三,for meeting...
二年前の『あの日』から俺は毎日のようにセルヴィーツィオ退治をしてきた。
週に多くて四回。それを深夜の静かな街でやる。時々、行かなくても良いかと思うが、セルヴィーツィオの方が俺の魔力に反応して襲ってくる。
特にムカついたのは中学三年の時の受験シーズン真(ま)っ只(ただ)中(なか)に襲われた時だ。
あれは本気(マジ)で鬱陶(うっとう)しかった。
お陰で志望校もワンランク下げなければいけない状況になってしまった。
(…あのセルヴィーツィオ退治は特に派手だった。)
あの頃はまだ力の扱いに慣れていなくて、退治にも苦労したが今はもう慣れた。
…だが近頃セルヴィーツィオの数が増えて、週四が当たり前、多くて六日。一戦で多くて三匹だったのも、普通に三匹は現れ、多くて六匹だ。
(本当にストレスが溜まる…)
確かにセルヴィーツィオを殺しまくっていると、ストレス発散にはなるが週に四回以上も夜の仕事をしていると眠気が溜まり、勉強も捗らない。
―――最近のセルヴィーツィオ発生率が増えてきている。
(なにか『セルヴィーツィオ』に異変が…?)
「キャ…!」
「…?」
シタクサが考え事をしながらボーっとして歩いていると、曲がり角の所で横から何か軽い『なにか』がぶつかった。
シタクサは普段からセルヴィーツィオ討伐をしている者。多少何かにぶつかっただけでは体は揺れる程度だ。
しかも『なにか』はとても軽い。シタクサは倒れる訳がないが、相手の方は…
「痛ったー……キャッッ!?」
「…?」
シタクサとぶつかり、地に尻をつけていた『なにか』の正体。
それは小さな…小学生ぐらいの女だった。
だが、よく見ると同じ高校の制服を着ていた。
すると、女は突如、顔を赤らめて自分のスカートの股付近を両手バっと抑えた。
(…?)
そして女は俯くと、すぐにこちらを向いて涙目になる。
「み…見た?」
女が気にしていることはだいたい察しがついていた。
「うん。 下着だろ?黒いやつ」
「デリカシーってもんがないんかー!!」
恥ずかしそうに大声を出す女に対し、シタクサは何か悪い事でも言ったのかと頭を悩ます。
女はシタクサの胸をバカバカと言いながらポコポコと叩く。
(なんでこいつはそんなに怒っているのだ…)
シタクサは下着を見られただけでキレるこの女の心情がどうしても分からない。
無関心とはここまで恐ろしいものだと実感する。
女の下着を見るなどのエッチな事に無関心なシタクサは見ただけでは何も反応しない。
よく同じクラスの男子達がスマホにイヤホンを繋いで何かを見ながら興奮していたが、シタクサにはその男子達が馬鹿な発情猿だな程度にしか思っていなかったほどに興味が無かった。
「…ねえ! ねえってば!!」
身長の低い女は未だにシタクサの胸を叩いていた。
(…ん? なんだこれ…)
「ふいゃん!」
「…!?」
女のぶつかった衝動で取れたフードに隠されていた頭。その頭に…獣の耳が付いていた。
「なにすんのよ!」
「気になったから、すまん。…ってかコスプレか?」
そう素直に謝ると女は許してくれたのだろうか、「…そうよ!可愛いでしょ!」と少し、間をあけてから笑顔で答えた。
触ったことにはなんのお咎めもなかった。
だが…
「下着を見た事は忘れろー!!」
そう言って殴りかかってきた。
(こいつ…めんどくせぇ)
シタクサはそんな事を思いながらズボンのポッケからスマホを取り出す。
そして、電源を付けると画面に表示された数字。
『八時時二十分』
「ちょっ…!?」
時計を見た瞬間、シタクサは走り出す。
「ちょっ…ちょっと!!」
後ろで女は何かを言っているが全力で走るシタクサは女の事など気にする余裕は無かった。
「―――ふぅ…。 セーフ…」
息を切らせながらシタクサはスマホに表示された時計を眺める。
(二十三分…あと2分遅れていたら遅刻だった…)
「ち…ちょっと!!」
シタクサはそう安心していると、後ろからも息を切らせる声が聞こえてくる。
(雑音に等しい奴が来た…)
シタクサはそう面倒くさそうに声の主の方を見る。
そして、ジッと女の顔を見つめていた。
すると、女は顔を赤らめて言った。
「え、なに? 私が可愛いのは知ってるけど、そんなに見つめられると照れる…」
(しばいたろか)
シタクサはそう思いながら、照れている勘違い女に問う。
「お前、同じクラスの奴だよな?」
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