テレビと師匠夫妻と探索者PTと英雄達



 きよし叔父さん、映画の世界に来たような、現実感の無い気分になりました。


 貴方がずっと目指してた、放送関係の仕事に就業出来たのでしょうか?


 受験勉強中に、息抜きに見た叔父さんの動画の再生回数は、どれも300回以下のものばかりでしたが僕は好きでしたよ。


 でも僕は、面白動画よりカッコイイ動画の方が好きかもです。


  風間拓斗の当時の心の声を一部抜粋




 権之助師匠とアマリエッタさんは、僕の隣の部屋に、住み込みで護衛してくれるみたいだ。

 一人暮らしなんて、不安しか無いから僕としては嬉しい。


「魔力を使うって簡単なんですね、と言うか触るだけで良いなんて……。」


 健康体になっただけかと思ってたんだけど、体の仕様書ってのを貰ったから確認してみたんだけど、地球人には付いてない内臓が1つ付いてた。


魔臓まぞう魔管まかんって凄く便利な気がしますけど、使う事にデメリットって無いんですか?」


 心臓の真横にある魔力を貯める袋みたいな魔臓と、全身に貼り巡ってる血管と繋がる魔管、どちらも魔法を使うのに必要な器官らしい。


「一応あるわよ、使い過ぎると眠くなるとか、気絶するとかね。」


「他にもな、使い過ぎると朝勃ちしなくなるぞ。」


 アマリエッタさんの言葉は、忘れないでおこうと思った。

 師匠のは、どうでもいい豆知識だな。


「息をするのと同じように、勝手に理解出来ちゃうのよね、異世界こっちの体に作り替えられたら。」


 アマリエッタさんに言われた通りなんだ、普通に指先から出したり、全身に張り巡らさせたり出来るようになってた。


「レベルが上がって魔力が増えたら、体の頑丈さも変わって来るでのう、都度確認は怠らん事じゃ。」


 おお!魔力が増えたら強くなるなんて。


「今はまだ、家電くらいしか動かせ無いけど、そのうちエレベーターくらいなら、楽に動かせるようになるわよ。」


 師匠夫妻と一緒に、コタツに入って雑談をしてたんだけど、急に師匠がテレビを付けたんだ。

 僕の部屋のテレビは、19インチくらいの小さなテレビだったけど、8畳の部屋に師匠夫妻が持ち込んだテレビは、60インチくらいある大きいので、大きめのスピーカーも付いてた。


「本日のオススメ動画が公開される時間じゃからのう。寝る前にオススメ動画を見んと眠れんのじゃよ。気になってな。」


 冒険者になって動画に出演するんだよな僕も……。


 そんな事を考えてたら、“神殺しの刃・イーストタウン特級ダンジョン最深部攻略動画”と書いてあるサムネイルの下に、本日のオススメ動画って書いてあった。


「あれ?これってアマリエッタさんとか、ボンゴさんとシャミィさん達のパーティーですよね?」


「おお、イーストと言う事は先日のやつか。レオニダスは強かったじゃろう?」


 アマリエッタさんが、俺を見てニコって笑った後に。


「まだまだ特級の完全攻略は無理だわ、どうやっても勝てる光景が浮かばないもの。」


 アレ?確かボンゴさん達のパーティーって……

そんな事を考えようとしたら動画が始まった。

 動画の冒頭に入ってたCMは、白い猪が沖縄旅行を勧めてるCMだった。




 始まった動画は凄い迫力だった。


「さっきのチャイナドレスと違いますね。」


 師匠と模擬戦をした時は、青のチャイナドレスだったアマリエッタさんが、紫のチャイナドレスを着てた。


「あのドレスが、持ってる中で1番防御力が高くて、敏捷性の上昇率が高いのよ。」


 さっきの模擬戦は、本気じゃ無かったのかな?


「でも、あのドレスはPTプレイ専用装備だから、ソロだと使えないのよね。」


 専用装備とかあるんだな。


「シャミィさんなんか、ほとんど裸じゃないですか。」


 シャミィさんは、迷彩柄の水着で、ごついブーツを履いてて、左手にギザギザの刃が付いたメリケンサック、右手は何も付けてない。


「シャミィは、アマゾネスだからね。種族特性で、薄着であればある程、防御力が上がるのよ。」


 種族特性か、人間だと何があるんだろ?


