第6話:特別編:ラインラント砦の戦い

プロア、合流す

 私・ルストと、査察部隊の仲間たちは西方国境戦の地から一路北北東へと向かっていた。


 ワルアイユ領には南北に走る山地がある。それが西方平原とメルト村周辺とを隔てていた。その山地沿いに北北東へと向かい、山並みが低くなったところで山地越えをし北東へと向かう。その先にあるのがワルアイユとアルガルドとの領地境だ。

 道は広葉樹の木々による雑木林に囲まれており道先は容易には見通せない。一心不乱に馬を走らせてきたが、本当にこの道で良いのか思案に暮れる。

 

「地図で確かめたほうが良いわね」


 そうつぶやくと馬の歩みを緩める。進む先におあつらえ向きに小川とその河原がある。道の周辺にも馬の食性にあった野草が生えている。ここからの先のことを考えると馬にも小休止させたほうが良いだろう。

 私は皆に告げた。

 

「一時停止! 小休止します!」


 宣言とともに速やかに部隊の馬列が速度を落とす。

 

「ここで一旦ここから先の行動を検討します。それにそろそろ〝あの人〟が合流するでしょうから」


 私の言葉にドルスが声を上げる。

 

「あの人? ――あぁあいつか」


 私が何を意図したのかすぐに分かったかのようだ。

 他の皆も馬から降りると手綱を引いて川岸へと居りていく。手頃な木に手綱をつなぐと、馬が水を飲むのに任せていた。

 

「馬を休ませたら集まってください」


 私が乗っていた馬をドルスが手綱を引いて休ませてくれる。私はその間に背嚢の中に収めておいた〝軍用地図〟を取り出した。

 

「此処から先は――」


 ここから先、1シルド(約4キロ)ほど進むとワルアイユ領とアルガルド領の領地境に到達する。そこから先、アルガルドの領主であるデルカッツが居る場所へと向かうことになるのだが、

 

「やはりアルガルド領の領主館の本館がある場所へと向かうべきか――」


 これはデルカッツが普通の領主のケースと同じ様に、自分の領地での本邸宅に在している場合だ。だが、これまでの悪知恵の回り方からいって必ずしもそうだとは限らない。


「いや、デルカッツと言う人物の性格から言って、隠れ家のような物を想定すべきよね」

 

 自問自答しているとダルムさんが私の側に来ていた。

 

「どうした。アルガルドの親玉の居場所かい?」

「はい、闇雲に進んでいるわけではありませんが、本邸宅のある中心市街地へと向かうべきか否か」


 そう答えていると他の皆も集まってきていた。ダルムさんはその彼らにも聞こえるように告げた。

 

「アルガルドの領主のデルカッツ・カフ・アルガルドは用心深い。狡猾で用意周到だ。おとなしく本邸宅でお留守番してるはずぁねえやな」


 その言葉にドルスが頷いた。

 

「そのとおりだ。こう言う場合、別宅か隠れ家を事前に用意していると考えるべきだ」

「となると――」


 私は軍用地図を眺めながら思案に暮れる。

 

「どこに隠れているかを突き止める必要がありますね」


 そう答える私にカークさんが問うてくる。

 

「まさか、検討ついて無いとか言うんじゃないだろうな?」


 もっともな疑問だった。大丈夫、アテはある。

 

「大丈夫です。こう言うとき用意周到な人が居ますから。多分、そろそろ追いついてくる頃です」

「それってまさか――」


 カークさんがそう問い返そうとしたときだ。

 

――ヒュオッ!――


 私たちの頭上を通り過ぎた影がある。それはすぐに戻ってきて地上へと降り立ってきた。

 

――ズザザザッ!――


 土埃を上げながら地面へと降り立つ。その人の名は――


「プロアさん!」


 彼もまたようやく合流してくれた。地上に降り立つなり駆け足で近寄りながら声をかけてくる。


「ここにいたのか。ようやく見つけたぜ」


 よく見るとその手には何か物が詰まったような布袋がある。


「先行して状況を偵察してから、一旦西方平原の方に戻ったんだ。そしたらみんな出発したって言うからよ。道なりに辿ってきた」

「すいませんお手数おかけして」

「いいって、気にするな。それより」


 そこまで話してプロアさんは布袋を私の方へと渡してくる。


「メルト村の人や正規軍人さんたちからもらった非常食だ」


 渡された布袋の中にはパンや干し肉などが入っていた。


「ありがとうございます。それじゃ一旦みんなで小休止しましょう」


 異論は出なかった。川縁に腰を下ろす。馬たちが草を食んでいる傍らで打ち合わせが始まった。

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