家臣たち

 誰も意義を唱えなかった。誰も反論しなかった。ただ沈黙のままに言葉を聞き入るのみだ。

 

「私は、この国において成り上がる事のみを願い、すべての行動を起こしてきた。触れ合うもの全てを犠牲にしながらな」


 デルカッツは成り上がり者だった。だからこそ飢えていた。

 

「汲めども尽きない乾きと飢えを宿しながら謀略の日々、誰が死のうが、誰が苦しもうが、何の痛痒も感じたことはなかった。なぜなら――」


 デルカッツは玉座から立ち上がると階段を降りながら告げた。

 

「お前たちが居たからだ」


 そう語りながらデルカッツは家臣たちに言葉をかける。

 

「今まで大儀であった。この国を切り取るという我が野望を信じ、加担してくれたお前たち。私には家族は居なかったが、お前たちこそが家族のようなものだ」


 そこに居たのは8人の家臣たち。主人たるデルカッツの野望を下支えするためについてきた者たちだ。彼らはデルカッツの言葉をじっと聞き入っていた。デルカッツは階段から降り切ると家臣たちを眺めながら命じる。


「最後の命令だ。侵入者を討ち取れ。我を捕縛するべく討伐部隊がやってくるであろう。だが、討伐部隊を討ち取ることができるなら、ここから脱出する事ができる。そしてその上で、裏社会へと潜る。今までに得た資金と蓄財を元手に裏社会にて新たな活動を始める。この国を切り取るために!」


 その言葉を鋭い視線とともに発すると、デルカッツは家臣たちに問うた。


「此処から先は栄光のない果てることのない闇の世界となる。よって無理強いはしない。ついてくる意志のある者だけでいい。去りたい者は今すぐ去るが良い」


 場を沈黙がふたたび支配した。だが、誰も歩き出さない。デルカッツから離反するものは居なかった。

 彼らを代表するようにハイラルドが言う。

 

「我らはデルカッツ様に忠誠を誓っております。たとえどの様な地に赴いてもその思いは変わりません」


 その言葉にデルカッツは頷き返した。

 

「お前たちの忠義に感謝する」


 その言葉が全てだった。そして、デルカッツは命じた。

 

下男長げなんちょうボルコフ」

「はっ」


 返答をしたのは体格のいい肉体派の男だった。

 

「下男たち50人を率いて館へと通じる道の途中に配置せよ。そして、討伐部隊が通過したら背後から襲え」

「かしこまりました」


 続いて2人の職業傭兵風の風貌の男たち2人に告げる。


銃頭じゅうがしらゲンツェル、狩場番かりばばんルトロス」

「へい」

「はっ」

「邸宅の城門館とエントランス広場にて敵を迎え撃て。手段は任せる」

「お任せください」

「心得ました」


 さらに胸部プレートメイルをつけた2人の男たち。

 

「衛兵長カルド、ダイトス」

「はっ」

「はっ」

「邸宅本館入り口、中庭広場を任せる。衛兵たちを率いよ」

「了解」

「了解しました」

 

 さらに侯族風のクラバットにルタンゴートジャケットの出で立ちの2人が佇む。

 

「政務官アシュゲル、ハイラット」

「はっ」

「はい」

「邸宅内に侵入した者を迎え撃て。おまえたちに与えた精術武具が役に立つであろう」

「御意」

「心得ましてございます」


 精術武具を与える――それが意味するところはその2人が主人たるデルカッツにとって重要な存在だということだ。

 そして、残るは一人。

 

「ハイラルドよ」

「はっ」


 デルカッツはハイラルドに言う。

 

「お前は私とともに来い。侵入者に一矢報いる」

「かしこまりましてございます」

「お前の戦鎚の冴え、期待しておるぞ」

「御意」


 デルカッツは全ての配下に指示を下した。そして、自ら歩き出すと号令をかけた。

 

「この城を討伐部隊どもの死地へと変えるぞ」


 そして右腕をおおきく振り上げながらこう叫んだ。

 

「行け!」


 その言葉をきっかけとしてデルカッツの8人の配下が動き出した。

 最後の戦いのもう一つの口火が切られたのだ。

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