ルストとドルスと不安

■フェンデリオル側、中翼本隊・指揮官エルスト・ターナー――



 ルストは今、象の背中から望遠鏡で全体の趨勢をつぶさに観察していた。

 通信師のフェアウェルへと問いかける。

 

「物見台からは?」

「はい」


 フェアウェルが物見台へと打伝する。

 

「こちら中翼本隊、現況知らせたし」


 その声に対してすぐに返答が返ってきた。

 

「了解、変化あれば適時報告願います」


 そして、フェアウェルはルストへと告げた。

 

「現況、包囲殲滅完成しつつあるとの事です。しかし――」

「しかし?」

「敵第1陣後方が敵第2陣の方へと逃れつつあるとのこと。敵、第2陣も第1陣への合流を急いでいるようです」

「そう――」


 そしてルストは思わず漏らした。

 

「まずいわね」

「いかがなさいますか?」


 フェアウェルはルストに問いかけた。つまりはどんな指示を出すのか求めているのだ。

 ルストは問いかける。

 

「自軍、右翼後衛部隊の位置は?」

「物見へ確認します」


 そしてフェアウェルは物見台へと再び問いかけた。

 

「こちら中翼本隊、右翼後衛機動部隊の位置を知らせたし」


 すると物見台からの返答は即座に返ってきた。

 

「了解、適時報告願います」


 フェアウェルはルストへと知らせる。


「司令官。物見台より報告。機動部隊は現在、敵第1陣と第2陣の間に割り入るように動いているそうです。なんらかの対策を取ろうとしてるものと思われます」

「そう――」


 ルストはそうつぶやきながら戦場遥か彼方をながめつつ答えた。

 

「ドルスたちを信じるしかないわね」


 その言葉には、右翼後衛の機動部隊の行動の成否に戦いの趨勢が委ねられていることが示されていた。

 今、勝敗の最終局面が見えようとしていた。

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