情報の全てを報酬に。飲めるか?」
「それは・・・わかった。私の命に変えても陛下に請願すると約束する」
「よし。なら交渉は成立だな?明日出発する」
「明日?しかし船は・・・」
「ゲートを使う」
「ゲートだと!?なぜそんな古代魔法が使える!いやアーティファクトか?なんにせよ・・・何者なのだ貴殿らは・・・」
「今日はひとまず休め。その顔・・・寝てないんだろ?明日の朝・・・そうだな10時に町の入口までこい」
「・・・わかった。心遣い感謝する」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんでずーっとシカトするんですかマスター!」
リアはお冠のご様子だ。無視シカト無反応の三拍子をしていればそれも当然か。宿に戻り今後について話し合う。
同じ異世界人として・・・いや、単純に何があったのか知りたいだけ、か。
リアにはケーキを買ってやった。恐ろしいほどの速さで機嫌が直った。簡単すぎて怖くなるレベルだ。1+1よりも簡単かもしれない。
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翌朝。シンクレアは待ち合わせよりだいぶ早い時間に約束の場所に来ていた。
「カル・・・待っていてくれ」
その手にはロケットが握りしめられていた。
「お?待たせたか?」
「いや、私が早く来すぎたのだ。それで・・・どうするんだ?」
「そうだな・・・少し歩くか。ここでゲートの魔法陣は目立ちすぎる。恋人岬まで行けば安心だろ」
「恋人岬?だがそこに行くには魔物たちの棲む砂浜を超えねばならんぞ?その・・・大抵は守れると思うが大丈夫か?」
「魔物?ああ・・・大丈夫心配ない」
「そうか?」
少し不審な目付きで見られたがまぁいいだろう。実際ゲートの魔法陣は目立つ。ここに来た時入江に飛んだのもそのためだ。何より入江に行くより近いしな。
「マスター敵です」
「カニだな」
「デッドキャンサーか。こいつらは堅いからあまり剣が通じないんだが・・・下がっていろ。私が守ってやる」
「カエラさんカッコイイですね!マスター聞きました?アレですよアレ!マスター私にも言ってください!」
「わかった。カエラ下がっていろ。行け甘党系元おバカAI」
「まて!こいつらは貴殿らでは!」
「マスター酷いです・・・女心わかってないです」
「いいからさっさと行け。ほら仲間も増えてきたぞ?よかったな?今日はかにしゃぶだ」
「貴殿ら冗談を言ってる場合ではないぞ!数が・・・15だと?・・・撤退を視野に入れるぞ!」
焦るカエラを後目にリアは空に指を突き出した。
「ソーラーレイ」
天空に巨大な魔法陣が現出したと思った瞬間、目の前が白光で埋め尽くされた。
ソーラーレイ。天と光と聖の最上級複合魔法の一つ。天空に巨大な魔法陣を投影し、魔法陣から聖なる太陽のエネルギーを極太レーザーにして撃ち出す魔法。
「なっ!・・・ぐっ・・・こ、これは・・・」
音もなく眩いばかりの光が収まったそこにはガラス化した砂浜以外もはや何も残っていなかった。
「・・・リア」
「あなたのリアがやりました!」
「・・・リア」
「褒めてください!やっぱり綺麗ですよね!この魔法うるさくないし!」
「・・・リア。おれがさっき・・・ゲートは目立つから恋人岬まで行こうかと話したのを覚えているか?いや覚えてないよな?何故なら覚えていたらこんな広域殲滅魔法なんて撃たないからだ。なあ?リア」
やらかしたことに気づいたのだろう。そしてジンが何やらカエラに防御結界をかけている様子を見て確信した。リアは持てる全ての魔力を込めて最上級結界が一つ絶対守護領域(ATフィールド)を展開した。が、ジンの放った極大爆裂魔法が付与され、立体魔法陣が多重に展開している顔面ケーキにより爆散した。尚、リアのHPは1割を切った模様。
「ま、ます・・・た・・・わたし・・・あなたに会え・・・て・・・がくっ」
「死んだか。まったく・・・目立ちたくないからわざわざ歩いたと言うのに。怪我ないか?」
「あ、ああ・・・ジン殿・・・あなたたちは本当に・・・一体何者なのだ?あんな魔法・・・戦争でも見たこともない・・・規模が違いすぎる」
「まぁ・・・そーゆー人もいるってことだ。ほらリアしっかりしろ」
「だ、だめれす・・・あなたのリアはもう動けまてん・・・」
「しょうがない。ほら。エリクサーだ。これで回復したろ?」
「エリクサー!?それは」
「ああ心配するな。エリクサーなんていくらでもある」
「そ、そんな・・・なら・・・私たちの苦労は一体・・・」
なんだかんだ復活したリアにゲートを展開させ、無事バルドー大陸に到着した一行であった。
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