港町
「・・・何があった?」
「マスター?おはようございます。どうしたんですか?朝から何読んで・・・はっ!まさかエッチな・・・」
それは条件反射だったと思う。ストレージから顔面ケーキ用のケーキを手に取り投げつけるまでまばたき1回するかしないかの神業であった。
「ま、ます・・・た・・・ごえんなさ・・・い」
常人なら恐らく即死したであろう音速を超える顔面ケーキ。しかしながらリアは鼻血も出さずに受け止めたのだ。ただし顔面は乙女や美女とはかけ離れ、意識も手放すことになったが。
「ちっ。運が良かったな?それには爆裂魔法を付与してなかったわ」
マスター・・・ケーキに爆裂魔法付与ってあんた・・・なんばすっとね・・・
意識を手放す寸前確かにリアの耳はその言葉を拾っていた。
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「しかし・・・この手記はいつのなんだ?おい、答えろ勘違い系元ポンコツAI」
「ひぐっ・・・酷いですマスター・・・」
「これはいつどこで拾った?」
「それは・・・えーと・・・確か見果てぬダンジョンの・・・中層だったような・・・?」
「中層?本気で言ってるのか?中層って言ってもソロなら確か推奨レベル300だぞ?しかもなんでそんなとこにこんなもんが」
「知らないですよぉー・・・でもそうです。私に間違いはありませんっ!」
「・・・なんか・・・途端に信頼度下がったわ」
「マスターのばかぁ!」
「ちなみにこの名前に聞き覚えは?」
「うーん・・・ないですね」
「ふむ・・・猫の獣人族の集落は?まぁどこにでもあるか・・・いや待て。ナルディって村に聞き覚えは?」
「ナルディですか・・・もしかしたらここ帝都の図書館なら何かわかるかもしれないです」
「なるほど。これがもし事件なら何かしらの記述はあって然るべきか。よし元ダメAI。図書館に行くぞ」
「マスター・・・酷いです・・・」
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「図書館ってか・・・要塞?なんだこれは。ほんとに図書館で合ってるか?」
「合ってますよー・・・一応戦争なんかになっても大事な本が燃えたりしないように強化されてるみたいですよ」
「そーゆーことか。なるほど。しかしでかいな」
黒い鉄の外壁を見上げると所々魔法陣が描かれている。恐らく結界だろう。高さは30mくらいか?正面に立ってる感じだと幅は300mはあるかもしれない。中に入り50mほど進むとようやく司書らしき人物が目に入った。
「こんにちは。ちょっと聞きたいんだけど大丈夫ですか?」
「はい。どのような本をお探しでしょうか?」
「えーと・・・ナルディって村のことが書かれてる本があれば読みたいんだが・・・探せますか?あと山沢慶一って人の名前が出てくるやつも」
「しばらくお待ちいただけますか?番号札21番でお呼びします。こちらを」
「ああ」
「しかしマスター中も広いですね」
「そうだな。この広さだと司書も何人いるかわからんレベルだな」
「あ、そうだ一応黒のプレートも出しておきましょうよ」
「ああ、ギルドのあれか。ついでにどの程度の閲覧制限まで大丈夫か試してみるか」
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「21番でお待ちの方」
「ほいっと。どうでした?」
「ナルディですが本ではなくこちらの記事が一点。そして山沢慶一という名前が出てくるのも一点。ですがこちらは閲覧制限レベルが9と非常に高いものです」
「EX級なんだが・・・ダメか?」
「いえ大丈夫です。2人とも黒をお持ちなのですね。初めて見ました。プレートを預かってもよろしいですか?機械に通しますので」
「ああ」
そう言ってジンとリアは司書へプレートを手渡した。司書は機械の上にプレートを置くと呪文を唱えた。
「お待たせしました。確認が取れましたのでこちらをどうぞ。これを1番奥の門番の所にお持ちください」
「ありがとう。ちなみになんだがEXならどこまでの閲覧が可能なんだ?」
「この図書館のおよそ95%程でしょうか。レベルで言うと最大閲覧制限であるレベル10の約4割が閲覧可能となっております」
