地獄より招かれた英雄・夢想権之助と夢想流棒術
父さんが目が見えていた頃に集めていた、少年漫画に出てきそうなくらいに、凄い棒術使いに出会いました。
夢想権之助って言う、江戸時代に生きていたお爺さんです。
宮本武蔵と戦って、五体満足で生き延びるくらいに強い人らしいですけど、普段は魚とお酒が大好きなお爺さんです。
奥さんが、サキュバスさんなのにもビックリですが、念糸棍を軽々と連打する凄いお爺さんを見て僕はワクワクしています。
風間拓斗の当時の心の声を一部抜粋
目が覚めたら椅子に座っていて、目の前にさっきの長髪イケメンのロキ様が、その隣に短髪イケメンさんが座ってた。
「どうだ?体に違和感が無いか?」
あっそうだ! 健康体に…………
「指が……全部ある……全部動く……」
ほら鏡と言って渡された手鏡を見たら……
「火傷の痕も無くなってる……。」
「欠損していた肺も、骨の異常も治っている。体の成長度合いは、先天的な異常が無い物を参考にして再生長しているから背も伸びているぞ。」
え?これ以上大きくなれないだろうって言われてたのに……。
「158cmくらいはあるな、少し小さめだが成長期が遅めに来る家系だから、まだまだ伸びるだろう。」
夢だよな?……。
「さあ、説明会の最後にコレを渡しておこう。」
短髪の神様から、がま口財布みたいなのと、カードを1枚貰った。
「そのカードは半年後に冒険者登録する時に必要になってくる。その時までに発動したスキルや技術等が裏面に記載されて行くから、ちょくちょく確認すると良いぞ。」
おお!ステータスカードってやつだ。
「そんで、そっちのがま口財布が
ロキ様から言われた通りに試してみる。
頭の中にウインドウが現れたけど……。
「レベルが1つ上がる毎に、1つずつ入る種類が増える仕様だ。お前は、まだレベル1だから1種類99個迄しか入らんがな。」
ロキ様の説明通りだと、レベル上げにも楽しみがあるって事だな。
「それじゃこれでお前への説明会は終わりだ。この世界がどんな世界なのかは、半年の研修で色々と知る事になる。」
短髪の神様とロキ様が、またなって言いながら部屋から出ていった。
「はははっ、ホントに治ってるよ……僕の指……。」
小学生の頃に火事で大火傷をして、切り落とすしか無かった僕の手と足の指が……
ちゃんと動く……。
「あっ、服が無い…………。」
さっき脱いだ服は、机の上に置いてあったはずなのに。机どころか、僕の座ってる椅子以外が何も無い……。
「これってどうすれば……。」
股間を手で隠しながら、ドアをそっと開けてみた……。
「あら、たっくん。
「アマリエッタさん、違います、服が無いんです。」
少し頭を傾けたアマリエッタさんがピンと来たらしい。
「タンスに転移しちゃってるかもね、取ってこようか?」
お願いしますって答えた。でもタンスに転移ってどう言うことだよ!
アマリエッタさんが服を持ってきてくれたんだけど、着る時に色々確認してみた。
全身に散らばってた火傷の痕が全部綺麗になってた、そして股間がもじゃもじゃに……。
「生えてる……ちん毛が……。」
実を言うとちん毛って、うぶ毛しか生えて無かったんだ。
「アマリエッタさんを待たせるのもなんだな……。」
急いで服を着込んで、ドアを開けたら。
「ふむ、この小僧が棒術に憧れている少年か……。うむ、鍛えてやろうワシが。」
アマリエッタさんに密着されてるお爺さんが居た。
一応挨拶しないとかな?
「風間拓斗です。よろしくお願いします。」
ニヤリと笑ったお爺さんがアマリエッタさんの胸を潰している手を引き抜いて、握手を求めてきた……。
スカッ……
「すきあり!」
うひゃ!ち〇ちん掴まれた。
「何するんですか! やめて下さい。」
ニヤニヤ笑いながら、こっちを見ているお爺さん……
小学生か!
「ワシはアマリエッタの旦那で、棒術道場を営んどる、夢想権之助じゃ。よろしくのう。」
え?アマリエッタさんの旦那さん?歳の差って…………。
「たっくん、私とゴンちゃんは同い歳よ。私はサキュバスだから見た目は若いままだけど。」
え? なんですと!
