雑魚一蹴

 まず先に動いたのはカークだ。

 彼にとっても標準装備である〝雷神の聖拳〟それに加えて、鋼鉄製の戦棍が握られている。その長さ4ファルドほど(約1m半)

 近接格闘の攻撃範囲を拡張するには十分な長さだ。


「行くぞ」


 低い声で響くように呟き一気に駆け出す。


「精術駆動」


 その言葉に続いて技の名を叫ぶ。


「強雷赤火!」


 その叫びと共にカークの両の籠手が作動音を鳴らす。


――ブゥウウン――


 その音とともに、カークが両手で握りしめていた鋼鉄製の戦棍は急速に熱を帯びて赤く焼けていく。通電により加熱されているのだ。

 カークの眼前には大型の牙剣を構えた6人の衛兵たち。全身を白銀のプレートメールで覆っておりその防御力は極めて高い。

 だがカークは怯まない。

 

――ブオッ!――


 風を切るように戦棍を振り回し、それを右脇下で構え直す。かまえは戦棍を突きで繰り出すための予備動作。

 カークは敵陣の中央の一人へ狙いを定めると、右足を後ろに踏みしめながら、左足を強く前へと震脚する。そして気合一閃――


「破っ!」


 右脇下に構えておいた戦棍を前へと繰り出す。


――ゴッ!――


 敵である衛兵の一人は、気にしていた牙剣でその戦棍を受け止めようとする。だがその戦棍は高熱を帯びていた。周囲の大気が熱でゆらぎかすかに炎が浮かんでいる。

 その高熱がもたらすものは〝武器破壊〟


――ガキィン!――


 戦棍の動きを受け止めると同時に鈍い音がする。衛兵が自らの武器を確かめれば、突かれた戦棍の先端形状そのままに、牙剣の側面には凹字のへこみが生じていた。

 予想外の形で武器を破壊された衛兵はショックで一瞬対応が遅れた。それが命取りとなる。


――ブォッ! ブォッ! ブォッ!――


 相手に隙を与えぬ三連撃。

 右肩、腹部、そして顔面。炎をまとった戦棍の鋭い突きで鎧の防御をかるがると突破し破壊していく。

 その威力は鎧による防御などあってないようなものだった。攻撃を受けた衛兵はその場に崩れ落ちた。


――ドシャッ――


 衛兵たちの挙動には明らかに、驚きと動揺が広がっていた。

 それもそのはず衛兵と言っても所詮は寄せ集め。戦いの場での覚悟などあろうはずがない。想定外の攻撃に苦しめられれば、踏ん張るよりも先にいかに逃げるかが頭をよぎるような連中なのだ。


「どうした、誰もかかってこんのか?! ならば――」


 そこでカークはさらに踏み出した。


「こっちから行くぞ!」


 カークは一気に踏み出す。1人をすでに打倒し残るは5人。左斜め前方への突き出しで一人を牽制すると、反対側である後方へと戻す動きで戦棍を繰り出し、鎧の継ぎ目の急所の1つである首筋へと打ち込む。


「雷撃打!」


 と、同時に高熱とともに放電する。頸部から頭部へと熱と雷撃のダメージが浸透して崩れ落ちる。

 

「ふんっ!」


 さらに返す動きで後方に引いていた戦棍を、自らの右手の側から振り抜く動きで繰り出し、右斜め前方の相手へと打ち込む。敵は手にした大型牙剣で弾こうとするが――

 

「覇ッ!」


――バチィッ!――


 気合一閃、鋼の戦棍の内部へと溜め込まれていた雷撃が放出され、敵の牙剣へと電撃が伝搬する。当然、それを持っていられるほど耐えきる力はない。

 

「がぁっ」


 思わぬ悲鳴をあげながら男は牙剣を取りこぼした。それを逃さず。戦棍の右手側を下から上へと上げる動きで胸ぐらを強打する。

 その隙に左手側の2人が同時に切りかかってくる。

 

「死ねぇ!」


 防具をつけていないカークには斬りつければ勝てると思っているのだろう。だがその考えこそが間違いなのだ。

 

「精術駆動 雷火一旋!」

 

 その聖句と同時に手にしている戦棍の両端が激しく燃え上がった。さらには雷光がほとばしり電撃の威力を上昇させる。カークはそのまま戦棍の左手側の先端で、襲ってきた2人をなぎ倒す勢いで振り抜いた。次の瞬間には炎と雷のアーチが形成され、それが爆砕的に弾けて敵の2人を吹き飛ばす。

 さらには戦棍の右手の先端を後方から斜め上へと引き上げながら右側の敵がけて振り下ろし敵衛兵の頭部を側面から強打した。接触の瞬間、さらなる放電がされ敵は崩れ落ちる。


「これで――」


 カークは残り1人を見つめる。


「残りはお前一人だな」


 明らかに他の5人とは格の違う1人が佇んでいた。その者は自ら名乗る。


「衛兵長カルド」


 カークはそれに答える。


「2級傭兵、雷神カーク」

「お相手いたす」


 かすかに言葉が交わされる。衛兵長カルドはその手に超特大型の牙剣を手にしていた。

 人の身長とほぼ同じ。巨大な刀身の真ん中ほどの背の側に穴がありそこが2つ目の〝握り〟になっている。さらには本来の握りの根本の側にも、もう一つの刃峰が下向きに突き出ており上下を巧みに使い分けての戦闘が可能なようになっている。

 形としては薙刀に近いが、戦闘時における技巧を考えれば他に類を見ない独特の形態と言えた。容易に使いこなせる種の武器ではない。

 

 それはカークの言葉にも現れている。

 

「〝巨人の大型牙剣ギガズベルデバイン〟か。最近は使いこなせるやつもめっきり減ったんだがな」


 カークは敵の所持武器の意味を語る。彼が手練れの牙剣使いであると言うことも読み取れる。相手であるカルドは言う。

 

「さすがは雷神カーク、光栄だな」


 鎧のヘルム越しに見えるカルドの瞳が親しげに微笑んでいた。それは技を極めあった武闘派の戦人同士が通じ逢える思いのようなものなのかも知れない。

 カルドが言う。

 

「覚悟」


 カークが答えた。

 

「応」


 そして1対1の戦いが始まったのだ。

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