「あの猫耳の人は?」


 猫耳で、ほっぺたから長い髭が数本生えてる女の人も居る。

手に持ってるのはサイの二刀流だけど、左右で形が違うし、着てる服も忍者みたいだ。


「あれはターニャっていう、元日本人の猫獣人よ。結婚してて子供も4人居るわ。」


 獣人も居るんだな。


「てもボンゴさんが1番強そう……。」


 ボンゴさんは、両手にトンファーを持ってるんだ。

右手は長い方が扇型になってて、左手は長い方が両刃の剣になってるやつ。


「そりゃリーダーだもの強いわよ。1対1だとシャミィで3回に1回くらいしか勝てないもの。回復魔法ありでもね。」


 シャミィさんってヒーラーなんだよな……。


「さあ、ここからの質問は後にするんじゃ。テルモピレーフィールドの戦いなんぞ滅多に見られんぞ。」


 レオニダス……テルモピレー……


「スパルタ?」


 師匠とアマリエッタさんから同時にシーってされた。




 動画の内容は圧巻だった。


 筋肉ムキムキの大きな白人さんが、ダンジョンボスのレオニダスさんらしい。

 その周りに沢山の、緑色の肌で角が付いた槍と盾を持ったモンスター達が陣形を組んでる。


「凄い……あんなのと戦うんですか……」


 動画の下の方に字幕が付いてて、英雄レオニダス率いるホブゴブリン300人って書いてある。


 そこにボンゴさんが突撃して行くんだけど、アマリエッタさんが模擬戦では2つだった黄色い玉を、まるでジャグリングの大道芸人のように沢山浮かべて乱射して弾幕を貼って、突撃するボンゴさんの姿を上手く隠してる。


 アマリエッタさんの弾幕の爆風を、微動だにせず鉄の盾を構えたホブゴブリン達が受け止めて、ボンゴさんの突撃を受け止めようとしてる。


 身長が190cmくらいあって、お相撲さんみたいに巨漢なボンゴさんは、巨大とは裏腹に凄い俊足で、シャミィさんとミーニャさんを後ろに引き連れて、槍と盾を構えたホブゴブリンの最前列に突撃して行った。


 大きなスピーカーから大迫力の怒号とぶつかり合う音がしてビックリしたけど、それ以上にビックリしたのが。


「凄い、沢山槍が刺さってるのに、一気に押し込んだ。」


 ボンゴさんが右手の扇形のトンファーを振り回して、最前列からどんどん陣形の中に入って行く。

 そしてその背中をシャミィさんが殴り続けてる、ハイヒールって叫びながら。


「なんでハイヒールがパンチなんですか?」


 師匠は、動画に集中してるみたいで、僕の声は全く聞こえてないみたいだ。

アマリエッタさんが教えてくれた。


「シャミィは、種族特性で対象に触れてないと魔法が発動出来ないのよ。触れるのに1番速くて、連打の出来る右手のジャブがシャミィのハイヒールなの。殴る威力もボンゴの突撃に一躍かってるわ。」


 よく見たらシャミィさんが殴る度に、ボンゴさんの突進力が増してる気がする。


 ホブゴブリンに突撃して行った3人の後ろから、アマリエッタさんも陣形の切れ目を狙って中に入っていく。

 両手で回してる黄色の玉を乱射しながら。


 それを見て師匠が呟いた。


「いかんのう、すり潰されるぞい。」


 今までは、探索者側からの映像だったのが、突然モンスター側の映像に切り替わった。


 そしたら……


「抜刀、すり潰せ!」


 筋肉ムキムキの白人さんが、ホブゴブリンに向かって、大きな声で指示を出した瞬間に、ホブゴブリンさん達が槍を片手剣に持ち替えた。


 その瞬間を狙ってたかのように、持ち手に紐が付いてる釵を投げて、ホブゴブリンに突き刺さった釵を軸に飛び上がるミーニャさん。

ホブゴブリンの頭を足場にしながら、空中を飛び回って一体一体の首に釵を突き立てて光る粒子に変えていく。


 ボンゴさんの右手の扇形のトンファーは盾みたく使う事が出来るらしく、受け止めて左手のトンファーひと薙で、ホブゴブリン達を数人同時に切り裂いて、光る粒子に変えて行った。


 アマリエッタさんも負けちゃいない、沢山浮かべてた黄色の玉を2個だけにして、縦に横に跳ね回りながら、直接叩き込んでホブゴブリンを爆散させてる。


 そんな3人の背中に、縦横無尽に駆け回りながらハイヒールを当てつつ、左手のメリケンサックで、ホブゴブリンの顔を一撃毎に爆散させるシャミィさんが圧巻だった。


 探索者PTが返り血まみれになりながら、ホブゴブリンを殲滅したのは30分くらい、だけど無傷で英雄レオニダスが残ってる……


「もう少し、時間を掛けてじっくり戦うべきじゃったのう。この状態じゃ、どう足掻いてもレオニダスには勝てんわい。」


 え?見てなかったの師匠、凄かったよ探索者PT全員が。


「そうなのよ、この時点でシャミィの分だけでも、エリクサーが残ってれば勝てたのかもしれないけど、この階層に辿り着く前に、全部使っちゃったわ。」


 凄かった、アマリエッタさんの言葉の後が凄かった。


 人間だったはずの英雄レオニダスが、咆哮を上げたと思ったら厳つい鬼みたいな見た目になった。


 盾と片手剣を構えて、ボンゴさんの突進を盾でいなしながら、背中を一閃した。

ボンゴさんも分かってたみたいで背中にトンファーを回してたけど、トンファーごと背中にめり込んで、そのまま真っ二つに切り裂かれた。


 ボンゴさんが切られてる間に、ミーニャさんが紐付きの釵を、鬼みたくなった英雄レオニダスの胸に投げて突き刺したけど、腕に固定してあった紐を一気に引き寄せられて首元に一閃。