唖然としながら2人に連れられて、部屋まで戻った。
アマリエッタさんの後ろ姿は、お尻からツヤツヤな細い尻尾が生えてて、夢想権之助って名乗ったお爺さんの
部屋に戻ったら、8畳の方の部屋がフローリングから畳に変わってて、ちゃぶ台と座布団があって、3人分の食事が用意してあった。
「たっくんは、お魚大丈夫?」
「よほど特殊な魚じゃ無い限り大丈夫です。」
前に食べさせて貰った
「 最近の若い子は、お魚嫌いが多いから心配だったんだけど。大丈夫なら良かった。」
3人でご飯を食べてたら、アマリエッタさんの旦那さんが。
「お主は、棍や槍に適切があるらしいの、どうじゃ?ウチで棒術や槍術を習わんか?」
って聞いてくれた。
「僕でもカッコよく棍で戦えますか?」
「カッコよくは分からんが、強くはなれるぞ。」
棍で石に穴を開けられるのかな?
「漫画で見た
「年始婚?どんな技じゃ?」
あ!タブレットがあるんだ。
思い出して、自分の部屋からタブレットを持ってきた。
「アマリエッタさん使い方を教えて下さい。」
アマリエッタさんに魔力の使い方を教えて貰いながら、お爺さんに鉄拳チ〇ミのシーファン回を読んで貰った。
「ふむ、棍をねじって貫通力を上げるのか。余裕じゃの。」
なんですと! 余裕なのかってビックリしてたら。
「飯を食ったら、修練場にでも行くかのう、いっちょうカッコイイ所を見せておかねば。」
そう言ってニカッと笑ったお爺さん。
その時は、漫画だよ?出来るわけないじゃん、そんな事を考えてた。
ドガっ! ドガっ! ドガっ!
お爺さんが1.5mくらいの木の棍を振り回して石を突いて行く、1発毎に石に穴を開けながら……。
「意外と簡単だのう、しかしタメが必要じゃから実践で使うには少し工夫が必要じゃのう。」
流れるような動きで、すり足のまま移動するお爺さん、大き目の石がある度にドガって音をさせながら念糸棍で石に穴を開けていくのが凄い。
「ほれ、お前もテキトーに振ってみろ。」
そう言われて棍を渡された。
こんなの持つの初めてだ、少しだけ嬉しい。
「はい!やってみます。」
カコッ…… スカッ…… スカッ……
「当たりません……。当たっても……。」
「まっ、最初のウチはそんなもんじゃ。習うなら型から教えてやるがどうする?」
もちろん教えて貰いたい!だから。
「お願いします。弟子にしてください。」
「今日から師匠と呼べ。お主の事は拓斗と呼ぶ。よろしくのう拓斗。」
「よろしくお願いします、師匠!」
動いても息切れしない胸も、踏ん張っても大丈夫な足も、強く握らなくても棍がすっぽ抜け無い手も、全部含めてワクワクが止まらない。
棍を使って色々動いてみたら、手と足の動きがバラバラだから、バランスを崩して、上手く狙った所に行かないってアドバイスしてもらった。
「どれ、いっちょう模擬戦でもみせてやるかのう、アマリエッタ良いか?」
アマリエッタさんがチャイナドレス姿になってる……。
え?アマリエッタさんと戦うの?
