闇夜に潜む者
視界の片隅に襲撃者の気配を感じて、その感覚を頼りに右足を前蹴りに蹴り出す。
――ドカッ!――
重い手応えと共に襲撃者は私に蹴り飛ばされた。勢いをかったまま私は叫んだ。
「どこの者ですか! 名乗りなさい!」
襲撃者の姿を視認する。
焦げ茶の闇装束にマント。顔には革製の全マスク、それはあきらか暗殺者だ。その総数5名。
ダルムさんも私に近寄ってくるなり告げる。
「嬢ちゃん、あんたを狙ってるらしいな」
「そのようですね」
私は腰に下げていた愛用武器――
長さ2ファルド程度〔約75センチ〕で総金属製、拳2つ分の握りと、ハンマー形状の打頭部があり、それを頑強な竿がつないでいる。それを抜き放ちかざしながら私は言う。
「私に居てもらっては困る人達が居るみたいです」
ダルムさんが頷きながら答える。
「それに俺が武器を置いてきてるんで女一人と丸腰の年寄り、まとめてやれるって思ったんだろう」
ダルムさんの愛用武器の重戦鎚は廃屋に置いてきている。代わりに腰にたばさんでいた鉄
「なめられたもんだぜ」
煙管の吸口側を握ると棍棒のように持つ。総金属製の
ダルムさんが私に問う。
「やれるか?」
「愚問です」
私は一笑に付した。
この程度の包囲で私をやれると思っているのだったら甘い話だ。私とて傭兵なのだから備えは当然してあった。
暗殺者たちは腰に下げていた短剣を抜き放った。両刃の直剣で長さは半ファルド(18センチ)ほど。刃は肉厚で刺突に向いている形状だった。私はその短剣にシミレアさんから告げられた言葉を思い出した。
「キドニーダガー!」
「知ってるのか?」
「ええ」
それは〝優しい短剣〟の意味を持ち、広い地域で使われる汎用道具だ。それゆえに所属国や出自を特定されにくいと言う特徴を持つ。なぜ優しいかと言えば戦場で〝最後の介錯〟にも用いられるからだ。
気づけば5人の襲撃者はそつなく私たちを取り囲んでいた。
「生き残るには勝つしかありません」
「上等だ」
私の言葉にダルムは威勢よく答えた。右手に鉄煙管をにぎり眼前構えている。彼を背後に立たせながら私も戦杖を眼前に正眼に構えた。敵はまさに一斉に同時に襲いかかろうとしていた。
抜き放たれていた5本のキドニー・ダガーが闇夜の中に光っていた。
私たちが一人一つの武器をいなす間に、残りの3本のダガーが確実に私たちを仕留める魂胆なのだろう。
ならば――
私はダルムさんに耳打ちした。
「私に触れて」
その言葉と同時にダルムが私の背中に自らの背中を押し付ける。
同じくして戦杖のハンマー形状の打頭部を地面へと向けて勢いよく突き立てた。
「精術駆動! ―地力縛鎖!―」
私の声で〝詠唱呪文〟が響く。
戦杖の打頭部が地面を打つのと同時に、地精系の波動が広がり周囲の大地の重力場が操作される。
そして私と私に触れている者を除いたそれ以外が、自重量の増加で一気に地面へと引きつけられるのだ。
――ズズンッ!!――
鈍い地響きの音とともに地面を蹴っていた襲撃者たちは一気に大地へと叩きつけられた。なまじ前傾で飛びかかろうとしてただけに5人とも前のめりに突っ伏している。わたしが講じた策は見事に図にあたったのだ。
「それ、この間の哨戒行軍任務のときにも使った精術武具だったな」
「一応――、名前のない〝無銘〟ですけど」
「はは、名前で戦うわけじゃねえ。これだけ戦えれば十分さ」
周囲を見回せば、なすすべなく地面に這いつくばっている暗殺者たちが伏していた。
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