戦いの終わり

 私たちは重い気持ちを引きずりながら館の外へと出てくる。

 そして外へと出た時に私たちが目の当たりにしたのは呆れるような光景だった。

 自らの視界に見えたものに私は間抜けな声を出してしまう。


「えっ?」


 苦笑しつつプロアさんが呆れて言う。


「おいおい、一体どこと戦争したんだよ」


 ダルムさんも肩を揺らしながら苦笑いしている。


「ドルスだな? あの野郎、加減ってものを知らねえ」


 外へと出てきた私たちを見つけて、屋外で戦っていた皆が歩み寄ってくれた。


「隊長」


 そう問いかけてくるのはパックさん。相変わらず落ち着きはらっていて激戦の後だとは到底思えない。右の拳に左の手のひらを添える抱拳礼ボウチェンリィを示しながら言う。

 

「屋外の掃討対象、全て駆逐いたしました」


 さらにはカークさんも報告をしてくる。

 

「こちらはあらまし片付いた。そっちの首尾は?」

「おふたりともご苦労さまです。屋内も討伐完了です。後は正規軍の憲兵部隊の到着を待つのみです」


 私がそう答えれば、遅れてやってきたドルスとバロンさんも報告してくる。

 意気揚々と報告してくるのはドルス。


「部隊長に報告、本砦にて不当に武装していた私兵集団は全て討伐した」


 落ち着き払った様子で報告してくれるのはバロンさん。 


「使用武器や戦闘手段などの兼ね合いから現状のような状態となりました」


 その言葉を受けて改めて周囲の状況を確認するが、塀やら壁やら地面やら、いたる所が穴だらけだ。私は呆れつつも確認のために問い返した。


「破壊手段はドルスさんの爆薬ですか?」

「そうだ俺の爆薬だ」


 そう明確に言い切ってしまう姿に呆れるほかなかった。


「まったく――、正規軍の人たちになんて説明すればいいのか」

「仕方ねえだろ、マスケット銃やら何やらで囲まれて悠長にやってる暇なんかなかったからな。それにこれを見ろ」


 そう言いつつ彼が私にと差し出してきたのは見慣れない構造を持つ新型のフリントロックライフルだった。


「これは?」

「敵の幹部が持ってた新型ライフルだ。ファーガソン式と言って高速で弾込めが可能だ。本来は軍の兵器工廠で開発途上にあるはずのものだ」

「なんでそんなものがここに?!」


 すなおに驚く私にドルスさんは言う。


「おそらくデルカッツのヤツが裏から手を回して不正に入手したんだろうな。やつから渡されたと言ってたからな」


 その言葉をダルムさんは訂正した。


「おそらくデルカッツ自身の力というより、取り巻きの一人のハイラルドのコネだろうな。ヤツは無駄に顔が広いからな」

「ハイラルド――バルワラ候のところに潜り込んでいた男ですね」

「あぁ、口がうまくて狡猾。バルワラ候のところに居た時の振る舞いも演技だったんだろう。やつなら軍関係者に取り入って利益を引き出すくらいかんたんにやってのけるぜ」

「すごいですね」


 私の驚きを耳にしてダルムさんは言った。

 

「その才能をもっとまともな方に仕えばよかったのによ。あの馬鹿野郎が」


 その言葉には、ハイラルドと言う男がワルアイユで過ごした日々の中でダルムさんとそれなりに面識と交流を深めていたのだろう事が伝わってくる。できうるならバルワラ候を破滅に追いやった悪事が無ければと思わずには居られないだろう。

 その会話の脇からパックさんが問うてくる。


「それでこちらのご領主は?」


 その質問には、私が皆の顔を眺めながら答えた。抑揚を押さえた落ち着いた口調で告げる。


「アルガルド領の領主にして本事件の首謀者、デルカッツ・カフ・アルガルドは自らの罪を全て認めた上で〝自害〟しました」


 私のその言葉にパックさんは合掌し、カークさんは真剣な表情で語る。


「潔い最期だな」

「えぇ、敗北を悟り、アルガルド家の他の親族たちに類が及ばないようにと決意しての行動です」

「そうか」

 

 バロンさんが言う。

 

「彼なりのけじめの付け方ですね。その潔さがもっと早く発露されていれば」

「そうですね。おっしゃるとおりです」


 バロンさんの言う通りだ。今この時点で襟元を正しても何の意味もないのだ。失われた命は戻らないのだから。

 重い空気を追い払うようにドルスが言う。


「なんにせよ、これでやっと全てが終わったな」

「ええ、事後処理は山ほどありますが、とりあえず我々ができることはひとまずこれで終了となります」


 私は皆へと告げる。


「皆様もご苦労様でした」


 私の傍からプロアさんが私の肩をそっと叩きながら言う。


「隊長もな」


 その時ふとダルムさんが言う。


「見ろ。ゴアズだぜ」


 カークが安堵しつつも言う。


「伏兵集団を無事いなしたようだな」


 ちょうどその時、馬上でゴアズさんが手を振ってくれていた。


「隊長ーー!」


 彼の大きな声がする。私は手を振りながら皆を率いてゴアズさんのもとへと駆け出したのだった。

 こうして一連の長い長い戦いは終わりを告げたのだ。


 私たちを照らす頭上の光は夏の暑さを残していたが、秋の涼しさが風の中に垣間見える。

 新たな季節が始まろうとしていた。

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