「ええ、ゴンちゃん何時でも。」
棍を構えた師匠と、チャイナドレスで、両手に黄色に光る玉を持ったアマリエッタさんが、じわりじわりと動き出す。
「フンっ!」
左半身を前に出してた師匠が1歩飛び込んだら、まだ5mくらいは離れてるアマリエッタさんが横に飛んだ……。
飛ぶ前に居た場所に、念糸棍みたいにねじりながら棍が突き出された後に、アマリエッタさんの左手にあった黄色い玉が師匠目掛けて飛んでいく。
それをハッって言いながら棍で撃ち落とす師匠。
撃ち落とした瞬間、凄い閃光と共にドガンって感じの轟音が鳴り響く。
「何これ凄い……。」
殆どすり足のはずの師匠は、走ってるのと変わらない速度で地面を滑るように移動してるし、アマリエッタさんは、羽でも生えてるんじゃ無いだろうか?ってくらい、空中で姿勢を変えながら飛び回って両手に持つ黄色の玉を師匠に投げている……。
アマリエッタさんの投げる黄色の玉は、ホーミング機能でも付いてるかのように、曲がりながら師匠目掛けて飛んでいくし、飛んで来た玉が真後ろからでも、棍を使って撃ち落とす師匠。
「あれ?でもこれってヤバくない?」
修練場の壁に、アマリエッタさんの投げる玉が、師匠の突き出す棍がボコボコに穴を開けていく。
「よし、小手先の技はここまでじゃ、本気で行くぞい。」
師匠が本気とか言ったら、念糸棍を使わなくなった。
動きが段違いに早くなった師匠。
どんどんアマリエッタさんが壁際に追い詰められて行く。
「ふっ、ゴンちゃん、
アマリエッタさんが両手に持ってた黄色の玉同士をぶつけて、今までで1番眩しい光を作り出した。
「何をする!目がぁ目がぁ!」
ム〇カ? 師匠が負けちゃったのかな?
と思ったけど、師匠がアマリエッタさんを抱き上げて、ワシの勝ちとか言いながら勝ちを宣言してた。
「むう……拓斗、世間が黄色いぞ。」
「でしょうね、凄く黄色く光って眩しかったですもん。」
遠目に見てた僕でさえ、目の前が黄色に滲んでるんだもん、近くで食らった師匠なら世間が黄色くても仕方ないよね。
「極めれば、チート無しでもこれくらいは出来る。頑張ってみるか?」
「はい! よろしくお願いします。」
チート無しなんて凄い!確かアマリエッタさんは転生者だからチート有りなんだもんな。
「やっぱり連携しないと、上級ダンジョンボスには叶わないわね。いつかソロで倒してやるんだから。」
え?ダンジョンボス?
「その辺も、ゆっくり説明してやらねばのう。風呂に行ってから部屋に戻るか。」
お風呂は修練場を出てすぐの所にあった、権之助師匠と2人で男湯の暖簾をくぐって脱衣所に入ったら、タオルも石鹸も持ってない事に気付いた。
「タオルとかシャンプーとか、どうすれば良いですか?」
「
おお!手ぶらでいいのか。
「ワシの弟子になるなら、ちゃんと説明しとかなきゃならん事があっての、アマリエッタには聞かせたく無いんじゃよ。」
なんの事だろ?
「とりあえず入るか。」
裸になった師匠は、全身傷だらけだった。
備え付けのボディタオルで体を洗ってたら。
「数日後に講習で習う事でな、ワシら武術講師の事は過去の英雄と教えて貰うはずなのだがの、それは間違いじゃ。」
英雄?間違い?
「ワシだけじゃないぞ、戦いに身を置いて、
師匠の洗う手が止まった……。
「ワシら英雄達は全員、地獄の修羅道から連れてこられた罪人じゃ。自分の強くなりたいと言う欲望の為に、他者の命を奪った大罪人じゃよ。」
大罪人……?
「ワシはな、棒術に行き着くまで槍を使って人殺しをしておった。剣豪と呼ばれる者や、武芸者と呼ばれる者を、立身出世の為にな。」
人殺し……。
「多数の命を奪った事をずっと後悔しておった。そんなある日じゃ、天啓を受けた。」
少しだけ声のトーンが高くなった。
「敵を殺すのが武術じゃろう?だがな、捕縛する、無力化する、そんな武術があっても良いんじゃなかろうか?と常々思っておった時に天啓を受けたんじゃ、木の棒に持ち替えなさいとな。」
お爺さんだけど、なんかカッコイイ……。
「ワシが教えるのは槍術も棒術も殺さずに捕縛する技じゃ。応用すれば殺す事も出来るが、基本的には捕縛の為の武術じゃ。それでもワシの修行を受けるか?」
受けるに決まってる、だって念糸棍が使えるようになるんだよ!だから……
「はい!受けたいです。よろしくお願いします師匠。」
って答えといた。
ニヤリと笑った師匠がいきなり、洗面器に入ったお湯を僕にぶっかけて来た……。
「冷たい! みず!水じゃないですか!」
ガハハと笑いながら湯船に向かう師匠の背中には、ひとつの傷も無かった。
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