ダルム、宿命の相手

 邸宅内の残りの部屋を探索する。主通路沿いに扉をあけて中を調べる。

 

――バンッ!――


 1つ目の扉、そこは政務用の机が据えられているが寝室を兼ねていた。それを見たダルムさんが言う。

 

「副官の部屋か」

「違いますね」

「行くぞ」

「はい」


 さらにその隣の部屋へと歩みをすすめる。

 

「ここは?」


 私の問いにダルムさんは答える。

 

「隣が副官の部屋なら、こっちが領主の政務室の可能性は高いな」

「理由は?」


 そう問えばダルムさんはしみじみとした口調で言う。

 

「〝元執事〟の勘ってやつだ」


 そうだ。この人は元執事だった。ワルアイユ領の領主のように、かつての主人を謀殺されて領地を乗っ取られたのだ。それだけに今回の事件に対する思いは深いだろう。

 

「行きましょう」

「おう」


 ダルムさんが戦鎚を、私が戦杖を手に、突入の準備をする。私が扉の取っ手に手をかけ、扉を開け放ったら、ダルムさんを先頭に突入する手はずだ。

 私が扉の取手に手をかけつつ視線を送れば、ダルムさんは頷いていた。

 よし!

 無言で扉を開け、一気に飛び込もうとする。先にダルムさんが駆け込んだ――その時だった。

 

――ブオッ!――


 何かが振り下ろされた。ダルムさんの背中目掛けて。

 その気配を察したのかとっさに前方へと前転して転がりながら攻撃を回避する。

 

――ブオンッ!――


 さらなる攻撃、それは牙剣を振るった時の風切り音ではない。もっと太く重い物を振り回したときのものだ。すなわち――

 

「そうか! お前も戦鎚使いだったのか!」


――ダルムさんと同じ武器なのだ。


「それがどうした! 死にぞこないの老いぼれ!」

「やかましぃ! バルワラを裏切り、面従腹背を決め込んだお前に言われる筋合いはねぇ!」


 その言い争いのその言葉に、執務室の中に潜んでいた者がダルムさんの旧知の者だったと知る。そしてその者の名は――

 

「なぁ? ハイラルド・ゲルセンよぉ!」


 それはワルアイユ領でバルワラ候の代官をしていたはずの男だった。それがなぜここに居るのか? そう疑問を抱くよりも前にダルムさんの声が私へとかけられた。


「ルスト! こいつの相手は俺だ! バルワラの無念のケリをつける! お前は先へ行け! 領主はおそらくこの上だ!」

「知る必要はない! 小娘! すぐにこいつを始末してお前も叩き殺してくれる!」

「そうはさせるかよ!」


――ガァアアンッ!――


 ダルムさんの戦鎚が繰り出される。それが敵であるハイラルドの振るう戦鎚とぶつかり合い激しい音を立てた。

 ここでも1対1の避けられぬ戦いが始まった。

 旧知の領主の無念を晴らそうとするダルムさんの戦いだ。そこに私が介入する事はできなかった。

 

「バルワラ候の無念、お晴らしください!」


 そう言葉を送るしか無かった。

 私は走り出す。アルガルド領領主、デルカッツの姿を求めて。

 主廊下の突き当りは寝室、それ以外の部屋にも気配はない。ならば残るは――

 

「この上ね」


 この上の3階部分しかありえない。主廊下の突き当り脇には幅の狭い使用人用の階段が隠されていた。残るルートはここしか無いだろう。

 いざ征かん、決戦の地に。

 私は私に残された戦いの場へと駆け上がっていったのだった。

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