戦いの口火

――バタン!――


 扉が大きな音を立て閉じる。閉めたのは二人、ルストの部隊の隊員であるパックとカークだ。

 やり取りの後にルスト達が先へと進んだのを確かめて彼らは改めて周囲の敵対者へと意識を向ける。


 パックが言う。


「無事行きましたね」


 カークが堪える。


「あぁ、奴らならやってくれるだろうぜ」

「確かに」

「何しろあの隊長だからな」

「顔に似合わず豪胆な人ですから」

「そうだな」


 パックの言葉にカークは思わず苦笑した。


「さぁ、さっさとやっちまおうぜ」

「心得ました」


 そう告げながらパックは自らの背面へと手を回し隠し持っていた武器を取り出す。金属の棒が三つに分けられ、それが鎖で連結されている。組み立て式の手槍だ。

 それを瞬時に組み立てながらカークへと告げる。


「こちら側は私が引き受けます」


 それに対してカークも答える。


「おう」


 シンプルにして確かな言葉、そのカークも腰の後ろに収納しておいた太めの金属を2本取り出すと、連結させて組み立てる。


――キリッ!――


 小気味良い音を響かせながらふたりは武器を組み立てる。

 その二人を待ち構えていた伏兵たちが取り囲んでいた。その数12人。本館の正面入り口の左右に佇む二つの建物、騎士の館と淑女の館、2階建ての小さな建物の中にあらかじめ潜んでいたのだ。

 その彼らに向けてパックが告げる。


「我々がここで本館入り口を通過するのに手間取ってる隙を狙ったと言うわけですか」


 その問いに伏兵として隠れていた鎧姿の衛兵達は無言のまま答えなかった。


「問答無用かい」


 そう苛立ちを滲ませながら問いかけるのはカークだ。

 彼らを取り囲む12人の衛兵たちは鈍い銀色に光る全身鎧を身につけていた。儀礼用に常備しておいたのだとすれば12という数からいっても用意周到とうよりほかはない。

 その衛兵たちが、その手に取り出してきたのはフェンデリオル特有の民族武器である牙剣、しかも両手で扱う大型牙剣だ。

 12人は大型牙剣の切っ先を彼らはカークとパックへと突きつけている。

 その彼らがじりじりと距離を詰めてきていた。

 二人は背中合わせにそれぞれ正反対の方向を向いている。その背中ごしにパックが告げる。


「カーク殿」

「なんだ」

「ご武運を」


 その言葉にカークの頬が思わず緩む。


「お前もな」

「はい」


 そのやり取りの後に二人は駆け出した。

 彼らの眼前に敵が立ちはだかっている。今ここでも戦いが始まった。

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