女性傭兵たち猛る ―弓と槍と大杖と―

〝山賊〟にも色々な種類がある。

 ゴロツキや窃盗崩れを寄せ集めただけの烏合の衆から、普段からよく訓練され極めて統率のとれた〝山岳マフィア〟と呼ぶにふさわしい連中まで実に色々だ。


 私たちが遭遇した彼らは、間違いなく後者だ。

 そうでなければこれほどまで見事な待ち伏せや伏兵、先遣隊を派遣したりなど出来はしない。

 首領格が相当に軍事的知識に長けていると判断するしかない。

 ましてや、ここは敵の縄張りなのだ。彼らのほうが圧倒的に有利なのは言うまでもない。


 ならばこちらは可能な限り手を尽くして情報を集めるべきだ。

 私は自らが手にしている愛用の武器を使うことにした。


 手にしていたのは柄の長いハンマーステッキ状の武器だ。私達の民族固有の戦闘武具で『戦杖スタム』と言う。通常は紫檀や黒檀などの硬い木材で作られるが、私のは戦闘力を上げた総金属製だ。それをハンマーとしての打頭部を下にして地面へと突き立てた。そして軽く意識を集中して聖句を詠唱する。


「精術駆動 質量分布探知」


――コォォォン――


 詠唱とともに極めてかすかな音が響く。そして、目に見えないさざなみが周囲へと広がりその一部が返ってくる。


「ひとつ、ふたつ、みっつ――」


 私は無言で左指を広げて周囲に見せる。5本指と4本指、足して9、敵の総数は9人、予想より少ないのが幸いだった。私の仕草の意味に皆が気づいて無言で頷いてくれた。


 私はあらためて部隊のメンバーの名前と能力を思い出そうとしていた。

 部隊長をやっていたオーバス準1級を除外して、 

 元軍人崩れのマイツェン2級、私以外では唯一の2級職だ。

 以下、3級ばかりで、


 双剣使いのウルス、

 筋肉自慢のピカロと男性達が続く。


 残り3人はいずれも女性だ、


 槍持ちのリマオン、

 弓持ちのフレーヌ、

 大杖持ちのキーファー、


 この他に伝令役を引き受けてくれたエアル、

 

 コレに私を含めて8人となる。うち1人はこの場にいないので残りは7人だ。

 組み合わせは、マイツェンとフレーヌ、ウルスとキーファー、ピカロとリマオンとなる。 

 それぞれの組み合わせがいかなる結果を産むかは彼らを信じるより他はないだろう。


 地形的には山腹の斜面で敵の方が上に位置する形になる。位置関係的には敵の方が有利だ。

 不利なことだらけだが、唯一勝機があるとすれば武装の違いにかけるしかない。リマオンの持つ槍、キーファーの大杖、そして、私の戦杖、この三つは精術武具だ。使い方と効果によっては敵を一網打尽にする可能性もある。

 それは敵の側にも同じことが言えた。

 

「接敵!」


 弓持ちのフレーヌが報告する。

 9つの敵の存在の中の主力の二つ。マッチロック銃を所持した狙撃役がその銃口を覗かせていたのだ。

 鉛弾の威力はときに精術武具の効果に匹敵することがある。

 ならば先手必勝だ。


「攻撃開始!」


 私の宣言とともに遠距離攻撃能力を持つ者が一斉に武装を使用した。

 真っ先に攻撃をしたのは弓使いのフレーヌだ。

 飛距離よりも速射性を重視した小振りの弓、それで軽金属製の矢を打つ。腰の後ろに下げた矢入れから数本同時に抜いて指に保持すると、そのうちの一本を弓の弦につがえて射つ。

 だが彼女の狙いは銃射手ではない。


――ドッ!――


 鈍い音を立てて銃射手の背後に控えた弾込め役の頭部を射抜いていた。


「うまい!」


 私が褒めの言葉を口にすればフレーヌは口元に笑みを浮かべる。間髪おかずに手にしていた矢を連射する。

 マッチロック銃は連発が効かない、だから銃を複数用意し別の人間に弾込めをさせる。弾を込め終わった銃からつるべ打ちに撃てばいい。彼女はそれを潰したのだ。

 かたや槍持ちのリマオンが、槍型の精術武具を発動させる。

 矢をマッチロック銃のように構えて彼女は告げた。


「精術駆動 火雷弾」


――ドンッ!――


 大粒の火の玉が槍の切っ先から一直線に放たれる。機能的には鉛弾を打たないマッチロック銃と言うところか。

 放たれたのが鉛弾ではなく火の玉なのだがそれでも当たれば威力は大きい。向こうがとっさに回避しようとしている。

 リマオンがつぶやく。


「追尾」


 その言葉と同時に火の玉はカーブを描き目標を射抜いた。頭部を中心に火柱が上がり目標を吹き飛ばす。


――ボォンッ!――


 追跡機能付きの火炎弾、連射は厳しそうだが、それでも機能的な優位性は高い。

 こちらも敵の銃射手を一撃で潰したことになる。

 その間にフレーヌは2射3射と連射し、敵へのダメージを確実なものにしていく。

 私は一計を案じて大杖使いのキーファーのところに歩み寄った。


「キーファー3級」

「はい?」

「あなたの精術武具は〝環境操作型〟ですね?」


 精術武具には色々なタイプがあるが、その中でも周囲の状況を物理的に操作することに特化したタイプがある。環境操作型と呼ばれるものだ。


「はい。地精系で地面を操作します」


 キーファーの顔には〝何故知っているのだろう?〟と言う疑問が浮かんでいたが私は笑顔でそれをごまかした。私はアドバイスを送る。


「接近する敵の行動妨害や、敵の攻撃からの防御に集中してください」

「わかりました」


 一緒にいた双剣使いのウルスにも一言告げる。


「敵は隠密行動が得意です。思わぬ方向から攻撃が来る可能性も考慮してください」

「了解」


 語り終えて周囲を改めて観察すればマッチロック銃の銃射手は排除されていた。敵の遠距離攻撃を潰すことには成功していた。

 問題はここからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る