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出国の際の映像を見直された時は心臓が冷えたが、ちゃんと誤魔化したままの姿で記録されていて、男は密かに深く息を吐いた。妻はストレスに堪えきれず体調を崩した。男も日々胃が痛いが、倒れるわけにはいかないと踏ん張っていた。毎日毎日礼拝堂でうずくまり聖霊に祈りを捧げ続けた。なのに、あぁ、何故なのか。疲れてしまった妻が懺悔したのか。それも無理もないことだ、責められはしない。突如押し入ってきた執行官に取り押さえられ、その夫婦は連行されていった。


「行き違い、どうやら誤解があるようです」

柔和な笑みを湛えた司教は、数多のモニターを背にして彼らに語りかけた。

「我等は罪を問うているのではありません。『保護』を申し出ているのです」

司教の微笑みだけを見ればそれはなんとも救いのある言葉に聞こえるが、現状到底そんな風には思えない。教会騎士に囲まれ、身体を拘束されたこの状態では。

「ですが貴殿方は教会に隠し事をしました。嘆かわしいことです。お話をする前に、少し説法を致しましょう。改めて聖霊の素晴らしさを知っていただければ、お気持ちも変わるものと思いますので」

司教が胸の辺り迄手を上げると、教会騎士はふたりを引き立てて行った。

静寂の訪れた室内で、司教は背にしていたモニター群へ目を向ける。

「困りますねぇ。市民の皆様におかれましては、もっと素直であっていただかないと」

滑らせた視線を留めたのは、暗室を映した固定監視画面。簡素なベッド──というよりは台に寝かされた小柄な人影が確認できる。

「特にこんな、国家存続に関わる事態に際しては」




「いやいや、困りますねぇ。こんなことをされては。我々は貴殿方を信用して招き入れているのですが」

「……現場の判断に不適切があった事は認めましょう」

再教育を受けた夫婦は促されるままに全てを口に出し、イェソドは正式にケセド医師会へ抗議を申し立てた。そして会合が開かれたのだが、まさか司教直々に現れるとは思ってもいなかった医師会総長は冷や汗を悟られないようにするのが精一杯だった。

「ええまあ差し当たり、先ずは彼女を返還して頂ければと」

「……それが、その…」

義に走って国交を乱すような判断はしないだろうと踏んでいた司教は、言葉を濁した医師会総長に不審の目を向けた。

「原因究明の旅に出たようでして…」

「本気で言ってらっしゃる?」

「ええはい、残念ながら…本当なんです」



暫しの取引停止を言い渡し、司教は医師会との会合から帰還した。直ぐに国域中に監視網を敷き詰め、態勢を整える。

「竜車でマルクトに向かっているそうですから、見掛けた竜車は全て撃ち落として下さい。生死は気にしなくて結構です。角の生えた少女のみ拾って帰ってきて下さい」

マルクト。国外の人間が、どうその答えに辿り着いたのか。教会上層部の一部しか知らない筈の情報を知ったのか。偶然であればそれに越したことはないが、そんな楽観は非現実だ。

「……塔の魔術師…」

可能性としてはそこだろう。まったく迷惑極まりない。

「困りますねぇ」

司教は何度目とも知れない溜め息を吐いてモニターを見回した。

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