―餞別―先輩傭兵たち

 食事を終え、店に集まってきた傭兵たちと雑談をする。例の任務の事は建前として極秘任務となっているはずだから誰も話題にしない。話題になるのは私がドルスを打ち負かした戦闘術についてだ。

 戦杖をあえて長くして、総金属製にして耐久度を上げる。そして円運動を基本として、敵をなで斬りに連続で打ち倒す。それが私が身につけた基本ロジックだ。

 戦杖スタムは市民の護身用。そう思われて久しいだけに、私が行った戦闘法は画期的な物だったらしい。

 

「そういや、知り合いの女性傭兵が、ドルスとの一戦の時に見ていたらしくてよ。言ってたぜ。教えてほしいって」


 天使の小羽根亭はどういうわけか男性傭兵が客の主流を占める。傭兵には女性の傭兵も居るが、ブレンデッドの傭兵全体での比率としては三分の一ってところだろう。

 あの騒動は店の外でもギャラリーが集まってたから、おそらくその中に居たのだろう。

 私は答えた。

 

「いいよ、いつでも。あ、でもちょっと長期の任務が入るからそれのあとかな」


 私の言葉に場の傭兵たちが色めき立つ。

 

「お、早速か?」

「派手にやったからな」

「やったな。名前を揚げただけはあるぜ」


 皆が嬉しそうに言ってくれる。だが『どこに行く?』とだけは誰も聞かない。傭兵として他の者の機密に触れないのは当然のマナーだからだ。

 

「ありがとう。絶対に成功させるから」

「おう、土産話期待してるぞ」

 

 そんな風に話している間に、周りに居た傭兵さんたちがカンパをしていた。

 紙幣やら硬貨やら両手くらいの大きさの布袋にいっぱい。彼らの心尽くしだ。

 実際、こう言うのはとてもありがたい。長期日程の任務だと支度するのにも何かと物入りだからだ。

 

「餞別だ」


 一番年長の人がそれを私にわたしてくる。感謝の言葉を述べるのは当然だ。

 

「ありがとうございます!」

「頑張れよ!」

「しくじるなよ」

「生きて帰れよ」


 傭兵とは死が隣り合っている商売だ。生きて帰れるとは確証は常に無い。だからこそだ、傭兵は気の合う隣人を家族のように思いやる。そして、いつか必ず別れるものとして、本音で語り合うのだ。

 彼らにとって私はまだまだ目下の妹分のような存在なのだろう。けど私にはその一言一言がありがたかった。


「はい!」


 私は彼らに力強く答えたのだった。

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