友は何処へ?

「一つお聞きしたいことがあるんです」

「あら? 何かしら?」


 レミチカが答えればコトリエが補足した。

 

「〝エライア〟の事よね?」

「はい」


 クドウが深刻そうに答える。

 

「こちらで精術学を学んでいたエライア・フォン・モーデンハイムさんをご存知ですか?」


 エライア――その名を聞いたときレミチカの表情が変わる。不安げにしつつレミチカは口を開いた。

 

「知っているも何も――」


 レミチカは大きくため息を吐きながら語る。

 

「彼女と私はライバルであり幼い頃からの親友よ」


 そしてカップを握りしめながら言葉を続ける。

 

「あの子ったらどこをほっつき歩いているの――」


 その言葉にレミチカもエライアの消息を知らないのだと悟るしか無かった。

 

「申し訳ありません。その――表向きヘルンハイトへ留学と公表されているそうなのですが、私の知る限りではヘルンハイトの学院や学校には彼女は来ていないんです」

「えっ?!」


 クドウが語る意外な言葉にレミチカが驚きの声を上げた。他の者も一様に驚いていた。

 

「度々問い合わせの手紙をいただくんですが、どんなに調べても在籍確認がとれないんです。一体どこへ行ってしまったのか――」


 親友の失踪に苦悩するクドウの姿がった。そこにチヲがそっと告げる。

 

「彼女は――失踪したんです」

 

 さらなる驚きをもって皆がチヲを見つめる。

 

「私もエライアさんと交流があったのですが、彼女はお父上と折り合いが悪かったといいます。軍学校とこちらの学院で学んでいましたが、卒業後の進路で揉めていたともいいます。エライアさんのお兄さんが自死した事にも苦しんでいたとも聞いています。思いつめての行動だったのではと思うんです」


 深刻な顔で少女たちは考え込んでしまった。その彼女たちをたしなめるようにアルトムは告げた。

 

「その話は二度としないほうがいい」


 真剣な表情で語りかける。あつまる5人の視線にアルトムは続ける。

 

「エライア嬢の消息についてはさる筋から箝口令かんこうれいが敷かれているんだ」


 そしてアルトムは皆を説得するような視線でなおも続けた。

 

「何者かが描いた〝隣国への留学〟と言う筋書きで事態を押し通そうとしている。下手に関与すれば立ち場が危なくなる。レミチカ君――君ですらもだ」

「それってつまり――」


 そこまで語ってレミチカは悟った。自分ですら危険に陥れる事のできる存在が関与しているということに。そしてそれが誰なのか――

 

「――わかりました」


 それ以上はレミチカはもとより誰も余計な口を開かなかったのである。そしてレミチカが凛とした明るい声で言う。雰囲気を振り払うかのように。

 

「よろしかったら皆で学内を見て回りません?」


 その言葉にコトリエが言う。

 

「良いですわね」


 クドウも言う。

 

「是非お願いします」


 チヲも乗り気だった。

 

「私も」


 満足気に頷きあうと五人は立ち上がった。レミチカは言った。

 

「では教授」

「あぁ、ゆっくりしていきたまえ」

「はい」


 銘々に挨拶をするとアルトムに礼をしながら執務室から去っていく。あとに残されたのはアルトムだけだった。

 一人残された執務室の中で彼は黒茶の入ったカップを傾けながら思案している。そして、テーブルにカップを置くとこう言葉を漏らした。

 

「エライア――、君は今どこに居るんだ」

 

 その問に答えられるものはいない。

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