「了解した。」
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門番に札を手渡すと地下5階のフロアへと案内された。閲覧制限が高くなるほど地下の奥へと進むらしい。門番が大きな扉の前で何か唱えると魔法陣が浮かび上がり勝手に開いていく。中は・・・思ったよりも狭い。学校の教室程の広さだろうか。目的の本の場所を教えてもらう際、ここのフロアは全て閲覧可能だが時間制限があり最大でも5時間ですとの事だった。目的の本は歴史書だった。
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成都歴350年5月15日
バルドー大陸獣王国へ向けて同大陸帝都属国ミーチェ王国及び王都属国カラミア王国の連合国軍が侵略を開始した。地理的に挟まれる事となった獣王国23万の軍は疲弊し、同年7月20日には敗戦を認め、9月10日には帝都の属国となった。この戦争により獣王国の死者は約15万人。連合国軍の死者は約5万人であった。
中略
尚、この戦争で初めて異世界人山沢慶一を保護。特筆すべきはその特異な能力である。特記事項の為伏せるがこの異世界人の力により、帝都や王都は飛躍的に技術を伸ばしたと言われている。
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「今から508年前か。なるほど・・・リアの言う通り既に来ていたのか」
「そうですね。それにその頃はまだバルドー大陸にも人族の王国があったようですね。記事の方はどうですか?」
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成都歴350年8月2日
現在まで戦争にて消失した獣人の集落は100を超える。中でも神の遣いと謳われたナルディの白猫族達が絶滅したことは獣王国にとって衝撃を伴った。
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「白猫族・・・そんなのいたか?」
「いえ、私の記憶の中にもいません。これもこの世界がリアルになったことによる変化なのか、ただの獣人族の猫の部族の一部を抜粋しただけなのか・・・判断に困りますね」
「ふむ・・・いずれにしろ手がかりはバルドー大陸か。どうする?観光ついでにバルドーに行ってみるか?」
「待ってください」
リアが待ったをかけるとは珍しい。何か見落としがあったのだろうか?
「まだ帝都で新作のケーキを食べていません」
「えーとストレージストレージ。爆裂魔法付与したケーキは」
「ちょちょちょマスターダメですここ図書館ですよ!そんな(魔力が)おっきいの・・・私耐えられません(物理的に)・・・真っ白に汚されちゃいます(主に本が生クリームで)」
「ふむ。それもそうだな。もう少しで出禁になるところだった」
「でででは出ましょうかマスター」
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「ほらやっぱり並んで正解でしたね!見てください美味しそうですよマスター!あ、1口交換しましょうよ!!」
図書館を出た2人はケーキ屋に30分ほど並び、リアが食べたがっていた新作のフルーツケーキと、こちらも新作のチョコをふんだんに使ったケーキをテラスでいただきますする所であった。
「ほんとにお前は・・・なんでそんなにケーキに目がないんだ?はぁ・・・まぁ食ったら出発するか」
「え?覚えてないんですか?」
「ん?何がだ?」
「え、い、いやいいんです。覚えてるわけないです・・・よね。あ、そうだバルドーですよね?なら万象の入江の近くにある港町から出港できますよ!」
「知っている。だがどうする?バルドーまで徒歩と船だと恐らく1ヶ月はかかるぞ?」
「私は構いませんよ?マスターの思うようにしてくだされば」
「そうか?なら・・・ゲートは目立つからな・・・万象の入江までゲートで行ってあとは歩きと船でいいか?それならすぐだろうし」
