600年を越える対立

 戦場の遥か彼方に〝敵〟が居る。

 その敵の名は『トルネデアス帝国』

 

 600年前から――

 否、そのはるか昔から、大陸の西と東を挟んで睨み合ってきた怨敵だった。

 彼らは太陽を神とあがめ、自分たち以外のすべてを否定する。

 彼らは砂漠の暴竜、決して相容れる者たちではない。

 

 今を去る600年前、私達の故国は一度滅んだ。トルネデアス帝国により侵略されたのだ。

 故国の大地は荒らされ、文明は破壊され、人身は蹂躙された。

 多くの難民が発生し、奴隷として捕らえられ、長い忍従の年月が流れ去った。

 そして、今から250年前――

 

 1人の英雄と、彼に従う13人の勇敢なる戦士が立ち上がり、民族としての独立を勝ち取るための長い戦いが始まった。

 過酷な戦いが続いたが、一人、また一人と、助力者が現れ、支配のくびきを断ち切るために戦う者が増えていく。そして、いつしか独立闘争のための戦線が形成されるに至った。


 さらには独立戦争を優位付けたのは『隣国からの支援』と『精術武具と言う戦争の切り札の誕生』だった。

 

 フェンデリオルと近接する3国〝ヘルンハイト公国〟〝パルフィア王国〟〝ジジスティカン王国〟と共戦同盟が結ばれた。さらにはフェンデリオル領の一部を支配していた〝フィッサール連邦〟が支配地域の返還と停戦条約を確約するに至った。

 さらには600年前に故国滅亡と同時に失われたとされていた精霊科学『精術』が、ヘルンハイト公国にて精術武具と言う形で蘇り、それが独立闘争において強力な武器となった。


 こうしてフェンデリオルは十余年の長きに渡り、山野を駆け巡りゲリラ戦を展開し、一進一退を続けながらもついに旧故国領土を奪回するに至る。さらにはトルネデアス側は、厭戦気分の高まりと、皇位継承にともなう政治混乱も加わり戦線が崩壊――

 ついにはフェンデリオル側からの侵入を許し帝国は国土の一部を奪われるに至った。

 

 こうして先史フェンデリオル国からの旧領土と、トルネデアス帝国から得た新領土と合わせて、新生フェンデリオル国が生まれるに至った。1人の英雄と、13人の武人たちを称えながら。

 そして、その13人の武人たちの末裔は『上級侯族十三家』として、今なおその血脈が伝えられている。だが、故国を独立へと導いたその英雄は、名前も素性も伝えるものは何一つ残されていない。

 英雄たる彼は一切の栄華を拒否し、王位に就くことも拒んだと言う。

 そして、いつしかフェンデリオルは『王の居ない国』と呼ばれるに至ったのである。

 

 私たちの国の名は『フェンデリオル国』

 自由と精霊文化を尊ぶ誇りある民族の国である。

 

 

 †     †     †

 

 

 太陽が東の山あいから登る頃、わたしたちフェンデリオルと、砂漠の彼方からやってきたトルネデアスとが、互いの陣営を率いてにらみ合う様相を呈していた。

 

 私たちフェンデリオルの軍勢は、約640人あまり、対するトルネデアス帝国側は700人あまり、総数から言えばトルネデアス側が有利と言えた。さらには砂漠の向こうから戦列の第2陣が迫っている可能性も捨てきれない。実質としては1000人以上は控えていると考えたほうが良いだろう。


 ただ――


「指揮官殿」


 正規軍人のエルセイ少佐が問いかけてくる。

 

「何でしょう?」

「物見台からの報告を整理すると敵はやはり戦列を2つに分けています。我々が接敵する第1陣、さらには第1陣を援護するために増援としての第2陣が後方から迫っていると思われます」

「でしょうね――」


 私は戦況をにらみながら思案する。戦象と言う生き物を運用するには物資と人員が要る。だとするとだ。

 

「先程の戦象が6頭も居たことを考えれば、それを可能にする支援部隊が後方に続いていると考えるべきでしょうね」


 そして、私はある結論を出す。

 

「戦況が長引けば不利になります。敵の第1陣を一気に制圧する事を優先させます。そのためには自軍をより効率的に運用させる必要があります」


 その言葉にワイゼム大佐が問いかけてくる。

 

「そのための方策は?」


 その問いに私は笑みを浮かべて告げる。

 

「そのためにこそ全体を5つに分けたのです。全体を人の五体に例えて運用します。ただそのためには――」


 そこまで告げて私は傍らに所在なさげに佇むアルセラを見つめた。

 

「えっ?」


 驚くアルセラを意図して私は言った。

 

「彼女にひと働きしていただく必要があります」


 その言葉にその場に居た皆の視線がアルセラへと向けられた。ただワイゼム大佐が納得したかのように答えた。


「なるほど、そう言うことであるか」


 その言葉には私が何を意図しているか――心得ているようなニュアンスがあった。

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