戦闘Ⅲ 地母神の御柱は今こそ輝く

 だが、やつが放った一言が天啓をもたらした。まだ状況は逆転可能だ。ならばやるしかない。

 

「デルカッツ・カフ・アルガルド! 負けるのはお前だ!」


 私は地母神ガイア御柱はしらの打頭部を床に突き立てると叫んだ。


「精術駆動! ――無重力――!」


――コオオオンッ――


 独特の共鳴音が鳴り響き、それがこの部屋全体へと伝播する。

 

「ハアアアアアアアアアッ!」


 地母神ガイア御柱みはしらに気合とともに力を注ぎこむ。そして、現れた現象は急速に衰えていく火の勢い。

 

「な、なにっ?」


 大広間全体へと燃え広がろうとしていた炎の群れはまたたく間に火勢を衰えさせていく。そればかりか火という火が鎮火していく。まるで風の取り込み口を閉じられたかまどの火のように。

 

「炎が!? ワシの炎が!」


 無様にうろたえるデルカッツに私は言い放つ。

 

「お前は精術の何たるかを何も知らない! 付け焼き刃でただ武器を振り回しているだけだ!」

 

 私はさらに聖句を詠唱する。

 

「精術駆動固定! 無重力継続! 精術駆動! 高速慣性制御!」


 この部屋全体の〝重力〟を低減させて無重量状態を生じさせる。そしてそれを固定したままにすると、先程発動させた高速慣性制御を再起動する。

 

「ばかな!? 精術を二重起動だと!」

 

 私が見せた技にデルカッツは驚愕していた。火勢が弱った今がチャンスだ。床を蹴るように飛び出すとその勢いを更に加速させて一直線にヤツへと迫った。私はさらに精術を追加起動する。

 

「精術追駆動! 巨人つい!」


 それはワルアイユの里で暗殺者を数人まとめて屠ったあの技だった。

 

「三重起動?!」 

 

 小手先の殴打を跳ね返されてしまうのであれば、巨大な力で一気に叩き伏せるしか無い。

 

「逆賊! 覚悟!」

「ひっ!」


 私の叫びにデルカッツはうろたえるのみだ。頼みの綱の炎の精術は突然力を失ってしまっている。とっさに紅蓮の神太刀を持ち上げて構えようとするがもう遅い!

 左から右へ横一線するように私は地母神ガイア御柱みはしらを振るう。その打頭部に仕掛けられた精術が発動し、見かけよりも遥かに大きい、目に見えない仮想の実態の打撃が生み出されていた。それが横薙ぎにデルカッツを襲った。

 

「砕けろぉ!!」


 裂帛の叫びが響く。と同時にデルカッツは目に見えない巨大ハンマーで打ち据えられたかのように斜め後方へと吹き飛ばされた。その衝撃で彼の手から紅蓮の神太刀が離れて明後日の方向へと吹き飛んでいく。同時に紅蓮の神太刀の刀身が砕ける光景が見えたのだ。これでやつは私への攻撃手段を失った。

 

――タッ――


 私は術を解除して床へと降り立つと、壁際に追い詰められて寄りかかるデルカッツへと告げる。右手首はあらぬ方向に折れ、口からは血がにじみ出ている。おそらく肋骨も数本折れているはずだ。

  

「貴公、デルカッツ・カフ・アルガルドに告げる」


 右手に握りしめた地母神ガイア御柱みはしらの打頭部を、刀剣の切先のように敵へと突きつける。


「勝負は決した。敗北を認めるか?」


 彼から見て私の背後には、炎で焼けただれた大広間の壁が広がっている。あたりには焦げ臭い匂いが立ち込めている。無残な光景となった大広間を眺めながらもデルカッツは無言だった。私は高らかに宣言する。

 

「デルカッツ・カフ・アルガルド! 正規軍の名のもとに、貴公の身分・役職を凍結! アルガルド領は州政府及び、中央政府預かりとなる。捕縛の後に貴公は軍に引き渡され断罪を受けることになる」

 

 それと同時にデルカッツは吐き捨てた。

 

「勝手にしろ」


 それは、デルカッツと言う一人の男の野望が、ついに潰えたことに他ならなかった。

 私の脳裏を、父を奪われ泣きはらしていたアルセラの姿が横切っていた。その姿に私は告げる。

 

――アルセラ、やったよ。貴方のお父さんのかたき、うったよ――

 

 それは私の心の中で唱えられた言葉だった。

 無残に焼け焦げた大広間の中に外の光が振りそそぐ。この砦の中に溜め込まれた野望を浄化するかのように。

 今こそ、本当に、ついに、長い戦いに決着がついたのだ。

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