異世界人の手記

「朝か」


眠気まなこをこすり横を見ると隣のベッドではよだれを垂らして幸せそうな顔で寝ている元AIがいた。


「ほんとにコイツは・・・」


ストレージからタオルを出して口元を拭く。


「マスター・・・ケーキがぁ・・・私のケーキがぁ・・・おにー・・・」


どうやらケーキの夢を見ているようだ。しかも不服ながらおれに取り上げられているように手をバタバタさせている。


「はぁ・・・さてと。顔洗って歯磨いてくるか」


そう言えばここに来てからストレージの中身を確認していなかったなと歯を磨きながらステータス画面を開いた。


「ふんふん・・・ふーん・・・ん?」


大量の素材やアイテム郡の中にそれは異彩を放ってポツリとあった。恐らくリアでは気づかない、もしくはゴミと思ってもいいような物。歯ブラシを咥えたままジンはそのアイテムを取り出した。


【山沢慶一の手記】


「なんだこれは?この名前・・・日本人だよな」


パラパラとめくるとそこには異世界転移してきた時からの出来事が日記のように綴られていた。


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今日は2xxx年12月4日。ここはどこだろうか。私は今朝方まで研究室でレポートをまとめていたはずだ。携帯も電波が入らない。しばらく歩いてみたがこの辺りは山しかないようだ。


持ち物はポケットに入っていたタバコ、ライター、携帯、ボールペン三本、腕に時計、カバンの中にノート、ボールペンがさらに4本、電卓、イヤホン、板チョコが1枚、研究データの入ったファイル一つ・・・困った。書いてて思ったが今は12月。しかし半袖でちょうどいい温度。


いったい私に何があったというのだろうか。


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12月5日。信じられないものを見た。あれはゴブリンやスライムと呼ばれるものだろうか。幸い向こうは私に気づいた様子はなくなんとかやり過ごせた。


果物らしき物も食べたがほぼ全て見たことがない物ばかりだった。腹の調子は大丈夫なので恐らく死にはしないだろう。


どこか人里を探さなければ。


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12月6日。ようやく人里に出られた。しかし彼らはなんなんだ?皆真っ白な猫と人が合体したような・・・言葉も全く通じなかったが、ジェスチャーでなんとか意思疎通はできた。


今日はその猫と人が合体したような人?の所に泊まらされるらしい。その容姿の美しさに目を奪われたのは事実だが・・・不安だ。食事は豚肉?を炒めた物とパンとスープだった。質素だが空腹の私にはありがたい。


今夜は眠れるのだろうか。


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12月7日。朝ネックレスを渡された。付けてみると何故か言葉が理解出来た。どうやらここは異世界らしい。


そして昨晩泊めてくれたのはシーラという猫の獣人族らしい。村の規模は40人くらいか?獣人と言っても耳やしっぽが猫のそれだがそれ以外はあまり猫っぽいところは確認出来ない。髪の毛や体毛が全部白いくらいだろうか?皆見目麗しく見えるのは私が猫好きだからだろうか?


よくはしてもらっているのだが私は・・・これからどうなるのだろうか。


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12月8日。ここはナルディという村らしい。人数も50人ほどの小さな村だ。


今日は私のために歓迎会を開いてくれた。


皆優しく暖かい。こうして大勢で食卓を囲むのはいつ以来だろうか。


酒の得意ではない私だが、楽しくてついつい飲んでしまった。なんでもシーラが踊るから見ておけと腕を引っ張られた。


彼女の・・・シーラの踊りとその姿に目を奪われたのは内緒にしておこう。


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12月9日。シーラがここに住まないかと提案してきた。胸が高鳴ったが・・・私には力仕事など向いていない。こんな約立たずがいつまでも食料をいたずらに減らしてしまうのは避けたい。


何か力になれることがあればいいのだが。


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12月10日。思ったがここの暮らしは合理的ではない。鍛冶はある程度出来ているが主に武器としてしか使っていないし、大工も工具はある程度あるのに技術・・・恐らくは設計が苦手なのだろうか?素人目に見ても家や水車や馬車などいくらでも改良の余地がある。


明日シーラに力になれないか相談してみようか。


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12月11日。やった!改良に村長が許可を出してくれた。これで皆の、シーラの力になれる。


よし。頑張るぞ。


しばらくは設計と力学を教えて実用的な物にしないと。まずは水車から。


忙しくなりそうだ。


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12月25日。あれから2週間。日本ならクリスマスか。


村の皆の協力のおかげでなんとか水車とそれを利用した臼、それと馬車の改良に成功した。


何故か設計しようとすると頭の中でCADのように精密に理解ができるのだ。ここに来て私の才能でも花開いたのだろうか?次は井戸だが・・・ひとまず皆が喜んでくれてよかった。


本当に・・・よかった。シーラにもお礼を言われてしまった。


お礼を言いたいのは私の方なのに。


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12月30日。ナルディの村の近くにある丘でシーラに告白した。シーラは私を受け入れてくれて晴れて付き合うことになった。ここからの夕日は美しい。この気持ち、この景色を私は忘れないだろう。村に帰ると村の人もお祝いだとまた宴会が始まった。


鍛冶屋のベイブに大工の棟梁達、それから近所の主婦をまとめているシェラとそのチビ達。コミュ障だった私がこれほど心許せる友達ができるとは思ってもいなかった。


それに悪ガキのニックとジェラにも相当懐かれてしまったな。井戸もそろそろ完成だ。もっともっと頑張るぞ。


シーラ愛してる。


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1月15日。連合国軍?とやらのお偉い人が来たらしい。私は部屋から出ないように言われているが・・・外が騒がしい。何かあったのだろうか?


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2月24日。ようやく村に帰ってこれた。そこら中血だらけで何もかも破壊されている。みんなで作った水車も馬車も井戸も・・・壊されている。こわされている。(ぼやけて読めない)せいだ。


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2月27日。シェラが生きていた。生き残りはいないらしい。一昨日話を聞いたがまだ信じられない。震える手で皆の遺体を埋めた。泣きながら墓を作った。



これほど泣いたことは過去にない。






おかしくなりそうだ。






帝国も王都も・・・人間なんて滅べばいい。














シーラ。私は・・・どうすればいいのかな。

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