ゴサン

 酒が必要だった。

 何がいいだろう。

 ビール?

 焼酎?

 バーボン?

 ウォトカ?


 タバコも要る。


 かつての銘柄が蘇る。


 マルボロ。

 ラッキーストライク。

 マイルドセブン。

 セブンスター。

 ハイライト。


 ショート・ホープ。


 ショート・ピース・・・・


 ふっははは。


 サタンは一服ショート・ホープの煙をしっかりと喉を経由して肺まで吸い込み、そのヤニをウォトカの原液を重ねて飲み込むことで洗い流した。


 その儀式によってサタンが蘇った。


 そのままサタンは、鬼を殺した。


「おおおおおおおおっ!」


 地獄のあらゆる機関が亡者たちへの罰を劣後させて一点に集中する。


「戒厳令レベル・アージェント!全員、集え!」


 偉大なる裁判官にして地獄を統括する炎魔大王が、統括者としての権限をすべて使い尽くして地獄の秩序回復に全力を注ぎ込む表明をした。


「悪魔を、屠れ」


 オーダーは青鬼、赤鬼、のみならず、支援者たる仏たちにも浸透した。


 なぜに仏が地獄の支援者なのか?

 それは、救いたいから。

 本当の、根源で、人間の身体とココロの中にこびりついた銅の青錆のようなそれを、こそげ落したいから。


 真悪を、滅ぼしたいから。


 地蔵が、唱えた。


「南観世音菩薩南観世音菩薩南観世音菩薩。真悪たる西洋のサタンをあなた様のその際限ないパワーを持ってちぎり尽くしたまえ。振り下ろされる刀を電撃で木っ端微塵に砕くその奇跡を。猛虎が牙を振るうその瞬間にまるで猛獣使いのように彼の巨大な体躯を手慣づける奇跡のように。そしてそれがけして奇跡ではなく極めて冷静な現実であるということを世に証明し給え!」


 結論から言うと、サタンは増長した。


「ふははははは!東洋のエリアの日本という国の国力はその程度か!我が西洋の闇の中から永遠に浮上できないようなこの俺の恐怖の大きさにはひれ伏すしかあるまいがっ!」


 わたしはサンタコスプレの、白い毛糸のポンポンが頭頂部についた赤いサンタ帽を右手に持ち替えて、サタンに投げた。

 サタンはわたしのその衝動と行動の神速と勢いについて評価することはほぼ無かったようだ。


 わたしは人間でしかない。

 もっと言えば、『人間ごとき』だ。


 でも時折わたし自身の体とココロを震わせるような芸術に出逢うことがある。

 それは新年にわたしの技術を毎年使い果たしている老女と老爺へのクレームの意味もある。現実が事実なのではなく芸術こそが事実であるということを。


 わたしがサンタのコスプレをしてサタンを倒すことに、たったひとり人間の立場として加勢しようとするこの事実を。


「サンタの娘よ!サタンの尻尾にキスせよ!」

「えっ」


 誤算だった。

 身を捨てることを厭うつもりはなかったけど、どうしてわたしが尾ていの匂いが漂うであろうサタンのOXテイルのような黒い鞭のようなそれに唇をつけなくてはならないの?


「キスを」


 地蔵菩薩が督促する。

 理由はわからなかったけど、わたしは、キスした。


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