第5話
朝起きて、私は枕元にあった小さな箱を見つけて目を丸くした。蓋を開けると、そこからは華奢で可愛らしいネックレスが現れた。
(これ、私が欲しかったネックレス……)
会社からの帰り道にあるアクセサリーショップのショーウィンドウで見かけて一目惚れしたネックレス。しかし値段が高かったので買うのを諦めたのだ。
送り主が誰かは分かっている。
(こんなに高いものをもらっちゃっていいのかな……)
不安に思ったが、もう彼には会えないことだし、私はありがたく頂いておくことにした。
(今年は本当に素敵なクリスマスだったなあ……)
会社の廊下で昨日のことを思い出し、私は笑みを浮かべる。
(よし、今日からまた頑張ろう!)
そう意気込んで足取り軽く歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おはよう」
私はぱっと振り返る。
「あ、おはようございま……」
そこまで言って言葉を切り、目を見開いた。
目の前にいるスーツ姿の彼。眠たげな顔をしているが、本当はとても賢い彼。それは……
「サンタクロースさん……」
驚いている私にサンタクロースがいたずらっぽく笑ってみせる。
「言っただろ?副業をしてる、ってさ」
「そうです、けど……まさか同じ会社で働いているなんて」
愕然としている私を見ながら彼が続ける。
「俺は隣の部署だから、君のことを元々知ってたけどね。でも残念ながら、君は俺のことなんて全く興味なかったわけだ」
そう彼が拗ねたように言うのを聞いて私は顔を赤くした。
「すみません……」
恥ずかしくなって小声で謝る。
そんな私を見てサンタクロースが声を上げて笑った。
「まあいいけどね」
彼はゆっくり歩いてくると私の胸元を見た。
「そのネックレス、よく似合ってるよ」
そう言われ私は顔を綻ばせる。
「ありがとうございます。……すみません、私までこんなものをもらっちゃって……」
サンタクロースが優しげに笑う。
「プレゼントの種は全員分あるって言っただろ?皆いつも頑張ってるから、プレゼントをあげないとね。君もそう。俺はちゃんと知ってる」
「でも、こんな高価なものを……」と言うと、
「ちゃんと経費で落ちてるから大丈夫」と彼は明るく笑った。
(サンタクロースの世界にも経費があるんだ)と私は驚く。案外サンタクロースというのも私のような社員と変わりがないのかもしれない。
彼は辺りを見回してから私の耳元に口を近づけると、
「来年もお手伝い、頼むよ」と囁いた。
「……私なんかでいいんですか?」
そう尋ねるとサンタクロースが頷いた。
「君がいいんだ。きっと彼も喜ぶし」
彼、という言葉にブラックサンタクロースの顔が浮かぶ。
今度は彼と友達になれるだろうか。
「駄目かい?」
サンタクロースに小首をかしげながら問われて私は慌てて首をふる。
「いえ!私でいいのなら、どんどん使ってください!」
そう言うとサンタクロースはにっこり笑った。
「ありがとう。じゃあ、またね」
そう言うと踵を返してゆっくりと歩き出した。途中で彼が大きなあくびをするのが見えて、私は笑みを漏らす。
来年のクリスマスは、きっともっと素敵なクリスマスになる。
私はまるで子供のように来年のクリスマスを心待ちにしながら、胸元のネックレスにそっと触れた。
メリークリスマス シュレディンガーのうさぎ @kinakoyu
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