第3話:傭兵の街とドレス姿の果たし合い
フェンデリオルに傭兵あり
―フェンデリオル国―
それが私達の住んでいる国の名前だ。
オーソグラッド大陸の中西部に位置し、海に接する事の無い内陸国。
周囲を高い山に囲まれながらも、緑と水資源に恵まれ、豊富な農林資源と地下鉱物資源に恵まれた国。
しかし周囲を軍事強国に囲まれているがゆえに古くから戦乱の絶えない国だった。
今から去ること――
600年前に先史フェンデリオル王国が滅亡――
350年間に渡る被征服時代を経て
250年前に再独立――
新生フェンデリオル国が建国されて今に至っている。
それ以来、周囲の国々とはまぁなんとか仲良くやっているのだけど、唯一、西側の乾燥地帯で国境を接しているお隣さんとは独立以後も〝山ねずみ〟と〝砂モグラ〟と言う蔑称で罵り合う間柄が続いている。
その250年に渡るケンカ相手の名前は――
【トルネデアス帝国】
――太陽を神様として信仰している独裁集権国家だ。
自分たちの神様が一番偉いと頑なに信じているから、自分たちの周りの国々に対しても横柄きわまりない。
で、そんな連中と隣接している私達は常に緊張を強いられている状態にあるのだ。
それもそのはず――
トルネデアスとフェンデリオルの国力差・兵力差は約10倍近い開きがある。まともに向かい合ったら面積、人口、総兵力と、ともに太刀打ちなんかできっこない。
だから、私達はひとりひとりの戦闘能力に磨きをかける事に力を注いだのだ。
『一人が十人を相手に戦うことができれば、国を守れる』
ずっと昔にご先祖様たちはそう考えたらしい。まぁ、無茶な発想だと普通は思うだろう。だが、私達の先祖はそれをやった。10倍差を埋めることに成功したのだ。すごいよご先祖様。
それは【精術】という特殊技術で、風火水土の精霊科学をさしていう。一度は継承が途絶えて失伝したらしいが、250年前に精術が使える武器――【精術武具】――と言う形で復活。10倍差を埋めて戦う事に成功してみごと独立を達成したわけだ。
でも調子こいて、独立するついでにトルネデアスの領地をごっそり戴いたりしたものだから、
「俺達の土地を返せ!」
「嫌だ! 返してほしけりゃ今までの狼藉を謝れ!」
「誰が謝るか! お前らなどに謝る理由はない!」
「なんだと?!」
「なにを!?」
「やるのか? こら!」
「おう! やってやらぁ!」
と私たちとトルネデアスは罵り合いながら、これを250年も続けているんだな。飽きもせずに。
だが、250年前に350年続いた被支配時代。その酷さは筆舌に尽くしがたいものだったらしい。
今なお、フェンデリオルの国のあちこちに、破却された聖殿や神殿が残されており、略奪の限りを尽くされ搾取され続けた当時のその爪痕が、生々しく残されている。
私達フェンデリオル人は髪の色や瞳の色が種類が多岐にわたっている。
だがそれは被支配時代の圧政の忌まわしい遺産なのだ。
偉大な先祖たちは、多大な犠牲をはらみながらも苦難の末に故国を取り戻した。安住の地を手に入れ、それを後世へと残してくれた。
そんな彼らが残してくれた故国を皆で守るために、ある制度が生まれた。それは――
――国民皆兵士制度――
つまり『フェンデリオルの正当な民であるのなら、自らの故国を守る兵士として戦うべきだ』と言う掟。
だからフェンデリオルの人々は誰もが戦うことができる。
武器を持ち、連携し、連帯し、いざという時の困難に立ち向かう覚悟ができている。もちろん私もだ。
そしてこの制度は我が国に他では類を見ない独特な軍事制度を生み出すにいたった。
戦闘を統率し指揮し、戦線を維持する役目の〝正規軍人〟
正規軍人の指揮に従い、戦闘に参加し、時には支援する〝市民義勇兵〟
さらに、常時戦闘に参加可能で最前線での戦闘行動の担い手である〝職業傭兵〟
これら3つの存在が連携して国を守るという【三極軍兵制度】というものだ。
どんなに国民全体で国を守るのがセオリーだとしても、日常生活を放棄してまで軍務に関わることはできない。だが、正規軍人だけでは戦いの担い手は圧倒的に足りない。ならば戦士としての技量を持った人物に報酬を支払って戦ってもらうと言う物だ。
そんな都合のいい話があるものかと普通は思うだろうが、年月を経るうちに〝傭兵として戦う事の意義〟みたいなものが人々の中に芽生えていった。
ある人は、純粋に金のため。
ある人は、戦うこと以外に生きるすべを知らないため。
ある人は、己の武の技を磨きその限界を見極めるため。
ある人は、生まれ故郷の家族や仲間たちを身を持って守るため。
ある人は、薄ら暗い過去から逃れるため。
ある人は、闇の社会から逃れて表社会へと戻るため。
ある人は、罪を償うため。
ある人は、それがフェンデリオルと言う国の正義であると信じているため。
様々な過去を歩いたその末に傭兵稼業へとたどり着くのだ。
今ではフェンデリオルの国のいたる所に、派手な武器を抱えた傭兵たちが誇らしげに闊歩している。
――フェンデリオルに傭兵あり――
あぁ、そうだ。この世界に住まう者なら誰もが知っていることなのだから。
そしてフェンデリオルにはある特別な街があった。
――傭兵の街――
職業傭兵たちが集い暮らし、活動拠点としている軍事支援市街地の事だ。傭兵たちを管理監督する傭兵ギルドが存在し、そのギルドの事務局を中心として街が発達している。
傭兵の街【ブレンデッド】
私、エルスト・ターナーが暮らしている街もそんな傭兵の街の一つだのだ。
街は今日も喧騒に満ちていた。
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