 ボンゴさんとミーニャさん、二人同時に光の粒子に変わっていった。


 アマリエッタさんが、沢山黄色の玉を浮かべて上下前後左右、多方向から狙ってるけど、真っ直ぐシャミィさんの方に向かって走りながら、前に来た玉だけを切り捨てる英雄レオニダス。


 そのままシャミィさんの目の前まで迫ったんだけど、メリケンサックの一撃を喰らいながら腹部を一閃。

 その場で盾をアマリエッタさんに向かって投げたと思ったら、一足飛びに飛びついて、アマリエッタさんの胸に剣を突き立てて、シャミィさんもアマリエッタさんも光の粒子に変わってしまった。


「凄い……。神殺しの刃の皆さんも凄かったけど、ダンジョンボスとかモンスターさん達も、凄くカッコよかったし強かった……。」


「あと少しボンゴが耐えてくれたら、釵に電撃を通して、少しくらいはレオニダスの動きを阻害出来たのにね。惜しかったわ。」



 師匠もダンジョンボスなんだよな?


「師匠も上級ダンジョンのボスなんですよね?あんな感じで戦うんですか?変身とか出来るんですか?」


 ニヤって笑った師匠が教えてくれた。


「今の動画は特級ダンジョンなんじゃが、5つあるダンジョンタウンの中で最難関の特級ダンジョンは、各街に1つだけなんじゃ。ワシは一つ下のランクのセントラルの1級ダンジョンのボスじゃよ。」


 おお!凄い!


「変身後の姿はナイショじゃ。」


 うわあ教えて欲しい。


「他にはどんなダンジョンボスさんが居るんですか?」


 でもこっちも気になる。


「各街の特級ダンジョンのボスじゃが、イーストのボスはスパルタのレオニダス。さっき見たあれじゃ。」


 うん、その人は覚えた。凄かった。


「サウスのボスは中華最強・呂布奉先。強いぞ、あ奴の率いるケンタウロス軍団は。」


 うわ!三国志で最強の武将だ。しかもケンタウロス軍団を従えてるとかヤバい!見たい。


「ウエストのボス日本一の剣豪、二天一流・宮本武蔵。武蔵殿はソロ攻略専用じゃ。」


 うわあ、変身する宮本武蔵とか見てみたい。変身しなくても強そうだけど。


「ノースのボスはプロレスの神様・カール・ゴッチじゃよ。あやつはソロ攻略限定で、なおかつ素手限定じゃ。」


 あれ?1人だけ毛色が違う気が……。


「1人だけとか思ったじゃろ?カール・ゴッチは強いぞ。素手で1対1なら誰も叶わん程にな。」


 確かに変身するボスと素手でやり合うとか……無謀だよな。


「セントラルの特級ダンジョンのボスは非公開じゃ。これは辿り着いた者しか知っていい物では無いからのう。」


「まだ誰も見た事が無いのよ。四方の特級ダンジョンを攻略しないと、最深部の門が開かない仕組みになってるから。」


 うわ、なんか凄そう……。


「ワシは1級ダンジョンボスじゃがの、1級ダンジョンなんてもんは、各街に4箇所ずつあるわい、それ程珍しいもんじゃ無いぞ。」


「1級と特級は、どれくらいの実力差があるんですか?」


 凄く気になったから聞いてみた。


「殆ど無いのう。あるとすれば、最深部に行き着く迄の階層の数くらいじゃの。」


「殆どの冒険者は、2級ダンジョンまでで条件達成しちゃうから、1級や特級に挑むパーティーなんか、探索者ランキング掲示板の上位20組くらいよ。」


 僕には無理かな……チートなんて貰ってないし。


「未だに転移者PTで、1級をクリアした者はおらんからのう。」


「1級以上に挑みたければ、転生者が条件達成して探索者になった後に、能力上限解放しなきゃ無理よ。」


 凄い世界で生きてるんだな、師匠夫妻は。


「でもアマリエッタさんと師匠って夫婦なんですよね?ダンジョンボスと探索者って結婚出来るんですか?」


 アマリエッタさんがにこやかに微笑みながら。


「条件達成の時に、権ちゃんと結婚したいって願ったの。だからちゃんとした夫婦なのよ私達は。」


 なんて言ってイチャつき始めた……。


 自室に戻ってベッドに寝転んだら、寝苦しいし息苦しい。


 布団が状態異常を掛けてくるなんて酷いよ。

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