幕間:執行部隊動く

戦意鼓舞

 それは武勇そのものだった。

 あまりにあっけなく、そして、あまりにも勇壮だった。

無論それを無視することができる者など、いようはずが無かったのだ。


――西方平原入り口、傾斜地域――


 西方平原に入る手前の峠を越えて、緩やかな傾斜地域へと入ってしばらく進んだあたりだ。


 ワルアイユ領信託統治委任強制執行部隊、正規軍人と職業傭兵たちからなる、数百人規模の集団はランパック・オーフリーなる人物が引き起こした出来事を嫌と言うほど明確にその目の当たりにせざるを得なかった。

 人々が騒然となりあっけにとられるのは当然の流れだった――

  

 ヘイゼルトラム所属の傭兵の鬼神のソウゴが感嘆し叫ぶ。

 

「お見事なり!」


 パックの戦いを称賛しての言葉だった。

 他の傭兵達も驚きの言葉を口にする。


「おい、あれ――」

「あぁ、ここからでも見えるぞ」

「倒しちまったよ」

「〝アレ〟を――」

「しかも素手で?」

「嘘だろう?!」


 パックが6体もの戦象たちをまたたく間に討ち倒したその武勇を職業傭兵たちは呆然として眺める者が大半だった。

 彼らが目の前の事実を受け入れるにはあとひと押し必要だった。

 傭兵たちの群れの中。その中でもルストたちと同じブレンデット所属の者たち。彼らは違う。明確に強い意志を持って行動を始めようとしていた。

 その中心となっていたのは――


〝マイスト・デックス〟

〝バトマイ・ホーレック〟


――の二人だった。

 その脳裏の中にあの哨戒行軍任務で、ルストたちと笑いあいながら任務の道程を歩いた日々が思い起こされている。

 その仲間のためにも信頼と義理と思いを通すため、彼らは立ち上がる。


「当然だろ? 〝あの〟パックだぜ?」

「〝絶掌ぜっしょうのパック〟――素手で戦場に立つ武神!」

「絶対に武器を使わず素手で敵を制圧するからな」

「あいつならこれくらい当然だろ」

「やってくれるねぇ!」


 こうなって当然とばかりに大笑いする。そして視線で頷き合い二人はつぶやく。

 

「やろうぜ」

「おう」


 しかるに群れの中から歩み出ると背後を振り返り、演説を打つように叫び始めたのだ。

 

「皆に問う! 俺たち傭兵の役目は何だ!」


 その叫びは傭兵たちの視線を一点に集める。マイストとバトマイは交互に叫ぶ。


「単なる金稼ぎか?」

「金を出してくれるやつのケツを眺める事か?!」

「違う!」

「戦場に立ち敵を倒すこと!」

「そして、この国の市民を守ることだ!」


 二人の叫びがこだました。その言葉はさざなみとなり傭兵達の胸の中に響いていく。

 マイストとバトマイははるか向こうの西方平原を指差すと高らかに叫んだ。

 

「あそこに何が見える?!」

「故郷を追われ抵抗する市民義勇兵だ!」

「そしてその向こうに居るのは」

「国境線を越えてきたトルネデアスだ!」

「ならば俺たちがやるべきことはなんだ!」


 それは問いかけだった。

 一人一人の傭兵たちへの、戦場に立つ戦うべき者たちへの〝戦うその意義〟そのものへの問いかけ。

 そしておそらくは皆が初めから分かっていたことなのだから。


 職業傭兵たちが、一人、また一人と歩き出す。


――ザッ、ザッ――


 足元を踏みしめ前へ前へと歩き出す。

静かな動きは、うねりとなり、そしてそれは傭兵たちすべてへと熱病のように伝播していく。

 傭兵たちは今まさに明確に、ルストたちの市民義勇兵の集団の元へと向かい始める。

 そして、その動きの先陣を切るようにマイストとバトマイは、声を揃えて高らかに叫んだ。

 

「市民義勇兵に参集するぞぉ!」

「続けええええ!!」


 口火は切られた。叫びに応じるように全ての傭兵達から上がったのは〝雄叫び〟だ。


「おおおぉぉぉぉーーーっ!」


 怒号一閃、今まさに事態は動き出したのだ。

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