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と言うわけで万象の入江である。ここは最難関ダンジョンの一つであり、資格のない者はその入口を見ることも叶わない。水に関する魔物が多く棲息し、地上では採取不可能な鉱物や植物なども多数存在する素材の宝庫だ。ソロでの低層階の推奨レベルは最低でも100からである。
「こうして見ると禍々しい入口というかなんと言うか・・・」
「そうですね・・・入れる者からしたら入江にぽつんと地獄に繋がってそうな大きな穴があるだけですからね・・・あ!ここの素材もばっちりですよ!」
「苦労したんじゃないか?ここは他のNPCも連れてこられないしトラップの山だった気がするんだが」
「そこはマスターへの愛です!」
「そうか。港町はこっちだったな?行くぞ」
「マスターが氷のようです!」
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港町クレイアクア。人口はおよそ5000人ほど。漁業と輸出入の二大産業で成り立つこの町はハバレア大陸の海の玄関としても有名。推奨レベル50のマード海岸を抜けた先にある恋人岬で眺める夕日と朝日は絶景と評判。
「やはり港町。活気が帝都よりもあるな」
「そうですね!私お刺身が食べたいです」
「お前の食欲はほんとに・・・ん?なんか騒がしくないか?」
「なんでしょう?・・・あ、兵士が何人か走ってますね。窃盗とかでしょうか?」
「にしては多すぎないか?どう見ても兵士の数が・・・30人くらい?いるんだが」
ちらりと港の方を見ると30人ほどの兵士が慌ただしく何かを取り囲んでいるようだった。
「私はバルドー大陸獣王国が一つ、レオ王国獣王国騎士団団長のカエラ・リード・シンクレアである!直ちに船に乗せよ!乗船許可証は出したはずだぞ!」
そう名乗りを上げたのは赤い髪とケモ耳と尻尾が特徴的な大柄な美女であった。服装は騎士にしては軽装な気もするが、剣や鎧に刻まれた獣王国の紋章はその者の位の高さを示しているようにも見えた。
「だから何度も言うようだが乗船許可は出せない。軍団長殿。だからどうか暴れないでください」
「何故だ!クラーケンぐらい構わんからさっさと出せ!」
「それは出来ません!あなた一人を乗せるわけではないのですよ?今の時期のクラーケンは非常に気性が荒い上に複数で出てくる事もあるのです!」
「くっ・・・しかし私は戻らねばならんのだ!誰か船を出せる者はおらぬか!金なら払うぞ!」
「どうやら乗船許可云々で揉めてるようですね。相手がお偉いさんなんでこの兵士の数だったんですね」
「ああ。どうやらそのようだな。しかしクラーケンか」
「はい。単体討伐ならソロでもレベルが70あれば倒せますけど複数となると・・・連携組みますし一体増える毎にレベル+30くらいないと話になりませんからね」
「二体でレベル100・・・三体でレベル130・・・この町の冒険者のレベルは50かそこらだったな」
「そうですね。レベル50でフルパーティを組んだところで一体倒すのにどれだけ犠牲を払うかわかりません。中には飛び抜けて強い人ももしかしたらいるかもしれませんが」
「進んで海に出ようって人間は何人もいないか。どれ」
ジンは騎士団長に鑑定を使った。
名前/カエラ・リード・シンクレア(女)
歳/21
種族/獣人族/虎人族
職業/騎士団長
レベル82
HP1036
MP415
攻撃力960
防御力724
魔攻327
「うーん・・・確かに元NPCとしては強い部類だが・・・無理だな」
「この際ゲートで飛んでしまいますか?いっそ彼女も」
「それでも別に構わんが・・・どうしたもんかな」
「ちっ。では私はこの町の蒼い砂浜亭にいるから船を出せるようになったら知らせてほしい」
断念したのか騎士団長は踵を返すと人混みを割って宿へと向かった。
「どうします?マスター」
いちごをフォークに突き刺したまま口の周りに生クリームを付けまくったリアが問う。
「まずはその口の周りの生クリームをどうにかしろ。食いしん坊系元アホAI」
「マスター今日も毒舌ですね!リアは悲しいです!」
ぷんぷんと怒っているリアを横目に話次第ではバルドーまで送ってもいいかと考えるジンであった。
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