決意

「いやーすまん。報酬の話をするつもりが全くできなかったな」


腹を擦りながら客間で葉巻とワインを嗜む国王。


「いいさ。うまかったろ?」


「ああ。最高だった。逆にすまぬな・・・あれほどの食材を出されては礼のしようがない」


「気にしなくていい。話してくれるんだろう?」


「ああ」


ちなみにカエラとリアは女子会をするそうだ。ここにはいない。


「そうだな・・・何から話せばいいか」


「一つ・・・言っておくがそれを知ったのはこれを読んだからだ」


「これは?」


ストレージから山沢慶一の手記を取り出し国王に手渡す。


「あんたには読めないかもしれないが山沢慶一の手記だよ。こちらに転移してからのことが僅かだが綴られている」


「・・・なるほど。どこで手に入れたかわからぬがそれで知っていたと。では山沢慶一がナルディに滞在していたのは知っているのか」


「ああ。そこに書かれていたのは転移してから恐らく連合国の捕虜として捕まるまでと、解放された後の数日間の事のみだがな」


「そうか・・・元々は人族の侵略戦争が原因だ。その原因となったものそれがナルディだった」


「なぜ?」


「ナルディは特殊な村でな。白猫族と言う神獣様と我ら獣人を繋ぐとされる種族が住んでいたのだ」


「白猫族・・・それは普通の獣人と違うのか?」


「違う。当時を知る訳では無いが伝え聞く所によると普通の猫族達とはまったくの別物と言い切ってもいいかもしれん。何故なら彼らは神獣様の子孫だからだ。我らとはルーツがそもそも違う」


「それは創世の話か?」


「そうだ。神獣様は創世記に神々と共に邪神と戦った。傷ついた神獣様は回復のために永い眠りを余儀なくされたが、我らの守り神でもある神獣様は自身が寝ている間、獣人を守るために力を振り絞り子供たちを産み落としたのだ。産み落とされた白猫族は神獣様と交信ができた」


「なるほど。だからまったくの別物・・・か」


「そうだ。だから我ら獣王国は災害や種の危機が出る度に白猫族の元へ赴き、白猫族を通して神獣様の声を受け取っていたのだ」


「ようするに巫女のようなものか」


「ああ。だから人族は獣王国を侵略するにあたり邪魔だったナルディを監視、隔離したのだ」


「監視?殲滅ではなく?」


「最初は監視と隔離だけだった。恐らく交渉のカードとして取っておいたのだろう」


「ふむ・・・それで山沢慶一は?」


「最初はナルディの村に人族が紛れ込んでいるからという事で保護を名目に連合国軍に捕虜として捕まり、アルフレイトの王城に監禁されていたらしい。しかしその最中に眠っていた力【創造】が目覚めた」


「創造だと?それにアルフレイト?」


「そうだ。なんでもは無理だが様々な物をその手で生み出していたらしい。その二ヶ月の間に連合国軍を通してハバレアの帝国と王国に技術が流れた。アルフレイトはカルが魔王討伐へと向かった地だ」


「ふむ」


「そして事件は起きた。ナルディに帰りたがっていた山沢慶一はアルフレイトから脱出。それを知った連合国軍の司令はナルディの巫女の力と山沢慶一の【創造】の力が一つになることを恐れて・・・ナルディの監視から一転。殲滅へと暴挙に出た」


「なんて馬鹿なことを。それでか・・・」


「そして・・・怒り狂った山沢慶一は連合国軍を滅ぼし、傷つき倒れていた彼を我らが先祖が保護した」


「滅ぼした?その・・・連合国軍をか?1人で?」


「そうだ。連合国軍の死者は5万と公表されているが違う。正確には獣王国と同じく15万だ。1人で10万もの人間を殺したのだ。我らからすれば英雄だがな」


「そんなことが可能なのか?」


「可能だった。その後獣王国は魔人族からの圧力もあり属国となることを了承した。その数年後、獣王国の為に尽力していた山沢慶一だったがある日忽然と姿を消した。これが伝え聞いている話だ。事実この町を見たならわかると思うが元々我らはその肉体でのみ戦う者が多かった。あれらの武器は皆山沢慶一がドワーフを連れて造らせた事に端を発する」


「十分だ。知りたいことは知れた」


「やはり同じ異世界人として気になるのか?」


「ああ。少しだけ・・・気になっただけだ。気になるついでにもう一つ。魔王ハルトのことだが」


「魔王・・・か。ハルトさんも異世界人でな。わしがまだ若い頃よく世話になったものだ」


「何か知っているのか?」


「・・・彼は英雄だった。助けられたこともある。あの治癒の力は凄まじかった。それこそバルドー大陸では1番と言われるくらいにはな。だから本当にあのハルトさんなのか知りたかった。確かめたかったのだ・・・この話を息子に聞かせたばかりにカルは討伐と銘打って出たのだ」


「・・・おれはこれからアルフレイトに行こうと思う」


「やはり同じ異世界人だからか?」


「それもあるだろうな。この世界に迷い込んで・・・一体何を見て来たのか」


「もしも・・・ハルトさんが魔王としてあそこにいるのだとしたら・・・討伐を頼めないか?」


国王は真剣な眼差しでジンを見つめる。そこには王ではなく1人の人間としての矜恃が込められているような気がした。


「いいだろう。もしも不幸ならば・・・おれの手で終わらせないといけないからな」


「それはどういうことだ?」


「いや・・・なんでもない。明日には出立する。今日はもう寝るとするよ」


そうか。と返す国王に手を上げ部屋を出る。



















救おうとかそんなおこがましいことはできない。








だがこれはおれのせいだ。








おれがいなければリアは願わなかった。









少なくとも日本で平和に生きていけたかもしれない二人がこの世界に放り出されたのだとしたら。









せめておれがなんとかしてやらなければ。

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