第5話 人間vs蟲 その3
「―――清漣雑音―――!」
途端、沸騰していた頭が一気に零下にまでクールダウンする。
圧倒的な暴力。単純なエネルギーではどの生物でも敵わないだろう。
レストランの硝子は悉く砕け散り、耳朶を打つ超音波が三半規管を揺らし気持ち悪くなる。
もはや音として知覚出来ない爆音が身体を震わす。
びしびしと共振によって床や壁が罅割れ、強烈な圧力で吹き飛ばされる。
しかし、大丈夫。
一回目で、その効果範囲は見切ってある。
音は発生源から放射状に進むが、いつまでもそのままで行く訳ではない。飛ぶ距離と温度に反比例してエネルギーは弱くなる。
だが、躱すだけじゃダメだ。私と傷だらけの冬也の戦力と黒塊の戦力差は巨像と蟻の戦いだ。
いずれジリ貧となりあの暴風雨をまともに食らう。
そうなったら助かる見込みはない。
敵は目は見えないが、蟲の感覚器官で自分の周囲にもう獲物は居ないと瞬時に判断。音を止め私たちの方に疾走してくる。
道は一本だ。容易く距離を詰められる。
だけどこれでいいのだ。
さっきの戦いを見たところ、あいつは確りと地面を噛んでいないと超音波攻撃は出来ないように見えた。
それはそうだろう。アレだけの暴力。自分に返って来る反発もすさまじいはず。ならば減滅させるためには強い土台が必要だ。
こうして退いている限りはあの嵐をやり過ごせるのだ。
嵐を前にして唯一の安全圏は、その中心と外側。
「―――ふっ」
私を掴んで後退していた冬也が踵を返して黒塊へと突撃する。
相手は目が見えていない。触角で周囲の状況を把握しているといっても、その動きは多少鈍っている。今なら何とか後退しつつも凌ぐことが出来る。
「ズズズ、ズズズ───!」
敵は遮二無二なって脚を振り回す!
ZAP! ZAP! ZAP!
それを全て冬也のナイフが撃ち落とす!
ついに黒塊の懐にまで飛び込んだ冬也は、その胸部に一閃!
「グッギギギ!」
僅かに刃が通る程度で致命傷には程遠いが、ようやく有効な一撃を与えた!
退いては押し、押しては退き、ヒットアンドアウウェイで少しづつ体力を削ってい
く。
一つも勝るところのない弱者が強者に相対するには徐々にその勝る部分を削るしかない。
うん、ここまでは順調だ。
しかし、この戦法が有効なのは、強者が油断しているときだけ。
攻略戦から殲滅戦に切り替わったときに、ちまちまとした小物の抵抗は終わる。例えるなら蟻がどんなに抵抗しても人間を殺すことは無いように。
黒塊が急停止したかと思うと、遥かに離れたところから超音波を発する。しかし、効果範囲外からの攻撃は無意味だ。
そう判断したのが間違いだった。
きーん、という高音。
あ、ヤバイ。
そう思ったときにはもう手遅れだった。
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