戦いに臨む思い
そして最後に皆に告げることがある。
「最後に――、戦闘中の行動に対する指示は、ワルアイユ側で用意されていた7名、および査察部隊に同行していた1名、計8名の通信師から伝達いたします。右翼左翼の前衛後衛にはそれぞれ1名ずつ配置、中央には都合3名配置します」
残り一人は物見台に配置してある。
「各部隊におかれては通信師の彼女たちを手堅く守り、敵兵にくれぐれも狙われることがないように死守してください。これは厳命です!」
通信師の彼女たちが討ち取られるということはそれすなわち中央に配置された指揮官である私との遠隔連携が絶たれることになるのだ。つまり統率された行動が失われることになる。そうなれば戦場内で孤立した集団が発生して致命的なダメージを被る可能性が生じてくるのだ。
それだけは絶対に避けねばならない。
「それでは最初の陣形として、3段横隊の陣容を取ります」
言わば戦闘の開始点となる配置体制の指示だ。
「左翼右翼の前衛は最前列の第1段」
私のその言葉に否定の声はあがらない。同意したという証拠だ。
「続いて中央部隊が第2段列。残る左翼右翼の後衛が最後方の第3段です。速やかに戦闘陣容を形成してください」
よしこれで重要な指示は出し終えた。あとは戦いが始まるのを待つのみ。そして戦いの行方は運命が知っていた。
そして私はついに宣言をしたのだ。
「今こそ我らがワルアイユを守護してくださる4大精霊が見守っています。その加護を信じて戦いに臨んでください!」
フェンデリオルは精霊の国、多種多様な存在が互いを支えあっているからこそ生きてゆけるのだ。
「おぉーーーーっ!!」
私の言葉へと返答が誰からともなく返ってくる。
さあ始めよう、我らが母なる大地を守るための戦いを。
私は高らかに宣言した。
「全軍! 行動開始!」
「おおおおおおおおっ!」
雄叫びが怒涛のようにあがり、人々が一斉に動き始める。
運命の幕はついに上がったのだ。
† † †
全ての人々がそれぞれの持ち場へと向かう。
その最中、一人の人物が私と正規軍人のワイゼム大佐のもとへとやってくるのが見える。
私の査察部隊の一員のダルカーク2級――カークさんだった。
「カークさん?」
「指揮官、すぐに済ませる。話がある」
今から闘いがはじまる。余分な手間は避けたい。だが今は彼の気持ちを優先する。
「なんでしょう?」
私が尋ね返せば彼は満足げな笑みを浮かべてこう告げた。
「俺はこの先ずっと、沈黙を守ったまま生きていくのだと思っていた。だがその運命を変えてくれたのはルスト――、お前だ」
そして彼の視線は私の傍らに立つワイゼム大佐へと注がれる。
「今こうしてかつての友と肩を並べる事もできた。これほど誇らしい事はない。なにより――」
カークさんは私をじっと見つめてこう告げた。
「今は亡き、かつての戦友との記憶も守られた。この恩に報いるためにも、俺はお前の右腕となろう」
それは迷いの暗がり中に生きていた一人の男の夜明けだった。過去に決着をつけ前へと進み出たのだった。
私は彼を見つめながらうなずく。
「ありがとうございます」
そして、ワイゼム大佐もカークさんを見つめていた。
「ダルカーク」
「ワイゼムか、久しぶりだな」
「あぁ、お前が正規軍を辞して以来だ」
その言葉のやり取りから、お互いが過ごしてきた年月が伝わってくる。真に親友ならば余分な言葉は不要だ。
カークさんが言う。
「ルスト指揮官を頼む」
ワイゼム大佐が言う。
「任せろ」
交わした言葉が少なかったが互いの思いを送り合うには十分だった。
カークさんはそのまま何も言わずに立ち去っていった。
私はワイゼム大佐に問いかける。
「ご戦友だったのですか?」
「あぁ、何度も共に死線をくぐり抜けた仲だ」
私が二人の間柄を知るには、それだけで十分だった。
この戦いには多くの人々の思いが込められている。
決して負けるわけにはいかない。
私は自分自身に、改めてそう言い聞かせていた。
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